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こだわり抜いたネタとシャリの温度「鮨 なんば 日比谷」難波英史さん


食材を最高の状態で味わってほしい
料理人のこだわりが、温度に表れるひと皿がある。
おいしい温度帯を生み出す達人に話を聞いた。


仕事を細かく分けて温度と味を徹底的に管理する

マニュアル化することで綿密な温度管理が可能に

 東京・日比谷に昨年オープンした「東京ミッドタウン日比谷」にある「鮨なんば」。阿佐ヶ谷の予約困難店が、2店舗目を新しい商業ビルの中に構えた。最大のこだわりは、最良の温度で握りを提供することだ。

「2店舗目を出すとなった時に、ほかの店にはない武器を持たないといけないと思いました。そこで考えたのが温度。ひとつひとつのネタとシャリの温度に徹底的にこだわる寿司屋は絶対にないから、この店はそれを武器にしようと思ったんです」

 温度にこだわったことで、さらに鮨のクオリティが上がった。「鮨なんば」は日比谷で進化したと、旧知の客の間でも評判を呼んでいる。

その徹底した温度管理を可能にしているのは、仕事の分割とマニュアル化だという。

「たとえば、シャリは営業前に1回炊いて、そのシャリを使うというのは当たり前にすることだと思うんですが、うちでは1回転で3回シャリを炊きます。シャリの風味が時間経過で損なわれるのを防ぐためです。車海老は1本ずつボイルしますし、海苔も1枚ずつ炙ります。仕事を細かく分割して、来ていただいたすべてのお客さまに同じ味をお出しできるようにしています」

客のひとりひとりに渡される品書きには、その日の握りの内容と、それぞれのネタとシャリの温度が書かれている。

 カウンターに8人の客がいる時、端から端までひとりの職人が寿司を提供する場合には、どうしても時間がかかってしまう。客はそれほど長い時間に感じないかもしれないが、シャリとネタの味を変えてしまうには十分な時間が経っているのだ。

「試行錯誤して、お客さまの口に入る時の理想的な温度から逆算した仕事をマニュアル化しました。マニュアル化しないと、徹底した温度管理は実現できないんです。握りも、2手か3手で握らないと味が変わってしまう。最終的に0.5℃程度の誤差は出ることもありますが、できるだけ理想的な温度ぴったりに出すよう気を配っています」

 徹底した温度管理をしつつ、さらにコース全体の流れのなかで温度に緩急をつけている。もちろん、おいしく食べられる温度を研究したうえで組み立てられたものだ。

「シャリの温度は人肌から+−5℃くらい、ネタは℃〜℃がおいしく食べられます。握りの温度をそれぞれ変えて出せるのは、温度にこだわる、とお伝えしているからこそ。ほかのお店だったら、シャリにばらつきがある、と言われてしまうかもしれませんね」

 温度にまで真剣に向き合い、究極の一貫を出す店。ここでしか出会えない唯一無二のものを求めて、客は今日も足を運ぶのだろう。

難波英史さん

1974年生まれ、東京都出身。20歳より寿司職人を志し、都内の寿司店で修業。2007年、32歳で東京・荻窪に「鮨 なんば」をオープン。2011年に阿佐ヶ谷へ移転、予約困難店として知られる。2018年、東京ミッドタウン日比谷に「鮨 なんば 日比谷」をオープンした。

澤 由香(本誌編集室)=取材、文 林 輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国2018年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2018年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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