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シェフが選ぶシェフ#6 スプリム 加藤順一さん


若手シェフ部門 同率第1位
加藤順一さん スプリム

加藤さんは、北欧料理のモダンと軽さをフレンチに取り入れた料理で注目されるシェフ。従来の北欧料理のレベルを超え、フランス料理としての完成度も高いと評価される。今回、若手シェフ部門で多くの料理人に支持されて1位を獲得したが、その理由もそこにあった。先輩シェフをも唸らせる新鮮な旨さと驚き。そのルーツはどこにあるのか。

「軽さ」と「物足りなさ」は違う
しっかりした塩味が基本

「クラシックより現代的な料理のほうが性に合っている」と言いながらも「自分を支えているのは伝統的なフランス料理の技術」と加藤さんは言う。料理人をめざそうと決めた時から、何事も基礎が大切と、最初の修業先にはクラシックが学べる𠮷野建シェフの店を選んだ。その後、ヨーロッパに渡り、パリではモダンなフランス料理を、コペンハーゲンでは最先端の北欧料理を学んだが、基本となっているのは最初に学んだフランスの伝統の技だ。
「もし、自分にしっかりとした土台がなかったら、すでに行き詰っていたかもしれない」と思う。見た目の斬新さやスタイリッシュさは、いっときに人を惹きつけるものの、肝心の味が薄っぺらではすぐに飽きられてしまうからだ。

204人のシェフが選んだワケ!
手島純也さん「オテル ・ド・ヨシノ」(和歌山市)
旨い。その中に技術や新鮮な味の驚きがある。

伝統料理の力と奥深さに触れ、考え方や調理法を根本から見直した時期もあった。「たとえば塩加減は、和歌山の『オテル・ド・ヨシノ』の手島シェフに学びました。シェフの料理と自分の料理を食べ比べた時、自分の料理には塩やコクが足りないと痛感したからです」 。
軽さがテーマのモダンだから薄味でいいという判断では、本当においしい料理はできない。「それに気付いてからは、手島シェフの味付けに少しでも近づきたいと、まずは真似をすることから始めました」と照れる。

204人のシェフが選んだワケ!
関川裕哉さん「クリマ」(北海道)
モダンな北欧料理がどのように変化していくのか楽しみです。

こんなふうに自分の欠点を素直に認めて前進しようとする加藤さんは、かなりの学び上手。たとえば、「アストランス」のパスカル・バルボ氏からは絶妙な肉の火入れを、当時「エーオーシー」のシェフだったロニー・エンボーグ氏からは、料理人というよりはクリエイターとしての洗練された感覚を吸収した。
「エンボーグシェフの手法で、今も僕が参考にしているのは、お皿をシンプルに仕上げること。たとえば、素材は3つまでとし、全体をひとつのフレーバーでまとめます」北欧でよく使われるこのルールには、無駄な要素をそぎ落とし、デザイン性の高いひと皿に仕上げる効果がある。シェイプアップされた料理は、ゲストにとってわかりやすく、素材の旨味を十二分に堪能できる。

「和」の表現を取り入れて
独自の世界観を確立したい

さまざまなジャンルの特長を敏感に察知する加藤さんだが、「スブリム」のオーナーでソムリエを務める山田栄一さんは、「このままではいけない」と日々、アドバイスする。「今の僕が作っている料理は、これまでに習ったことを組み合わせているに過ぎない。もっとオリジナリティーを出すべきというのがオーナーの意見です」
加藤さんは今回の第1位を「今後の自分の成長に期待して投じてくれた1票の結果」と受け止めている。だからこそ、オーナーの山田さんの課題には必ず答えを出さなければと思う。海外修業で共感した「地産地消」や「サスティナビリティ」という方向性を活かしつつ、日本人として「和」を強調することで、独自の世界観を表現できるのではないか。そこに解決策を見出しつつある。

骨髄 ラングスティーヌ 発酵茸
発酵は加藤さんの料理に欠かせないテクニック。スペシャリテでは発酵茸のソースを使うが、今回は茸そのものをデュクセルにしてラングスティーヌと組み合わせた。牛スネ肉の煮込みを乾燥させ、土に見立てて敷いているのは心憎い演出。焦がしニンニクと山ワサビのクリームソースがよいアクセントに。

text 上村久留美 photo 星野泰孝

本記事は雑誌料理王国2017年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2017年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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