RED U-35 2024決勝戦レポート


2024年11月5日(火)、国内最大規模の若手料理人のための料理コンペティション「RED U-35 2024」の最終審査が東京・虎ノ門で開催された。5月のエントリーに始まり、一次の書類審査、二次の映像審査、そして三次のオンライン面談による審査を経て、ファイナリスト5名が最終決戦に挑んだ。

全応募者の平均年齢は史上最年少の29歳!
チャレンジ精神旺盛で才能ある若手が育ち始めている傾向

今回のテーマは「自分らしさ」。応募総数478名のうち、一次審査では「自分らしさ」を表現した料理の書類審査によってブロンズエッグ50名が選出された。二次審査ではその料理について表現した映像での審査が行われ、エントリーされた映像はYouTubeでも公開。そこから20名がシルバーエッグとして残り、三次審査へと進んだ。三次審査はオンラインによるグループディスカッションおよび審査員との面談。個別面談により、審査員が「会ってみたい」「料理を食べてみたい」と感じた5名が最終審査に進むゴールドエッグとして選出された。

前回は大会史上初の女性RED EGG(グランプリ)が誕生して話題となったが、今回は応募総数478名のうち女性は40名とまだまだ男女比の差は大きく、ファイナリストの中にも女性料理人の姿はなかった。一方で、今回見られた傾向としては海外をルーツとする料理人からの応募、パティシエや料理教室講師などさまざまなジャンルからの応募の増加がある。また、全応募者の平均年齢は大会史上最も若い29歳となり、チャレンジ精神旺盛で実力もある若い料理人が育ちつつあるという傾向も見受けられた。

「自分らしさ」と向き合い、表現したワンプレートでの最終審査
張り詰めた空間での立居振る舞いも見られる厳しさも

最終審査は、それぞれの解釈で「自分らしさ」を表現したワンプレートを85分の制限時間内に10名分作り上げるというもの。審査員による実食と質疑応答のための審査時間が20分設けられ、調理が制限時間を超えた場合は審査時間が削られることとなる。

厨房から移動して仕上げを行う審査室内には、オープンキッチンを見渡せるカウンターに審査員がずらりと並んで着席。ここでは調理専門学校の学生2名がアシスタントにつき、彼らの実力や作業にかかる時間も考慮しつつ、いかに的確な指示を出して動けるかも、制限時間内に料理を完成させるためのポイントだ。

そしてもう一つ、審査室にオープンキッチンが選ばれている理由をどこまで理解して動けるか。相当なプレッシャーや緊張感を抱えているのは皆同じ。そんな中、審査員に背を向けて仕上げ作業に専念するよりも、これからやろうとしている作業や用意した食材について解説するなど、目の前にいるお客様と向き合っている感覚で、コミュニケーションを図る姿は審査員の目に好印象を残す。

最終審査のトップバッターとして登場したのは、日本料理を専門とし、和食居酒屋「瑠璃庵 Ruri-AN」(熊本県)で料理長とグループ役員を務める丸山祥広さん(33歳)。「自分らしさは自由であること、そしてお客様に楽しんで食べていただけることが料理人としてのモチベーションにつながっている」とプレゼンし、“自由”と“楽しさ”をキーワードに熊本の郷土料理である辛子蓮根をアレンジした一品を完成させた。

丸山祥広さん
作品名:クマモトドッグ

続いては日本料理を専門とし、現在は 「cenci」(京都府)でイタリア料理がベースの創作料理に携わる中川寛大さん(30歳)。

中川寛大さん
作品名:Futuro〜繋ぐ〜

中川さんは「普段やっているのと同じ、ありのままの自分を表現できたら」と笑顔で挨拶。ひとたび仕上げ作業に入ると真剣な眼差しで、滋賀県琵琶湖産の本モロコという淡水魚を使った料理を完成させた。本モロコは一時期絶滅の危機に瀕し、漁業者らの取り組みによって回復したものの、今度は料理店の代替わりによって料理人にも存在をあまり知られていないという現状がある。この料理ではそんな琵琶湖の水産資源に光をあて、魚食文化と海産物を未来へとつなげる想いを料理名にも込めた。

続いては前回SILVER EGGを獲得している中村侑矢さん(29歳)。中村さんも日本料理が専門で、「INA restaurant」(奈良県)のオーナーシェフとして活躍している。

中村侑矢さん
作品名:大和蒸し

審査室に入ると、まずは審査員1人ひとりと握手を交わして「よろしくお願いします」と挨拶。「柔軟な発想を持っているところが自分らしさの一つ。そんな点を見ていただけたら」と語る中村さんは、大和肉鶏、大和当帰、宇陀金ごぼうといった、奈良の忘れられつつある食材や伝統野菜を用いることで、その魅力を再発見してほしいという情熱を込めて温かい蒸し物を完成させた。

4番目は日本料理「赤坂 菊乃井」で副料理長を務めるキャリア16年の町田亮治さん(34歳)。彼も前々回の2022年にGOLD EGGを獲得しており、2年ぶりの決勝の舞台だ。

町田亮治さん
作品名:繋ぐ愛 未来へ

町田さんは「日本料理を専門とするファイナリストのうち最も歴が長いのは自分なので、なぜGOLD EGGに選んでもらえたのか、その意味を考えながら作りました」と挨拶。この時期が一年で一番おいしく、その日の朝に届いたばかりの淡路島産の鱧を持ち上げて見せ、鱧切り包丁を握り、見事な手さばきで鱧に包丁を入れていく。その姿からは、日本料理の料理人としての誇りと世界に誇れる食の文化を守っていくという覚悟も感じられた。

そして最後に登場したのが、ファイナリスト5名のうち、唯一イタリア料理を専門とする加藤正寛さん(34歳)。現在もトリノにあるレストラン「La Credenza」で料理人として従事しており、この日のためにイタリアから一時帰国して最終審査に臨んだ。

加藤正寛さん
作品名:人生に無駄はない

加藤さんは食品メーカーの営業職を4年間経験してから料理人へと転身した異色のキャリアを持つ。しかし、営業職の経験は料理人がお客様と向き合うことにも通じるため「4年間は決して無駄ではなかった」と実感できたという。そんな自身の経験を投影させつつ、営業時代に過ごした四国の食材をふんだんに用いた一皿で最終審査に挑んだ。

メイン食材に使用したのは肉のような食感の椎茸と、低脂肪の鹿。順番がラストという点で審査員に配慮し、胃への負担が軽くボリュームもワンスプーンで食べられることにこだわった。印象的だったのは、加藤さんが声をかけるタイミングに合わせて、全員同時に最初の一口を味わってもらったこと。一つの空間で同じものを同時に味わうことで生まれる一体感がそこにはあった。

頂点に輝いたのは、サラリーマンを経て料理の道に入った異色の料理人

表参道に会場を移して行われた授賞セレモニーでは、ファイナリストの中からイタリア在住の加藤正寛さん(34歳)がグランプリのRED EGG、「INA restaurant」(奈良県)のオーナーシェフ・中村侑矢さん(29歳)が準グランプリをそれぞれ受賞。

RED EGGに輝いた加藤さんは、「イタリアのお店から日本滞在期間の給料も出してもらっているが、『RED EGGが獲れなかったらこの期間の給料を全額返すように』と言われていたので、返さずに済んでほっとしました」とコメント。獲得した賞金500万円の使い道を聞かれると「もう1年海外で働く予定なので、まずはもう1年間しっかりやり切るための生活資金に。そして日本へ戻ってきた時に、残りのお金をしっかり有効活用できるようにしたい」と力強く答えた。

準グランプリを受賞した中村さんは、「RED EGGを目指して準備してきた身としては悔しさもあすが、やりきったという点で後悔は全くありません。これだけで終わらせず、ここで得た経験を生かし、世界で活躍できるような料理人を目指してこれからも精進していきたいと思います」とコメントし、総合プロデューサーの小山薫堂さんからの「まだ29歳。またチャレンジしますか?」の問いには「来年以降もまた挑戦していきたい」と意欲をのぞかせた。

また、RED U-35発起人である滝久雄氏が、料理人としての領域を超えた活躍や、これからの食の発展へ貢献することを期待して贈る「滝久雄賞」は、神奈川県で料理教室「シェフクリエイト横浜スタジオ」の講師を務める辻岡靖明さんが受賞。RED U-35発起人である故・岸朝子氏が、食生活ジャーナリストとして日本の食の発展に寄与された功績を讃え、最上位の女性料理人に贈る「岸朝子賞」には、フランス菓子「BAMBAKUN」(東京都)の高江洲悠紀さんが選ばれた。

日本料理の多様化、未来を思わせる歴史的な要素も
2025年は関西・大阪万博のオフィシャルイベントとしてスケールアップ!

審査員を務めた食ジャーナリスト 君島佐和子さんは今大会を振り返り、「今回最大のニュースは最終審査で5人のうち日本料理の料理人が4人も残ったこと。しかも、その中身は1人1人違っていて、日本料理がいかに多様化しはじめているかを実感しました。今後さらにインバウンドが広がっていく中で日本料理が海外の方達にどう捉えられ、世界に持ち帰られ、世界でどう位置付けられていくのか、その端緒となるエポックとして語り継がれる大会になるのではないでしょうか」とコメント。

審査委員長の狐野芙実子さんは「自分らしさにどれ一つ同じものはありません。自分らしさに合否を出したのではなく、どのように料理に反映させているか、その上で味やテクニックなどもポイントに評価させていただきました。最終審査は特に、1人に絞りきれない大変な審査となりましたが、RED EGGの加藤さんには自分らしさと自分自身の実力を遺憾なく発揮していただけたように思います」とコメント。

そして今回の大会を振り返り「今回は海外にルーツを持つ方の活躍が印象的でした。ブラジル、ペルー、イタリア、中国など食文化の豊かな国々をルーツにしつつ、日本で出会った料理と融合されていて、そのような方たちからの応募がとても印象に残りました」と語り、「個性的な料理が増え、皆さんが自由に表現できるようになってきているとも感じます。今までの環境や生い立ち、経験は自分らしさの一部ではあるけれど、それに縛られすぎるのではなく、未来に向かっておじけずにどんどん自分らしさに磨きをかけていってほしい」と締めくくった。

またセレモニー内では、来年の第12回大会が「EXPO2025 大阪・関西万博」の公式イベントの一つとして開催されることも発表された。これまで以上にスケールアップした最終ステージが用意されることとなり、2024年度よりも1か月早く2025年4月からエントリーの受付が始まる予定だ。

※受賞者の年齢はゴールドエッグ発表日(2024年10月3日)時点のもの

RED U-35 2024
https://www.redu35.jp/

text: Hanayo Tanaka


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