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中国麺の発展と伝播


多種多様な麺文化を生み出してきた中国大陸。中国麺はどのように発展し伝播していったのかを、代表的な麺とともに概観する。

歴史と地方性が織りなす中国麺の迷宮

小麦の伝来が始まり

 中国の麺文化は、小麦の栽培と製粉、製麺技術の進歩とともに発展を遂げた。小麦と製粉技術が中国に伝来したのは漢代(紀元前202〜220年)だ。前漢の武帝により西 域に派遣された張騫(ちょうけん)張騫の行路、すなわちシルクロード経由で西方からもたらされたのである。 唐代(618〜907年)になると、華北平原で小麦の栽培が盛んになり、一部の特権階級のものであった麺が、北方の民衆に普及することとなる。

外食が発展した宋代

唐代は夜間の外出や飲食店の営業が禁じられていたが、北宋代(960〜1127年)になると外食文化が発展。麺、餃子、饅頭などの露店が通りに軒を連ね、庶民は夜、食べ歩きをするようになる。麺が大衆食になっていったのはこの時代だ。
やがて女真族の王朝・金に華北を追われて、江南へ多くの宋人が逃れた。南宋(1127〜1279年)の都・臨安(現在の杭州)では、北方で生まれた麺の技術が広まり、麺食の習慣が普及する。この頃、米を粒食していた南方で、米の麺が作られるようになったと伝えられる。

麺棒がキーアイテム

麺棒で生地を延ばして刃物で切る切麺の技術が現れたのは元代(1271〜1368年)だ。麺棒が発明されたことで、小麦粉以外の穀類の粉を麺にすることができるようになり、小麦の採れない南方など中国全土に、地方色の濃い麺が登場することにつながっていったと推察する。麺棒は、麺を多様化させたキーアイテムといえるかもしれない。
ちなみに中国麺の特徴に、かんすいという天然ソーダを用いてコシを与えることが挙げられるが、これが始まったのも元代だ。 そして製麺機が導入されるのは清代(1636〜1912)末期。麺はますます多様化していく。

山西省は麺のふるさと

北方は手延べ麺、削り麺など、製麺機を使用しない麺が有名だ。スープは醤油味や塩味の濃厚なもの、麺は生の太いものが好まれる。
麺食が盛んなのは山西省、河南省、河北省で、とくに山西省は食事の中心が麺であることから、小麦の白麺(バイミェン)、そばの蕎麺(チャオミェン)、大豆の豆麺(ドウミェン)、トウモロコシの玉米麺(ユイミーミェン)、エンバクの莜麺(ヨウミェン)など各種の麺が作られている。3省から少し離れるが、甘粛省の蘭州拉麺(ランチョウラーミェン)も名物だ。

南方の主流は米粉麺

 南方では、とりわけ広東省と福建省で麺がよく食べられている。米の粉で作るビーフンや河粉(ホーフェン)が有名で、北方の手延べ麺に対し、製麺機を使用した麺が主流だ。麺は細くて硬いもの、スープは鶏や豚、中華ハムなどでとる、透明で肉の味がしっかり利いたものが好まれる。湯麺は塩味が多い。

北方の代表的な麺

拉麺【ラーミェン】

包丁を使わずに生地を棒状にし、両手で引っ張りながら麺にする。ラーメンの語源となった麺。絹糸のように細く延ばした「龍鬚麺」は有名で、ゆでると溶けるため、油で揚げて調理する。

刀削麺【タオシャオミェン】

生地を棒状にし、三日月形の包丁で削りながら湯の中に落としてゆでる、山西省のコシの強い麺。麺は幅広く柳の葉の形をしていて、断面は三角形。肉味噌あんをかける「炸醤麺」が有名だ。

剔尖麺【ティヂェンミェン】

やわらかい生地を平らな皿に盛り、箸で縁に沿って切るようにして湯の中に落としてゆでる。両端が細く、湯の中で魚がはねるように見えることから「撥魚麺(ポーユイミェン)」ともいう。

猫耳朶【マオアルトゥオ】

生地を小さくちぎり、親指の腹で押さえて窪みをつけた麺。形が猫の耳に似ていることからこの名がある。イタリアのオレッキエッテに似ている。小麦粉、大豆の粉、高粱の粉などで作る。

莜麺【ヨウミェン】

粘りのない莜麦(オーツ麦)を使った山西省の麺。つけだれで食べる。生地をちぎって薄く延ばし、人さし指に巻きつけて筒状にして蒸す「莜麺栲栳(ヨウミ ェンカオラオ)」などがある。

一根麺【イーゲンミェン】

一食分の麺がつながったもので、一本麺ともいう。長寿の象徴とされる。塩水で練った生地をねかせてから棒状に延ばす。表面に植物油を塗り休ませる。延ばしては休ませることを繰り返す。

南方の代表的な麺

米粉【ミーフェン】

南方の稲作地帯で、米の粉を原料に作られる乾麺。福建省や台湾ではビーフンと呼ばれている。長期保存できるので、かつては飢饉の備えに重宝したという。炒米粉、湯米粉などにする。

河粉【ホーフェン】

日本のきしめんに似ているが、小麦ではなく米の麺。広州市沙河産のものが有名。牛肉とオイスター風味で炒める「干炒牛河」などがある。タイのクイテ ィアオ、ベトナムのフォーもこの系列。

銀針粉【インチェンフェン】

米の粉や浮き粉などで作る、細くて透明感のある麺。炒めても煮てもよく、広東省エリアの庶民に好まれている。チ ャーシューや黄ニラと炒める「清炒銀針粉」などが知られる。

伊府麺【イーフゥミェン】

小麦粉を卵で練った全蛋麺(チェンタンミェン)を、一度ゆでてから油で揚げた麺。インスタントラーメンのルーツ。黄ニラと煮込んだ「干焼伊麺」、蟹肉入り汁そば「蟹肉伊麺」などが知られる。

蝦子麺【シャーヅミェン】

広東省の全蛋麺に、海老の乾燥卵を練り込んだ乾麺。細くて海老の卵の味と香りが強く、独特の風味がある。湯麺や炒麺、拌麺(和え麺)に向く。熱湯に少量の油を加え、1分ほどゆでて使用する。


監修 吉岡勝美さん
辻調理師専門学校 中国料理主任教授
1955年兵庫県生まれ。辻調理師専門学校卒業後、香港「敬賓酒家」「、富麗華酒店」、広州「広東大厦・潮苑春」など本場の一流店で研修。著書に『シンプル、おいしい中国おかず』、『よくわかる中国料理 基礎の基礎』(ともに柴田書店)など。

松田亜希子・文/構成 泉田みちお・写真 和田海苔子・地図
text & construction : Akiko Matsuda /photo : Michio Senda /map : Noriko Wada


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