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【パンデミック】その時、飲食店はどう動いた?「クリスチアノ」佐藤幸二さんの場合


ポルトガル料理店『クリスチアノ』を始め、『お惣菜と煎餅もんじゃさとう』、ポルトガル菓子店『ナタ・デ・クリスチアノ』、ポークビンダル専門店『副大統領』、バカリャウ料理『マル・デ・クリスチアノ』、カツレツ店『貴族と平民』など、ちょっとコアで話題の店を次々と立ち上げる佐藤幸二さん。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言など、飲食店がゆれる時代に、経営者としてどんな思いでいるのか、インタビューをお願いしました。

佐藤幸二
1974年生まれ、埼玉県出身。「クリスチアノ」ほかオーナーシェフ。調理師専門学校で日本料理を学び、都内のホテルへ就職。数年後にイタリアに渡る。その後イギリス、タイなどでも料理人として働き、7年後に帰国。「リストランテ・ヒロ」を経て、オーストラリアワインバー「アロッサ」で7年間料理長を務める。2010年に独立してポルトガル料理店「クリスチアノ」をオープン。現在はポルトガル菓子店「ナタ・デ・クリスチアノ」、バカリャウ専門店「マル・デ・クリスチアノ」、「おそうざいと煎餅もんじゃさとう」、「ポークビンダルー食べる副大統領」など、幅広いジャンルの店を次々と手がけて話題をふりまいている。

Q 新型コロナウイルスの影響を感じ始めたのはいつ頃からですか?

第一波の3月最終週に突然全てのご予約がキャンセルされた頃ですね。実は3月の頭くらいまでは予約も普通に入っていたし、政府からお金が借りられてシメシメくらいに思っていたんですよ(笑)。あの時点ではさすがにあそこまでキャセルが出るとは思ってもいなかったんです。いったんキャンセルが出た後もポツポツとまた予約が入ってきましたので、少しホッとしましたけれど、4月に入って欧米が大変な状況であるという友人からの情報もあって、だんだんとこれはヤバイなと感じていました

Q 新型コロナウイルス(第一波)の影響を受けて、具体的に対策されたことを教えてください。

資金の調達と、この状況で可能な事業を考えだしてスタッフと話すことでした。、緊急事態宣言が出た頃、大手の企業に勤める友人から翌年の3月までリモートワークになるという話を聞いて、これは相当長引くと予想ができました。そこで、今までもインターネット販売があったのですが、それと飲食との割合を変えていけばいいのかなと考えました。

資金が確保されたところで、一番の問題はスタッフのモチベーションをどう保つか。現在スタッフは社員が25人、アルバイトを含めると68人います。まずはコミュニケーションを取ることを最優先に考えて、とにかくミーティングをよくするようにしました。ミーティングでは僕の方から、予想ではこのくらいまで続くだろうから、予算としてこれぐらいは確保してあるので大丈夫だよという話をして、まずは安心してもらいました。その後はお題を与えるというか,、あまり考えこませない方がいいなと判断して、こちらからこれをやろう、これをやろうとどんどん仕事を作ってあげるようにしていました。

実は以前の会社で、私はリーマンショックの時に痛い目にあったんですよ。同じような価格帯の店ばかりやっていたので、全部の店が一斉に同じ状況に陥ってしまいました。それですごく大変だったんです。あとはスタッフのモチベーションの問題もありました。店が銀座、秋葉原、渋谷などと離れていたので、電話ではコミュニケーションがとれないからと会いに行って話すのですが、回るだけで1日が終わってしまうほど時間をとられてしまって。今、近所に店を出しているのは、そういうことも踏まえて、目の届くところでやりたいという気持ちがあったからなんです。それと、衛生面での対策は、あの時はまだ不確定なことが多かったので、行政の提案するものをそのまますべて実行していましたね。

Q 大変だったことや各店の状況を教えてください

雑居ビルの上にある『マル・デ・クリスチアノ』はお客様が減ってしまって、しばらく閉店することに決めました。ここは去年業態変更をして業績も上がって、スタッフのモチベーションも高かったのですが、運営を維持するまでには至っていなかったです。本店の『クリスチアノ』の方は長くやっているので、お客さんもついていてほとんど変わりがなかったですね。他の店も物販があったので、営業を縮小して、その代わりにデリバリーとテイクアウトを自社で始めました。これもリーマンショックの時の教訓で、外食だけの事業をやっていて大変だったので、物販事業や価格帯の違う業態などに分散すればいいんじゃないかと思ったんです。今回はそれが本当に幸いしました。

Q 政府からの借入金はどのように活用されましたか?

毎月の店舗運営に関わる資金として貯蓄しています。また、店舗で製造する新規の外販事業案件の資材の仕入れなどにも使用しています。

Q 今、第三波が来ていると言われていますが、コロナの影響が長期化する場合、どのような対策をお考えでしょうか?

ECサイト「さとうこうじのさとう商店」は2021年3月1日(月)オープン予定
https://sato-shoten.net/

2022年の春頃までは余波は続くと考えています。2021年からは、弊社はレトルト製造や缶詰製造ができることもあり、レトルト商品などを多く組み込んだEC事業や外販事業を取り入れていく方針でいます。実は各店で個々にやっていた物販をまとめたECサイトをこの3月に立ち上げます。

私にとってはコロナの影響で時間ができたのはチャンスです。そこで、今まで断っていた外部の仕事をすべてやることに決めました。ちょうど去年の12月からディーン・アンド・デルーカさんのOEMの商品を作らせてもらっています。うちのブランドで2種類と、鎌倉のイタリアン『オルトレヴィーノ』さん、うきは市(福岡)の『イビサスモークレストラン』さんなど、全部で6種類を作っています。飲食店が作るので、再現性がとても高いと評価してもらいました。レトルト商品の制作もこの機会だから進めていて、今は全部で100アイテムぐらいになっています。もともと製造免許持っているから、今までは自社でしかやっていなかったけれど、これからは本格的に稼働させようともくろんでいます。

長い間、調理師をやっているので、いまだに飲食店の体質が抜けきれませんが、こんな時でも私の大好きな先輩のお言葉『負けてたまるか』の精神で新しいことにもいろいろ挑戦して、どうやったら楽しんでいけるか、どうすれば成長できるかを考えます。この空白の1年とか2年とかの中で、借り入れたお金とか、今までにかかった負担を全部回収しなくちゃいけないじゃないですか。だから借り入れを返済するための事業を考えていかないと。今年の春ぐらいから新しい事業がある程度成り立つように去年からずっと動いてきました。能天気と言えばそうかもしれませんが、かなり前向きにとらえていますよ。

Q 多店舗展開されているレストランオーナーへのアドバイスはありますか?

ありません。店によって悩みはそれぞれ違うんですよね。だからオーナー同士がアドバイスし合っても解決できないことが多い。それくらいならその問題の専門家に相談した方がいいと私は考えています。

Q 行政に対して、要望や意見がありますか?


行政に対しては、店舗規模の比率で給付金が決まらないのがいまだに疑問です。きっと同じような考えの店主は多いと思います。だって、40席の店と10席の店では明らかに事業収入が違うので、すべて同じというのは疑問に思います。それだったら決算書ベースで、前年比の何%という考えはいかがですかね。12か月の均等割にした金額が給付金に当てるなどが良いのかなと思います。営業時間も22時までで閉めるとか、20時で閉めるとかという考え方ではなく、1日あたり6時間などと決めてしまえば、各店でもう少し自由にできると思いました。

Q 食文化の転換期と言われていますが、10年後レストランの姿はどうなっていると予想されますか?

10年後でも、今営業しているお店はきっと、この数年の借入資金の返済に苦しみ続けているのだろうと思います(笑)。飲食店は借り入れを完済するのにだいたい7~10年ぐらいかかります。大手企業は違いますけどね。そう考えると10年後ぐらいまで、この1~2年の負担を返し続けているはずです。としたら、新しい事業とか次の夢とかがあっただろうに、それが全部ズレてしまうわけですよ。もちろん、この数年はたくさんの人が貯蓄をする余裕がなくなると思います。だからレストランは“今”よりも、これから数年後に数多く閉店します。だけど、10年後のレストランはコロナのことなど考えず、今まで通りのレストランと同じ考え方で作られていくでしょうね。転換期とはいいながらもお客様がレストランに求めるものが変わらない限り、何も変わっては行きませんよ。

Q これから飲食店経営を考えている人へのアドバイスはありますか?

飲食店経営は楽しいと思います。飲食店の魅力って、普通に生活をしていたら絶対に会えない人に会えることです。それが、次につながっていく出会いになったりもします。そんな時はいい仕事だなと思います。すごい楽しいです。こういうことって飲食以外の仕事ではあんまりないんじゃないかな。飲食業は接客業としても特殊だし、そういう面で面白い仕事だと思っています。

でも大変です。経営者は孤独だと聞いていましたが、本当にそうなのだなと、こういう機会に直面してさらに実感しています。今は大変なことも多いですが『すべて勉強』そう思って楽しんだ方がいいです。そして会社をやるなら必ず『社会に貢献をする』という目的を持ってください。会社として経営するなら、人のためになるお店造りをしてください。

私は行政の非常時の食事とかを作りたくて、それでレトルトを始めたんです。なぜそれをやりたいのかといえば、儲かるからとかじゃなく、災害時にこそ美味しいもの食べてもらって、心が癒されたり、力が湧いてきたりする手助けになりたいから。そういう非常時に、料理人として何か貢献できたらという思いがありました。

取材・文=岡本じゅん


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