日本料理を構成する要素に「五味・五法・五色」がある。それは、旬の食材を使い、季節感や自然との調和を重んじる日本料理には欠かせない大切な考え方。五味は「辛味、甘味、塩味、酸味、苦味」を、五法は「切る(生食も含む)、煮る、焼く、蒸す、揚げる」をそれぞれ指し、五色は「白、黒、黄、赤、青(緑)」で、器の色や料理に添えるあしらいなど献立の演出に大切な役割を果たす。そして五味と同じくらい重要視されるのがだしに多く含まれるうま味であり、6つの味のバランスが日本料理の味を特徴付けている。うま味が池田菊苗博士により発見されたのは1908 年。道元禅師が13世紀に著した『典座教訓』には、五味に淡味を加えた「六味」という言葉がすでに示されている。淡味とはかすかに感じられる味、素材の持ち味を活かす味とされ、うま味に近いもの。日本料理ではうま味がほかの味を包みこみ、料理全体で味のハーモニーを生みだす。素材のよさを引きだすうま味の使い方を知ることで、料理の技術力は大きく伸びるはず。まずは、日本料理特有のだしを学び、日本料理の基本を識ることから始めてはいかが。
昆布のおもな産地は北海道で、利尻昆布、真昆布、羅臼昆布、日高昆布、長昆布、がごめ昆布がある。
利尻昆布は礼文島の香深浜が最上級の産地として知られ、京都の多くの料理店で使用されている。利尻昆布の特徴は、繊維が硬く幅も狭いこと。だしの主要成分であるグルタミン酸が抽出されにくいが、60℃前後でじっくりうま味成分を抽出することで、アルギン酸やフコイダンなどぬめりの成分も少なく、澄んだクセのない上品なだしがとれる。
真昆布は津軽海峡および函館を含む道南で収穫される。利尻昆布と並ぶ高級昆布で、利尻昆布が京都で愛用されるのに対し、真昆布は大阪で愛用される傾向がある。利尻昆布よりも繊維がやわらかく、比較的うま味成分であるグルタミン酸が抽出されやすいが、そのほかにアミノ酸の一種であるプロリンも含まれ、このアミノ酸によるマイルドな甘味を持つのが真昆布のだしの特徴。幅が若干広めで大きく立派なものが多く、献上昆布や縁起物としても愛用されている。
羅臼昆布は北海道の知床半島の太平洋岸で収穫される。繊維は非常にやわらかく、うま味成分が抽出されやすいとともに、粘りの成分も抽出されやすい。そのため、利尻昆布や真昆布に比べると若干にごりがあるが、濃厚なだしがとれるのが特徴で、味噌汁や煮物に適している。幅が広く薄い昆布の特徴を活かして、昆布締めや昆布巻きなど、だし以外の用途にも使われる。
日高昆布は襟裳岬、日高地方の沿岸で収穫される昆布。肉厚で繊維がやわらかく、だし素材のほか、煮昆布、昆布巻き、松前漬けなど食べる昆布としても使われる。
だしの色や香りはそれぞれに特徴があるので、どの昆布をどのように使用するかは各料理店の主人がこだわるところ。また、昆布に含まれるうま味成分の量は収穫年によっても変動するため、料理店の主人たちは、その年に収穫された昆布のだしの味質を入念に吟味し、水に対する昆布の使用量や加熱温度、加熱時間などを調整するなどして、各店のだしの味を守っている。
鰹節は日本料理のだし素材として使われる節類の代表的な素材。鰹節に使用されるカツオはあまり脂がのりすぎていないものが良いとされる。鰹節にする際には多少の脂肪分も品質の劣化につながるので、焙乾の工程で丁寧に除去される。鰹節は世界でもっとも硬い食品といわれるほど水分が少なく、カツオの生肉の水分含量が約75パーセントであるのに対し、煮熟した状態で70パーセント、荒節で35パーセント、カビ付けの状態では20パーセント、本枯節で15パーセントと製造工程が進むにつれて水分含量が減少していく。
鰹節に脂肪分が含まれていると、だしのにごりや生臭さの原因となったり、きれいに薄く削れず粉状になってしまったりするので、鰹節づくりにはカツオの選定も重要。鰹節にはカビ付けをせず、焙乾とあん蒸を終えた段階の荒節と、これをさらに何度かカビ付けを行った枯節がある。荒節よりも枯節のほうが水分が少なくうま味成分も濃縮されているので、うま味の強いだしがとれる。また、枯節の場合は何度も繰り返されるカビ付けの工程を経ることで香りが荒節よりもマイルドであるのが特徴。
荒節や枯節を薄く削った状態のものが削り節。削り節は削り方によって厚さが異なる。日本料理の吸物は鰹節の香りとうま味のバランスが重視されるが、この場合には非常に薄く削った削り節が使用される。薄く削ることで同じ重さの削り節でも厚く削ったものよりも表面積が大きくなり、短時間で効率よくうま味を抽出し香りをだしに移すことができる。
長時間煮出してじっくり濃厚なうま味を抽出する場合には厚削りの荒節が使われる。うま味をじっくり煮出しているあいだに香りは飛んでしまうが、蕎麦などのつけ汁として使用されることが多く、蕎麦の香りを引きたててくれるだしとなる。
鰹節は店ごとに使用する節類やその量が異なる。節類だけではなく、使用する昆布の種類や量も店ごとに異なるので、店独自のだしの味があり、その店の特徴を出す決め手になる。
次ページ:一番だしをとる