寒くなってくると日本人が松茸や松葉蟹を心待ちにするように、中国の人々が季節を告げる味として楽しみにしているのが上海蟹。
日本でも上海蟹を食べられる店は数あれど、自社の養殖場を持っている店は少ないのでは。江蘇省と浙江省にまたがる大きな湖、太湖。水が澄み、景勝としても知られるこの地に養殖場を持つのが、「成隆行 蟹王府」。もともとは上海で2002年に創業され、2019年には現地でミシュラン1つ星の評価を得るなど名店として知られています。
2020年、東京・日本橋三井二号館に初の海外支店をオープン。蟹は全てスタッフが殻から外してくれるだけでなく、「ナリサワ」のシェフソムリエ を長年務めた木村好伸氏のセレクトした銘醸シャンパーニュやワインのペアリングとともに楽しめます。
上海蟹×極上のワインペアリング、そんなテーマで行われたある日のディナー、その様子をご紹介していきます。
まず提供されたのは、ペリエ・ジュエ、ベルエポックロゼ2004。甲殻類とロゼは王道の組み合わせ、年月を経たことで深みが増しつつ、爽快な泡で、すっきりとしたスタート。
葛でとろみをつけた、胃を温めるスープ。細く切った豆腐と海藻が入り、胡椒のアクセントが程よく食欲を刺激します。
続いては、9種の前菜。内容は上海料理をベースに、時によって変わるものの、甘味や酸味といった味わいのバリエーションはもちろん、揚げる・蒸す・焼くなど、調理法が重ならないように工夫が凝らされています。アラカルトも含め、全体の7〜8割が上海料理だそう。
そして、ここで登場するのが、ドメーヌ・トラペ・アルザスのゲヴェルツトラミネール「スポーレン」2016。
こちらがほのかな甘みを添える料理は、オスメス取り混ぜて、上海蟹の味噌を1人前5〜6匹分使うという、贅沢な蟹味噌ご飯。濃厚な旨味に「日本の蟹は肉を味わうものだけれども、上海蟹は脂が味わえるのが魅力」という言葉にも納得です。ベタつかず、さらりとした食感と香りが良いジャスミンライスを使っており、軽やかにいただけるのもポイントです。
続いてのワインは、シャプティエ「シャトーヌフ・デュ・パプ」の白、さらに1986年というオールドヴィンテージ。
合わせたのは、干した姫松茸、ベビー白菜を鶏ガラとキノコの出汁とともに蒸しあげたスープ。濃厚な蟹味噌の後、口内をさっぱりとさせながらも、深く上品な余韻は、年月を経て上品に角が取れた白ワインの印象とも重なり、相性抜群。
「菊の花の時期になると美味しくなる」と言われる上海蟹。そんな言葉に因んで、菊の花びらとともに登場した蒸し蟹。丸ごとを見せていただいた後は、プロの手でみるみるうちに食べやすく、そして美しく盛り付けられてゆきます。
部位ごとの味の違いも楽しめるこちらは、20年ものの紹興酒と合わせて。オーセンティックな組み合わせを満喫します。
そして、少量生産で知られる生産者ブラン・ガニャール「ル・モンラッシェ」、しかも2001年のオールドヴィンテージ。上品な樽香のこちらと合わせたのは、たっぷりのフカヒレと、蟹肉、蟹味噌を使った土鍋炒め。葱油の香りとともに、目の前でシェフが仕上げてくれる臨場感も楽しみの一つ。鱶鰭はしっかりと存在感のあるヒラシュモクザメの背鰭。フカヒレの金木犀炒めから着想を得て、なんと金木犀を上海蟹に置き換えたという、なんとも贅沢な品。
緑の野菜を思わせる香りにエレガンスが加わった、ドメーヌ・ド・シュヴァリエ 1985年ヴィンテージとともにいただくのは、鮑の上湯煮込み。金華ハムや鶏、豚などからとった上湯と鮑の戻し汁、八角などで煮込んで、同じく緑の香りがあるブロッコリーと冬瓜を添えたもの。(通常は写真のようにグリーンアスパラ)
モーリス・ヴェッセルの1976年という、こっくりとした味わいのヴィンテージシャンパーニュ とともにいただくのは、蟹肉と春雨の揚げ春巻と、蟹肉入り焼き小籠包。
デザートは、和栗のペーストにあんずのピュレを入れたもの、白木耳の入った燕の巣のスープを金木犀の香りの緑茶とともに。
世界に上海蟹料理のスタンダードを知らしめたいと作られた蟹王府。さらに、垂直にワインだけ飲んでも飽きない、五味の刺激を考えたペアリングも魅力の一つ。
いままでにない上海蟹×ワインという極上の味覚体験が楽しめる「成隆行 蟹王府」
ちなみに、空輸で届く上海蟹は、月曜、水曜、金曜の週3回の入荷。「当日の夜に訪問するのがお勧め」と、こっそり教えていただきました。
成隆行 蟹王府
東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井二号館1階
ランチ 11:00~15:00(L.O 14:00) ディナー 17:00~23:00(L.O 22:00)
https://www.shintai.co.jp/