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精進料理とは? ~曹洞宗の教えから学ぶ~


鎌倉時代に中国から日本へ伝わった禅宗の精進料理。
ここでは、広島市の八屋山普間寺の吉村昇洋さんに、禅宗のひとつである「曹洞宗」の教えを通して、精進料理の基本を教えてもらった。

【「精進料理」という言葉のルーツ】

「精進」とは、仏道修行に励むことを指す仏教用語だが、「精進料理」という言葉は、実は仏教の経典には登場しない。「動物性食材や匂いの強い食材を食べない」といった僧侶特有の食事を、民衆が仏事にまつわる料理として受け取り、「精進料理」と呼んだ。お寺と民衆との相互作用の中で育まれてきた食文化である。

【禅における「精進料理」とは?】


禅において、食にまつわる行動全般は「修行」だ。料理の準備や調理、食べること、後片付けなど、食行動を通して自己を見つめる。精進料理は“単なる野菜料理”ではないのだ。

【精進料理のキーパーソン、道元どうげん禅師】

日本の精進料理の礎を築く

禅宗のひとつ「曹洞宗」の開祖で、日本の精進料理の礎を築い た道元禅師(1200年~ 1253年)。鎌倉時代に生まれ、12歳で出家して比叡山で修行後、宋国に渡る。鎌倉以前の日本では僧侶が食事を作ることは重要視されなかったが「食事を作ることも集団生活の中では僧侶の役割であり、修行として行なわれるものだ」という教えを中国から直輸入して伝えた。曹洞宗大本山である永平寺建立のほか、当時の僧侶の食事を系統立てて書いた貴重な記録を残している。

衆僧を供養す、故に典座てんぞ あり
(雲水たちを供え養うために、仏道で調理を司る「典座」の職がある)

道元禅師

典座教訓てんぞきょうきゅん
1237年成立。食事を作る人の心構えを記載。「食事と向き合う」ことの重要性を説く。レシピは載っていない。

赴粥飯法ふしゅくはんぽう
1246年成立。食べる人の心構えをはじめ、器や箸の扱い方などの作法までを細かく記載。

【基本ルール】

味付け 六味=五味+淡味たんみ

味付けの基本は、〈苦・酸・甘・辛・醎〉の五味に「淡味」を加えた六味。「淡味」とは、素材の持ち味を生かすために薄味にすること。

完成度・作法 三徳

食事の出来具合や心遣いに関する基本姿勢のこと。ポイントは食べる相手のことを考えて調理できているか否か。

使わない食材

国・時代・宗派によって差異あり。

作る

【典座の三心】

禅寺で食事を司る役目を「典座」という

1.喜心きしん
他人のためにことを成し、その人が苦を離れて楽を得るのを見て、己の喜びとする心。相手の喜びを自己の喜びに、食事を作らせていただけることへの感謝を忘れない。

2.老心ろうしん
いわゆる老婆心のこと。わが身を顧みず、深い慈しみから親切になって他者に関わる心。食べる相手のことを思って調理する。食材そのものに対しても感謝し、丁寧に扱う。

3.大心だいしん
山のようにどっしり、海のように広々と構え、一方に偏ったり固執したりすることのない心。トラブルが起きても広い視野で粛々とことに当たる。

調理前
環境をきれいに整える
まな板や鍋、コンロの数、食器などの確認。何がどこにあるか、どれだけあるかを把握する。シンクも調理器具のひとつと捉えてきれいにしておけば、食材がこぼれ落ちても無駄にならない。

調理中
洗い物を片付けながら調理を進める
目の前の作業スペースを広く維持しながら調理をすることは、心の作業スペースを広く保つことにも通ずる。
「やりっぱなし」に注意
ものを出したらしまう、扉を開けたら閉める。「面倒くさい」と感じたことこそ、すぐ片付けてしまうとよい。雑な自己の在り様と向き合う。

調理後
器具はあるべきところに収納する
重いものは下に、軽いものは上に。あるべき場所にものを置き、安定させることは、自身の心身の安定にもつながる。

食べる

※宗派や時代によって差異あり

【五観の偈】

食べる前に唱える5つの偈文。順番に唱えて食に対する心構えを確認する

1.「一には、こう 多少たしょう を計り、 来処らいしょ を量る」

生産者や輸送者など多くの人の手を通って目の前の食事が成立していることを知ろう。毎食が一期一会である。

2.「二には、己が徳行とくぎょう 全欠ぜんけつ はか って おう ず」

このありがたい食べ物を受ける資格が自分にあるか。徳のある行ないができているか。日ごろの行ないの是非を見つめ直そう。

3.「三には、しん を防ぎとが を離るることは貪等とんとう しゅう す」

修行とは汚れた心を清めること、つまり仏教でいう三毒(貪り・怒り・無知)を払いのけること。食事ではこれらが生じやすいので注意しよう。

4.「四には、まさ に良薬をこと とするは形枯 りょう ぜんが為なり」

「形枯」とはやせ衰えること。人は食べなければ死ぬ。食事は肉体を保持するための良薬だ。

5.「五には、成道じょうどう の為の故に今此いまこ じき を受く」

お釈迦様と同じあり方でこの食事を頂く。つまり食事を頂くのは仏道を支えるためなのだ。

【食中の作法&込められた意味】

話さない、音を立てない
曹洞宗では坐禅堂で食事をとる。決められた唱えごと以外、不用意に音を立てない。音を立てて食べると「餓鬼」が腹を空かせるという仏教ならではの考え方もある。

正しいポーズで
正座は「しょうざ」と読み、姿勢を正して端正に座ること。崩れた姿勢では食事と向き合えない。

器は両手で扱う
食器に限らず何事も丁寧に扱う。丁寧な作法は美しく、滑りやすい形状の器を落とすリスクも軽減される。

咀嚼中は箸を置く
食べ物を口に入れたら箸を置き、咀嚼して飲み込んだら箸と食器を持つ。複数の料理を同時に食べることはせず、目の前の一皿と向き合う。

お湯やお茶で器をきれいにする
お湯やお茶で器をきれいにしてから飲む。水も器にこびりついた米も無駄にならず、そもそも「きれいに食べよう」という意識が生まれる。


監修 吉村昇洋 text 笹木菜々子

本記事は雑誌料理王国2020年10・11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年10・11月号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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