大西洋沿岸の岩場に生息する、青褐色の殻が特徴的な「オマールブルー」は、その味わいや旨味の豊かさから一級品として愛されている。今回は「ドミニク・ブシェ トーキョー」の伊藤翔さんが、オマールブルーの魅力を引き出す二品を教えてくれた。
オマールの中でも最高級ブランドと言われるオマールブルー。東京・銀座にある「ドミニク・ブシェ トーキョー」でエグゼクティブ・シェフを務める伊藤翔さんも、その愛用者の一人だ。「当店で提供するコースには、季節を問わず、必ずオマールブルーを使った料理が入っています。師匠のドミニク・ブシェのスペシャリテにも欠かせませんし、私にとっても大好きな食材のひとつです」。
以前はフレッシュを使っていたそうだが、現在愛用しているハイプレッシャー冷凍のオマールブルーに出会ってからは、後者を重宝しているという。「一年中使う食材なので、冷凍でストックしておけるのはとても便利です。クリスマスディナーなど、たくさん必要となるシーンでも大活躍しています。またフレッシュと比べて遜色なく、品質が安定しているのもありがたいですね」と、高く評価する。
ハイプレッシャー冷凍のオマールブルーは、フランス・ブルターニュ地方ロリアンにあるサンク・デ・オー社が手がけている。捕獲直後に高圧をかけて身を硬直させ、殻を外し、頭部を切り離して急速冷凍。この処理によって殻はきれいに外され、頭部から出る酵素で身溶けが生じることもない。さらに、旬である6〜9月頃に集中して加工するため、安定した価格での提供が実現している。
今回はハイプレッシャー冷凍のオマールブルーを使って、食材の魅力を引き出すような、温度帯の異なる2品の料理を作っていただいた。
「1品目は、ドミニクのスペシャリテである『ジュレ・ド・オマール』。オマールのコンソメをゼリー状に固めた上に、オマールブルーや生ウニ、キャビアなどを置いた冷たい料理です。2品目は私が考案した温かい料理で、オマールブルーと黒トリュフをタルトレットに仕立てました。2品それぞれのゴールに向けて、オマールブルーには異なる火入れを。エビは加熱すると丸まりやすいので、解凍したら身に竹串を刺してまっすぐに、節目を糸で縛ってから、慎重に火を入れていきます」と伊藤さん。
1品目は「ジュレ・ド・オマール」。伊藤さんが「通年出しているメニューですが、オマールブルーが旬を迎える夏はぜひ召し上がっていただきたい」と話すように、オマールブルーの甘味や旨味、生ウニの滋味ある味わいをキャビアの塩気が引き立てる爽やかな一皿だ。解凍して水気を拭いたオマールブルーは、レアな部分が残るようクールブイヨンでポシェした後、冷たいクールブイヨンに浸す。「クールブイヨンでのポシェは、殻つきのオマールでもよく使われる下処理の方法です。今回はむき身で殻がない分、早く熱が入ってしまいますから、火入れは慎重に。とろりとした食感の生ウニやキャビアと合わせるので、中心はレアな状態をねらいます」と伊藤さん。
なお、冷たいオマールブルーと合わせるのは、オマールヘッドから引いたコンソメのゼリー。身の繊細な味わいに寄り添うように、コンソメは雑味を抑えてクリアに仕上げたい。そのためには、クラリフィエの際に、根気強く、こまめにアクをとるのが肝心だ。
こういったていねいな調理行程からは、食材や料理と真摯に向き合う伊藤さんの姿勢が伝わってくる。「ドミニクが教えてくれた、料理に対する愛情、食材への尊敬心を、私も大切にしています」。
2品目は、コースの魚料理に位置する温かい「オマールブルーのタルトレット」。「ジュレ・ド・オマールに比べて、味わいや食感のコントラストを強めた一皿です。タルトのサクサクとした食感に合わせるので、オマールは口に入れたときの香ばしさやバターの風味が感じられるよう、バターの泡でアロゼして仕上げます。最初からバターを使うとバターが焦げやすく、オマールブルーの繊細な味わいを邪魔する恐れがあるので、最初はオリーブオイルで表面を、次にバターでアロゼ、と2段階で火入れをしす」。伊藤さんの狙い通り、身にゆっくりと火が入るので、しっとりとやわらかく焼きあがっている。この料理でもオマールの殻を大量に使うビスクソースには、オマールヘッドを使った。
「フランス料理の長い歴史の中で、ドミニクは美しく繊細な盛り付けや、バターを抑えるなど、独自の取り組みをしてきました。しかし彼の料理は決してフュージョン的ではありません。根底に息づくのは伝統的なフランス料理で、オマールブルーのような伝統食材の存在意義や魅力が詰まったものになっています。彼が私に伝えてくれたように、私も後輩たちへ、伝統的なフランス料理とは何なのかを伝え残していかねばなりません」
伊藤 翔
1989年、秋田県生まれ。2008年、横浜のフランス料理店「霧笛楼」にてキャリアをスタート。15年、パリの「ドミニク・ブシェ」勤務。16年、帰国して「レ・コパン ドゥ ドミニク・ブシェ」のオープニングに携わり、翌年シェフに就任。22年より「ドミニク・ブシェ トーキョー」のシェフを務める。第6回パテ・クルート世界選手権アジア大会2020ファイナリスト。
ドミニク・ブシェ トーキョー
東京都中央区銀座1-5-6 銀座レンガ通り福神ビル2F
TEL 03-6264-4477
12:00〜15:30 18:00〜20:00
水休
オマールブルーの問い合わせはアルカン業務食材営業部へ
TEL 03-3664-5114
text: HanayoTanaka photo: Hiroyuki Takeda