次世代を担う注目の海外シェフ「Virtus」神崎千帆


世界の第一線で活躍する、今、注目のシェフたち。彼らもまた様々なものを受け継いでいる。それは伝統であったり、文化であったり、レシピであったり…。これからの料理界を担うシェフたちが、それをどう未来へ繋いでいくか。ひと皿の料理で表現してもらった。

自然に導かれた料理を受け継ぐ

「今日、私の元スタッフの千帆とマルセロも初めて一ツ星を取りました」。今年のミシュランフランスの授賞式、念願の三ツ星を初めて獲得した舞台で、「ミラズール」のマウロ・コラグレコは受賞スピーチで、多くの人に感謝の言葉を述べた後、二人への愛情を込めたエールを送った。満場の拍手を受けて、改めて、一ツ星獲得の実感が込み上げて来た。ミラズールで過ごした7年間はとても大きなものだった。マウロの妥協をしない姿勢だけでなく、豊かな自然からも多くを学んだ。目の前の海で獲れた魚が毎日届き、キノコは裏山で採れる。南仏の太陽と自然の恵みを生かした自家菜園から採れる野菜。こういった野菜や果物で酸味や甘味を加えるのがミラズールのスタイルだ。誰もが面倒がる、広大な庭で育てるハーブの種類を積極的に学んだことが、今に生きている。現在、公私共にパートナーとして、一緒にキッチンに立ち、デザートを担当するマルセロと出会ったのもこの場所だった。

新鮮な食材、例えば掘りたての小さなジャガイモに火を入れてバターとエシャロット、カレイのフュメで軽く煮たような、シンプルに見える料理が、涙が出そうなくらい美味しい。そんなマウロの料理が大好きだし、修行できたことを誇りに思う。「インターネットや流通の発達で、料理人個人の思想や方向性が多様化していますが、フランス料理のフォンやソース、煮る系統の技法などは、未来に受け継いでいきたいものです」。クラシックな技法を大切にしながらも、自然に導かれるままに、自由に発想する。マウロと同じアルゼンチン出身のマルセロと共に、伝えていきたいのは、「料理に国境はない」。フードイベントに招かれて訪れたブラジルで、フルーツの香りや美味しさに感動し、コースの全皿にフルーツを合わせることもある。ハーブは「食材に塩を振る感覚で」味として使う。生産者を訪れ、毎週電話をかけて畑の様子を聞く。料理を褒めてもらえると「食材が素晴らしいんです」と使った食材についてついつい熱弁をふるってしまう。そこにあるのは、師・マウロと同じく、自然に導かれて作っていく料理の形だ。

未来に受け継ぐ一皿

雲丹、 バッションフルーツとクレソン

「ニースで採れた美味しい雲丹を、どうやったら抵抗無く食べて いただけるかなと思って」。フランスでは苦手な人も少なくない という雲丹には、 火を入れて丸みを出したクレソンのソースを 合わせ、上にはパッションフルーツのオランデーズソース、 そ して新鮮な辛味を出す生のクレソンを飾る。「普段嫌いだったり 苦手な物を「これなら食べたい」と言って貰えると本当に嬉しいです」。美味しさで心にある障槌をも取り除く、それが「国境のない料理」 の形だ。

text 仲山今日子

記事は雑誌料理王国2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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