東京・日本橋のラ・ボンヌターブルで11月10日、料理人を対象にした試食・勉強会が開催された。料理を担当したのは同店の中村和成さん。テーマは「浪江町の食材を活かしたガストロノミーの可能性」。中村さんは9月に現地に行き、生産者らを訪ね歩くとともに、生産者や行政関係者たちを招いた特別な食事会を開催。訪問先の作り手の食材のほか、道の駅やスーパーで買い足した旬の野菜や果物も用いた料理の数々は、自身の作物が東京のレストランを経由して世界に向けてどのように発信されているかを実際に体験する場となった。
そして10月にはラ・ボンヌターブルで「浪江フェア」を開催し、浪江町で感じて来た風土、食材の力強さを一般の食べ手に向けて発信する機会が設けられた。世界的にも厳しい水準の検査体制が整備され、現在もなお安全が担保されたもののみが市場に流通しているにも関わらず、根強い風評に苦しめられてきた浪江町の食材であるが、「食べてもらえればわかる」というスローガンを体現するような料理が、フェアでは提供されていた。
そうした取り組みを経ての今回のシェフギャザリングは、同業の料理人に向けて改めて浪江町の食材の魅力と可能性を提示する場として設けられた。
当日、ラ・ボンヌターブルに集ったのは、様々なジャンルの11名。
中村さんと同じフランス料理からはサンス・エ・サヴールの鈴木孝徳さん、ラチュレの渡部智也さんと多田侑哉さん、レグリエの林裕樹さん。イタリア料理からピアットスズキの木下晃輔さん、クワトロチェントの金井竜平さん、Pienezza FUKASAWAの長谷川泰さん、アル・ケッチァーノの正野岳志さん。そして日本料理から江戸前 芝浜の海原大さん、中国料理からM Mugenの内田達仁さんとKOBAYASHIの小林武志さんという顔ぶれだ。

中村シェフが用意した試食メニューは3品。今回はいわゆる技術講習会ではなく浪江町の食材それぞれの味をプロの料理人に知ってもらうのがゴールということで、普段ゲストに出すような華やかさよりも、食材がよくわかるような形の調理例で提供された。
まずはヒラメの「ブイヨン」と「生」。ブイヨンは軽く掃除して少しのポワロー、ショウガと一緒に煮出しただけだが、それでも生臭さも味の濁りも全くない。アクも最初に少し取った程度で、骨から出るゼラチン質を活かしてコンソメのように澄ました。ネガティブな要素が少しでもあれば簡単に濁ってしまう魚のブイヨンでもプロに対して自信を持って紹介できるヒラメ、と中村さんも太鼓判。参加者からも「身を詰め物にしたパスタをスープに浮かべるトルテッリーニ・イン・ブロードには全部を使えるのでは」(金井さん)というように、具体的なアイデアも挙がっていた。

続く2品目はシラス干し、サムライガーリックを使ったサルサロハのタコス。中村さんはシラスについて炭水化物に合わせるイメージを持っていたのもあり、従来のフランス料理の枠組みの中では取り入れるのが難しかった。それが、フランス料理というベースは保ちながらも少しずつ自由に、中村さん自身の料理として無国籍化していく中でたどり着いたのがタコスだったという。さらにメキシコの青唐辛子に見立てた柚子胡椒のスクランブルエッグはシラスとの相性の良さで、中村さんの定番となっている。浪江町で料理を作った際にはそのままフリッタータとして提供、フェア期間中に提供されたタコスでは焼きナスと黒ニンニクのピュレが添えられていたが、今回はよりシンプルなソースのタコスでシラスのうま味を際立たせていた。

3品目のバーニャ・カウダは、サムライガーリックの味を知るには一番良いと中村さん。サムライガーリックと水、塩、材料はほぼそれだけで、あとは乳化のために太白ごま油を少し加えた程度だという。さらに調理工程も、丸のままのニンニクを蒸し煮にしてピューレにしているだけで、茹でこぼしたり牛乳で炊いたりといった臭み抜きなど一切していない。一言でいうと「ピュア」で、手を加えることの方があり得ないというくらいに余計な部分、要素がなく、余すことなく全て使える、と中村さんは評する。

最後のイチジクはビオレソリエスのドライとフレッシュを、今回はそのまま試食した。比較的瑞々しさを残した乾燥の具合で、少しでも傷のついたものなどを乾燥に回しているため甘かったり酸っぱかったり味にバラツキがあるのが却って楽しい。中村さんからは店ではチーズと一緒に提供するほか、クルミと一緒にペーストにして薬味のように、といった使い方が紹介された。

後半の中村さんも交えたディスカッションの中では、食材の味そのものについてやその調理法についての試食時よりさらに突っ込んだ話以上に、流通や梱包についての話が多く挙がった。
浪江町にある請戸漁港は、再建の中で結果的に最新鋭の設備が導入され、それが魚の衛生面や鮮度の維持に大きく貢献している。さらに冷凍についても、フレッシュとそん色ないクオリティのものを届けることができている。特に今回のヒラメやシラスを届けてくれた柴栄水産は非常に几帳面で、氷の敷き詰め方や魚が箱の中で動かない工夫など細部にまで気を配られている。
そうした生産者や仲買人、加工業者たちの努力により、これまで常識とされて来た下処理や調理工程の中には、省いても味が落ちない、ネガティブな要素が残らないために、やらなくて済むことも多くなってきた。サムライガーリックも同様で、臭みや雑味がない=おいしいという以上に、時短や労働環境という昨今の課題、トピックに対してソリューションとなり得る食材であるといえる。
その他、参加したシェフたちからは「サムライガーリックのピューレは最初乳製品が入っているかと思ったほどで、ニンニクの未来を感じた」(内田さん)、「ヒラメはバランスを保ったままフォンが取れそうで、何がこの良さの理由なのか生産者にも話を聞いてみたい」(林さん)などの感想が挙がり、皆それぞれの店でどう取り入れようか、次のステップに思いを馳せているようだった。
最後に中村さんからの「浪江町は今回現地に行き、実際に1か月間フェアを開催したことで、ちょっとした故郷のようになっています。生産者たちも積極的な方が多く、結果的に10年間ほど手つかずでありのままに育ったため、ポテンシャルはとても高い一方で、まだまだ課題も多い。しかしそのためにこそ料理人がいるので、お互いに刺激し合いながら食の力で浪江町を盛り上げていきたいと思います」というあいさつでを閉じた。

