【速報】2023年ミシュランガイド・フランス版発表~後編~


去る3月22日、フランス東部アルザス地方の中心都市ストラスブールにて開催された、2023年ミシュランガイド・フランス版発表のセレモニーに参加した。

新しい3つ星は1店、2つ星は4店にとどまり、観光都市であるパリには1店舗も持たされなかったことを残念がる当事者も少なくなかった。

2つ星を獲得した4軒に関しては、いずれも持続可能な料理が評価されたことが伝わってくる。

新たに2つ星となった顔ぶれ。
©MICHELIN 2023

例えば、今年グリーンスターに輝いた北部地方の「シャトー・ド・ボーリュー」のクリストフ・デュフォセ氏はもちろん、オーブラック地方の「シリル・アトラジック」、サヴォワ地方の「オーベルジュ・ドゥ・モンミン」のフロリアン・ファバリオ氏もすでにグリーンスター保持者だ。プロヴァンス地方「アマリリス」のセドリック・ブルタンも、出身のブルゴーニュ料理にもオマージュを捧げつつ、地元の農家との連携を欠かさないことを誇りとしている。来年以降も、こうした姿勢が星の評価につながっていくであろうことは、簡単に予想できる。エモーションは皿の中の完成度にだけでなく、その背景や環境にも左右されるかもしれない。そうすると、自然からは遠いパリで料理をすることの難しさに、都会で挑戦するシェフたちは直面せざるを得ないだろう。

新たに1つ星となった、パリ16区「オルタンシア」の齊藤照允さん。
©MICHELIN 2023

ところで日本人シェフによる活躍もあった。2軒が1つ星を獲得している。1軒は、齊藤照允さんによるパリ16区の「オルタンシア」だ。

パスカル・バルボー氏による伝説的な3つ星「アストランス」の跡地を引き継ぎ、昨年1月に自身の店をオープン。パリの美食家をことごとく唸らせているこの店の魅力は、こちらですでに紹介させていただいているので、ぜひご覧いただきたい。

式典の会場では嬉しさと安堵を隠せないまま、「1つ星は、2度目ですから」と言う。実は2019年に、シェフを任されていたパリ15区「ピルグリム」で1つ星を獲得した経験がある。自身の城を持ち、次の星も狙うからこその、逸る心への戒めでもあるだろう。

業界関係者が700人集結したセレモニー風景。
©MICHELIN 2023

日本人シェフで1つ星を獲得したもう一軒は、料理人の嶋谷有一郎さんと、パティシエの未佳さんによる、マルセイユそばの港町ラ・シオタの店「クルール・ドゥ・シマタニ」だ。

2人とも辻調フランス・リヨン校を卒業したのち、3つ星「レジス・マルコン」や「クリストフ・バキエ」、「アレクサンドル・マッジア」などで腕を磨き、2021年12月に当店をオープンした。昨年の7月よりガストロノミーを展開し半年も経たないうちにいただけた評価だと驚く。

有一郎さんは2015年のRED U-35にも挑戦し、ブロンズエッグを取得している。その際、「10年後、自分はどのような料理人になっていると思いますか?」の問いに、「南仏でレストランを造り、星を取得できているシェフ」とあった。また、「料理の根幹である素材を育む自然に焦点を当て、自然環境、自然保護のために尽力したい」という言葉も続いている。愛する南仏で店を構え、さらに1つ星を獲得した今、目指す境地はここにもあるという。常に自然とともにあり、支えてくれる生産者がそばにいるからこその思いだろう。

閉店などのドラスティックな変化がない限り、今回のガイドにて日本人シェフの降格はなかった。フランスを舞台にしたいという日本人は今も後を絶たず、同胞として今後も応援していきたい。

©MICHELIN 2023

前編はこちら:ミシュランガイド・フランス版の全体動向や、3つ星となった「ラ・マリーヌ」について解説しています

text:伊藤 文

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