株式会社なかやま牧場 生産から販売まで。牛にも地球にも優しい未来を考える畜産企業 食の企業の最前線2 25年2月号


1960年の創業時からアニマルウェルフェアに沿った、自然な環境での飼育を貫く広島県・福山市の「なかやま牧場」。メタンガスの発生を抑制する餌を採用するなど、牛と人両方の幸せを目指す。

“レストランでのサステナブルな取り組み”で“ベターミート”を選択するのは一つの有効な考え方だろう。“ベターミート”とは、地球環境やアニマルウェルフェア、消費者の安全などに配慮して飼養された肉のことだ。日本ではまだまだ、認知されていないのが実情と言えるかもしれない。

しかし、こうした考えが広まる前から、自然に“ベターミート”と言える牛の育て方をしている日本有数の大型畜産企業が広島県福山市にある。1960年創業の「なかやま牧場」がそれだ。

なかやま牧場は現在広島県、岡山県と三つの直営牧場で約9000頭もの肉牛を飼育している。会社の合言葉は『太陽と緑と倖せと』。大切なのは育てている牛、従業員、消費者の幸せ。さらに忘れてならないのが地球環境への配慮だ。こうした社の方針が、創業当時から自然と“ベターミート”と言える食肉作りに導いて行ったのだ。

現在、広島県、岡山県に3つの直営牧場を運営。

牧場を訪れると、南向きの日がよく当たる広大な牛舎に圧倒される。天井が高い牛舎には一頭あたり十分な広さが確保され、たくさんの牛がいるにもかかわらず臭いもほとんどない。

日当たりのいい開放的な牛舎ではゆったりと牛たちが過ごす。

育て方もできるだけ自然の摂理に沿っている。ここでは痛みを伴い、ストレスを与える除角はしない。また、格付けにこだわらず、独自基準のおいしい肉質を目指すため、霜降り肉を作るためのビタミンコントロールや抗生物質投与による肥育も一切行わない。“その動物本来の行動ができ、幸福(= well being)に育てる”ということが「アニマルウェルフェア」ならば、なかやま牧場では、創業当時から自然に「アニマルウェルフェア」を実践してきたのだ。

なかやま牧場で育てられているのは、交雑種「高原黒牛」と黒毛和種「神石牛」の2種類。いずれも肉質が柔らかく、旨みが濃い。さらにすっきりとした脂が特徴だ。こうした肉質と味が作られるのは、のびのびとしたストレスフリーな環境と、餌の飼料に秘密がある。特に重要なのは、生後11カ月目からの肥育期間に与えられる飼料だ。

亜麻仁由来の成分を配合した飼料。

実はこの飼料、肉質をよくするために開発されたわけではない。当初の目的は、97年京都議定書の温室効果ガス削減の目標が設定されたことを受け、日本最大級の畜産企業として、牛が排出するメタンガスの排出削減だった。そして試行錯誤の末、辿りついた亜麻仁由来の成分を配合した飼料を与える事で、従来の牛の消化器官内発酵メタンガスの発生を抑制する事がわかった。さらに、その餌を与えたところ、脂の融点が低くなり、口溶けもよくなった。脂と赤身が混じり合うバランスがさらに良くなり風味が増した。地球環境に配慮した畜産を目指した結果、肉質もさらによくなり、人にも地球にも嬉しい進化を遂げたのだ。

もう一つ、「なかやま牧場」がサステナブルな牧場といえる理由に、6次産業化していることも挙げられるだろう。自社で食肉加工場、スーパーを持つことで、肉をロスなく販売することができる。売り先は食肉の卸から、小売店、レストランまでさまざま。特筆すべきは、納品先の細かなオーダーに合わせて肉の色味からサシの入り方などを選別し、店ごとにカットして納品していること。専門の職人が肉に負担をかけないように配慮して店の要望に合わせて発送することで、できるだけ納品先の負担を減らしている。

自社で肉の加工場を持つため、きめ細やかなオーダーに対応できる。

また、2022年からは捨てていた成牛の骨から“フォン・ド・ブフ”を作り、人気シェフと共同開発した加工食品「グリーンシリーズ」も販売。「シンシア」オーナーシェフの石井真介氏によるビーフカレー、「サローネ」統括総料理長の樋口敬洋氏によるラグーソースなどを商品化し、今後もラインナップは増える予定だ。

さまざまな角度から牛と人と地球の未来を考えた畜産のあり方を示す「なかやま牧場」。彼らの挑戦の先には業界の光がある。

株式会社なかやま牧場
https://www.nakayama-farm.jp/

text: Misa Yamaji


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