その土地の伝統文化を現代の気分に沿わせながら、オリジナル、かつラグジュアリーな空間とサービスに昇華。フォーシーズンズホテルの得意とするこの融合の手法は、京都でも見ることができる。2024年4月にリニューアルオープンしたメインダイニング「エンバ・キョウト・チョップハウス」は、その最も興味深い一例。国内外から取り寄せる銘柄牛の炭火焼きと、平安時代末期造園の名庭が折り重なる。
「チョップハウス」とはチョップ、つまり骨付き肉の塊を豪快に焼いてシェアして食べるスタイルのレストラン。ステーキハウスよりカジュアルな形態だ。その肩肘張らずに美味を楽しむ雰囲気を大切にしながら、料理や空間を何段階もブラッシュアップさせたのが「エンバ・キョウト・チョップハウス」である。
まず、用いる素材の内容、そして仕入れてからの手間のかけ方が注目に値する。提供する肉は国内外の銘柄牛肉が中心で、国産では鹿児島の黒毛和牛や熊本のあか牛、海外からはアメリカのプライムサーロインなどを大きな塊で導入。厨房奥の専用の熟成庫で、細やかに様子を見ながら長期熟成させる。
熟成により力強い旨みと、ナッツのような濃厚で香ばしい風味を得たこれらの肉を、骨付きの塊でじっくり炭火焼きに。「外側はカリッと、中はジューシー」を極める。
こうして提供される「エンバ・キョウト・チョップハウス」の肉は、誰もがシンプルに「おいしい!」と思うパワフルな味わいでありながら決して単調ではない。特に一口ごとに残る長い余韻は、まさに優雅で繊細な印象。これは素材本来の高いポテンシャルに、肉の熟成の技、火入れの技が掛け合わさってこそ生まれるもの。「エンバ」の魅力の芯を形作っている。
そしてフォーシーズンズホテル京都が誇る、平安時代末期に築かれた広大な日本庭園「積翠園(しゃくすいえん)」に面しているのも、エンバ・キョウト・チョップハウスの特徴だ。
積翠園は約10,000㎡(一般的な野球場1面ほど)もの敷地を有し、3,000㎡の池の周りを歩いて楽しむ池泉回遊式庭園。平安時代末期に平重盛の別邸「小松殿」の園地として作庭されたものと伝わる。この時代の一流の庭園は現存するものが稀だが、その貴重な庭園が現代の人々を迎え、平安時代と同様に四季折々の自然の彩り、池の水面に遊ぶ水鳥たちで癒す。
そんな和の美の極地と、豪快さが本分のチョップハウスの組み合わせは一見異色だ。しかし自由さ、大胆さと細部までの美意識を両立させるのがフォーシーズンズホテルの哲学。「エンバ・キョウト・チョップハウス」でもそれは貫かれ、「斬新な組み合わせだけれども落ち着く」という新しい食の総合体験を創り出している。
なお、現在フォーシーズンズホテル京都の総支配人を務めるのは、2023年着任のファニー・ギブレさん。世界の名ホテルを舞台に活躍したホテリエの父親のもとで育ち、彼女もまたホテルの仕事への興味を募らせた。と同時に母国フランスはもちろん、世界中のさまざまな文化への憧れを小さい頃から育み、迷うことなく父と同じ道に進んだ。
特に日本文化には学生時代から傾倒し、日本の古い街のホテルで働き、暮らすことを夢見るようになったという。フォーシーズンズホテル京都はそんな彼女にとって、まさに理想の職場なのだ。
もちろんギブレさんは、ただ夢見てキャリアを重ねてきたわけではない。30代でパリの老舗ラグジュアリーホテルの総支配人に就き、リブランディングを指揮し成功に導いた才能の持ち主で、業界の代表的なアワードで表彰されたことも。実はホテリエの世界では知られた人物だ。
とはいえ、そんな辣腕を感じさせない穏やかでにこやかな佇まいのギブレさん。「京都で働き、京都に住む幸せをいつも感じています。このホテルの庭園は大好きですし、休みの日は家族と共にお寺や神社、郊外の自然の中などで過ごします」と話す。
フォーシーズンズホテル京都があるのは、智積院や清水寺など、京都でもとりわけ著名な神社仏閣が集まる東山区の奥まった一角。そんな格調高い環境にある「エンバ・キョウト・チョップハウス」。フォーシーズンズホテルだからこそ成せる融合の技、そして腹の底から「おいしい!」と感動できる炭火焼きの肉を堪能すべく、ゆったりと訪れたい。
フォーシーズンズホテル京都
京都府京都市東山区妙法院前側町445-3
TEL 075-541-8288
https://www.fourseasons.com/jp/kyoto
text: Cuisine Kingdom