世界の第一線で活躍する、今、注目のシェフたち。彼らもまた様々なものを受け継いでいる。それは伝統であったり、文化であったり、レシピであったり…。これからの料理界を担うシェフたちが、それをどう未来へ繋いでいくか。ひと皿の料理で表現してもらった。
「ノマ」の姉妹店、「108」。「ノマ」から徒歩圏にある店舗だが、その趣は若干異なる。シンプルに、番地を名に冠したこのレストランは、難民支援や、地域還元を行なっている組織「アールスティデルネ」の一部なのだ。だから、「ノマ」のターゲットが世界から訪れる食通たちなのに対して、地元への還元という色合いが強い。だからこそ、その考え方はとても実際的だ。「採集をしなくてはならないから採集する、というコンセプト優先ではありません。例えば、プラムの季節になっても、もし去年保存してあったプラムが食料庫にあるなら、その年、プラムはとりにいかない。必要ないからです。魚にも同じことが言えます。私たちはその時期のベストな魚を使います。地元産の鯖やガーフィッシュ(ダツの仲間)、蟹、ロブスターなども使いますが、デンマーク産の魚だけを使うわけではありません。また、「地元産であるか」ということよりも、その会社の哲学に共感できるか、ということを優先する場合もあります。例えば、私たちは北ベルギーのキャビア業者と取引をしています。そこの商品だけでなく、哲学が好きだからです。チョウザメが質の高い生活を送るような工夫がされている。こういった考え方の人と一緒に働きたいと思うのです」。
今、生産者との直接の取引が料理の世界で流行になりつつあるが、デンマークでは、昔から、大都市郊外に住む人は、良い農場や生産者を選び、良い食材を選び手に入れることが当たり前に続いてきた、その文化を誇りに思う、という。そして、これからの時代に大切なのは、「歴史を学ぶこと。自分の時代の前に何が起きたか、それが自分の周りの社会や世界にどう結びついているかを知ることが重要です。昔から受け継がれて来た方法は、その土地の食材の下ごしらえや保存に完璧に適していますし、先人の失敗から学び、さらに彼らが直面した努力と試練について知ることができるからです。また、私たちが今あるのは、過去の素晴らしい人々やシェフのおかげです。だからこそ、彼らの物語とテクニックを理解するだけではなく、彼らに光を当てる必要があるのです」。
「伝統食の鯖の酢漬けをアレンジした皿は、歴史を学ぶという考え方をよく表していると思います。地元の鯖を使い、甘酢で漬け込むという、歴史的に守られてきた本質は守りつつも、松の葉を混ぜた塩をふり、自家製のセロリの酢の中で洗い、塩洟けのグーズペリ を加えています。塩漬けのグーズペリーの酸味は鯖とバランスがよく、セロリは鮮やかな食感で、さっばりとした木のオイルと共に、緑の印象を強める、そんな、伝統を進化させた皿にできたと思います」。
text 仲山今日子
記事は雑誌料理王国302号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は302号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。