サンデーローストは英国の日曜になくてはならないご馳走

イギリスで日曜日を過ごすことがあれば、ぜひパブやレストランを訪れてほしい。オーブンにいれ、じっくりとローストした美味しい肉料理と、オールスター野菜たちが出迎えてくれる。

イギリスで日曜日を過ごすことがあれば、ぜひパブやレストランを訪れてほしい。オーブンにいれ、じっくりとローストした美味しい肉料理と、オールスター野菜たちが出迎えてくれる。

先日の日曜日、活気あふれる南ロンドンのブリクストンを訪れた。エリアで人気のビストロ・バー、The Laundryでサンデーローストを楽しむためだ。

ブリクストンは今、ロンドンで最も注目されている多民族エリア。エキゾチックな野菜やフルーツを扱う小さな八百屋や雑貨店、品揃え豊富な魚屋や肉屋はもちろん、飲食店ならスタートアップからミシュラン級のレストランまで、小さな店舗がわい雑にひしめくマーケットがその中心にある。

マーケットの脇でいつも賑わっている注目のバー、The Laundryは2019年11月、まさにパンデミック直前に創業した。ワインに精通したニュージーランド出身のオーナー女性、メラニー・ブラウンさんが自身の知識と経験を生かし、鮮やかなキーウィー風ブランチや季節の小皿料理を提供している人気店だ。

ここのサンデーローストが評判だと聞きつけた私は、ぜひ試してみたいと思った。

エドワード王朝時代に建てられた美しい歴史的な建物を利用したビストロ・バー。
エドワード王朝時代に建てられた美しい歴史的な建物を利用したビストロ・バー。

「サンデーロースト」は、日曜のイギリスで絶対に欠かせないものだ。日曜日のパブを訪れたらほぼ100パーセントの確率で出会う英国食カルチャーの象徴。

その昔、イギリスでは地主が小作人をねぎらって日曜日に肉のロースト料理をふるまったという。当時としても、そして今もローストはこの国のご馳走で、品数やバランスから言うと日本の豪華幕の内弁当のようなものだろうか。今も日曜だけ食べられるサンデーローストは、イギリス人たちの大・大・大好物なのである。

肉はビーフ、ポーク、チキンなど。これらをオーブンで焼いたものにジャガイモやニンジンなどの根菜をつけあわせ、ヨークシャープディングと呼ばれるシュー生地のようなカップ型の薄いパンのようなものをお皿の脇に飾り、ロースト後のトレイに残った肉汁にトロミをつけて作る温かいグレービーソースをかけていただく。これがサンデーローストの基本。

ローストビーフについては、皆さんもよくご存知だろう。大きな塊肉をじっくりとオーブンで焼き、中がピンク色に仕上がるよう火入れを調整する。薄くスライスして鼻にツンとくる辛味のホースラディッシュ・ソースでいただくのがお約束。ポークはバラ肉が好んで使われ、皮をカリカリに焼くのがよしとされ、伝統的にはアップル・ソースを添える。鶏肉の場合は半身を丸ごと豪快に焼き上げ、たっぷりのグレービーソースやマスタードと一緒にいただく。

The Laundryは、エドワード王朝時代に建てられた美しい歴史的な建物を利用したビストロ・バー。
The Laundryは、エドワード王朝時代に建てられた美しい歴史的な建物を利用したビストロ・バー。
パティオ席は寒い季節も暖房を設置してフル稼働。
パティオ席は寒い季節も暖房を設置してフル稼働。
ピンク色のローストビーフ!
ピンク色のローストビーフ!

一般的に肉料理のメニューの下には「Our roast comes with all the trimmings」(定番の付け合わせと一緒に)と誇らしげに書かれている。私は勝手に「オールスター野菜」のようなイメージだと思っている。ポテト、ニンジン、パースニップなどがお決まりで、彩りとしてブロッコリーやグリンピースが加わることもある。

そしてイギリス人たちはローストポテトにうるさい。ローストに適した品種(マリスパイパーやキングエドワードなど)を使い、牛脂などで表面をカリっとさせ、中をホクホクに仕上げるのがシェフの腕の見せどころ。ニンジンは茹でてある場合もあるが、オーブンでじっくりと火を通した甘みの強いニンジンは最高。日本ではあまり馴染みのないパースニップは冬野菜なので、ロースト料理が特に秋から冬にかけてのご馳走であることがお分かりいただけるだろう。(ただし地方によって野菜も変わる。)

豚バラをじっくりグリルするポークも人気。
豚バラをじっくりグリルするポークも人気。

暖かな秋の昼下がり。The Laundryのパティオ席で、定型に現代的な彩りを添えた美しいサンデーローストをいただいた。肉はジューシーで言うことなし。“オールスター野菜”はボリュームもあり、甘辛いグレービーが全体をうまくまとめている。

フランスのシェフたちが19世紀初頭、英国にロースト料理の修業に来ていたと言う文献が残っているほど、ローストに関しては一家言あるお国柄だ。日曜日のイギリスを訪れることがあるなら、ぜひサンデーローストを試して欲しい。「まずい英国」の汚名返上のチャンスを、各料理店が虎視眈々と狙っているはずだからだ。

The Laundry
https://thelaundrybrixton.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

関連記事


SNSでフォローする