「素朴な味わいと、武骨で堂々とした姿が好き」とドイツパンを作り続けてきた伊原靖友さんだが、店を始めた当初は、「堅い」、「酸っぱい」というイメージがつきまとい、お客には受け入れられなかったという。実際、ドイツでもただ酸っぱいパンは好まれないし、「ツオップ」でも酸味を的確に調整したレシピを用いている。お客の理解を得るために、バターやジャム、ペースト類を添え、「おいしい食べ方」を提案することで、今ではドイツパンへの固定客がついている。
ドイツパンの味を左右するのは、サワー種に含まれる乳酸菌と酢酸のバランスで、「ドイツパン作りは、サワー種が完成した時点で8割方終了したようなもの」と伊原さんは言う。酸味が調整されたドイツパンにするには、サワー種のph値3.6〜3.6、生地温℃をキープすることが必要で、プンパニッケルは酸味よりも旨味が大切だ。そのため、ライ麦粉と水を発酵させる自家製サワー種も作っていたが、粉中の菌種によって、酸味の出方や味、香りを特定することが難しいため、菌種の特定された市販のスターターを数種類ブレンドして使っている。「市販品なら、含まれる菌数は決まっているので、ライ麦粉と水を加え、一定の温度で一定時間おけば、目標とするph値、酸味のサワー種が確実にできるのです」。
プンパニッケルは低温で16〜24時間の長時間蒸し焼きすることによって生まれる、コクのある甘味が特徴だ。温度の下がった夕方のオーブンに入れ、翌日までじっくり焼く。それがツオップ流のプンパニッケル作りだ。
ドイツのヴェストファーレン州で生まれたプンパニッケルは、焼成法に特徴があるため、「特別なパン」に分類される。粗挽きのライ麦粉を使った生地を、細長い型に入れて、16時間以上蒸し焼きにするのが特徴。クラストはなく、長時間焼成によりカラメル化したクラムは、甘味とコクがあり、しっとりとして消化もいい。
パンのひきは弱いが、しっとり
ひきの弱いクラムが持ち味のパンだが、湯煎焼きでじっくり焼いているのでとてもしっとり。消化もいい。
長時間焼成ならではの甘味
色素を加えて短時間で焼く方法もあるが、同店では生地が自然にカラメル化するまで16時間焼成。甘味を堪能!
独特のコク、酸味、味わい
「プンパニッケルの味の割はサワー種で決まる」と伊原さん。市販のスターターの組み合わせで独特のコクと酸味、味わいを完成させた。
材料 (型3本分)※容積2200㎖の型を使用
ライフレーク…500ℊ(25%)/細挽きライ麦粉…400ℊ(20%)ライ麦パン粉(残ったライ麦パンを細かくほぐす)…400ℊ(20%)グラハム粉…400ℊ(20%)/サワー種…1400ℊ(70%)
生イースト…10~20ℊ(0.5~1%)
*サワー種の勢いによって量は調整
天日塩…40g(2%)/熱湯(約80℃)…1200g(60%)
● サワー初種(5℃で2日保存可能)
ヴァンガーラント(鳥越製粉)…(100%)
TKスターター(ボッカー/パシフィック洋行)…(8%)
アクティブサワー(オリエンタル酵母)…(1%)/水…(100%)
● サワー種(掛け継ぎ)
ヴァンガーラント(鳥越製粉)…(100%)
サワー初種…(20%)/水…(100%)
作り方
ツオップ 伊原靖友さん
1965年東京都生まれ。18歳でパン職人になり、2000年に両親の店を「パン焼き小屋ツオップ」としてリニュ ーアルオープン。日本のパン業界における、若手職人の育成にも尽力中。
ツオップ
千葉県松戸市小金原2-14-3
● Phone 047-343-3003
● 6:30~18:00
● 無休
text by Reiko Matsuno photographs by Yuko Uehara
本記事は雑誌料理王国第189号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第189号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。