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あの店のスタートダッシュ成功の理由 クラフタル 大土橋真也さん


日本を代表するグランメゾンやパリの人気店など、華麗な経歴を経て「クラフタル」をオープンさせ、人気店に押し上げた大土橋さん。これまで歩んてきた道のりは、「クラフタル」の成功をどのような形で支えているのだろうか。

技術と人脈を活かし自らの世界を構築

「究極のおいしい」を追い求め、ついに自分で考え作り上げる料理人へ

食の世界の究極を求めた 華麗な経歴

 2015年9月のオープン以来、芸術的な料理で多くのお客さまを虜にしてきた「クラフタル」。2017年にはミシュラン一ツ星を獲得し、シェフの大土橋真也さんはいまや若手料理人の中でトップクラスの実力を持つひとりとして注目を集める存在だ。

 大土橋さんは1984年鹿児島県生まれ。どんなに追い求めても果てしのない食の世界に魅せられ、おいしさの究極に辿り着きたいと大阪辻調理師専門学校に入学。同フランス校へ進学し、帰国後「ザ・ジョージアンクラブ」「ジョエル・ロブション」での修業を経て再び渡仏。パリ「サチュルヌ」で研鑽を積んだのち、帰国し、「レストランアニス」を経て「クラフタル」のシェフに就任した。

 日本のフランス料理界を代表するグランメゾン「ザ・ジョージアンクラブ」や「ジョエル・ロブション」、パリ屈指の人気店「サチュルヌ」で腕を磨いた華麗な経歴。その階段をひとつひとつ上りながら、「究極のおいしい」を追い求めてきた。そして、現在の大土橋さんの料理は誰も真似ることのできない高みに上り、「クラフタル」を人気店に押し上げている。

目黒川沿いの桜並木の景色を切り取り、四季の移ろいを見せてくれる大きな窓。オープンして最初のお花見シーズンに多くのお客さまが訪れ、店が注目されるひとつのきっかけになった。

最上級の修業経験を経て自らのスタイルへ

「これまでの道を振り返ると、グランメゾンでは最高級の食材にも触れ、フランス料理の基礎を叩き込まれました。『サチュルヌ』では自然そのものを表現するナチュラルな料理を学び、グランメゾンとはまた異なる視点があることを知りました」という大土橋さん。そして、追い求めてきた「究極のおいしい」は、自分で考え、自分で作り上げなければならないということに気づいたという。

「クラフタル」のシェフとして料理を構築する際、基本的な食材の組み合わせの発想にはグランメゾンでの修業が活かされている。味わいを重ねた時の一体感、必要な食材と必要ない食材、アクセントのつけ方など、その頃の経験から自然に判断できているという。そこから先は「サチュルヌ」のように、イメージを膨らませて形にしている。

「サチュルヌ」は皿の上で「畑」を表現するのに対し、大土橋さんは皿の上で「季節」を表現する。食材の色、形、食感、香り、味からイメージを膨らませ、その季節の「景色」を皿の上に描き、形にする。ここへ、料理に合わせて自在に形を変える「パンペアリング」という新しい要素を加えることで、ほかにはない独自のスタイルを確立した。

「『クラフタル』がやっていけるのは、修業してきた店のシェフや仲間、そして、お客さまのおかげです」と語る大土橋さん。これまでの道のりで築いてきた信頼関係が店を支えている。

“CRAFT(手技)”で食材から季節の景色を紡ぐ

「CRAFTALE」という店名は、ふたつの言葉で構成されている。そのひとつが「CRAFT(手技)」だ。食材の中に季節の移ろいを捉え、その景色を形にする大土橋さんの料理。香りや食感、味わいを緻密に計算し、色や形をフラクタル(自己相似)の概念を踏まえながら展開して、想像を超えた華やかな世界を描いていく。

 さらにパンペアリングとドリンクペアリングで、ほかの店にはない食の楽しみを広げる。「クラフタル」ならではの要素であるパンペアリングはより自然なスタイルに洗練され、以前にも増して料理と融合している。一度目にして口にすれば、忘れられない感動をもたらす大土橋さんの料理。次の季節にはどんな景色を見せてくれるのか、シーズンごとに足を運ぶリピーターが多いのも頷ける。
 将来は料理以外のお菓子やパン、コーヒーや紅茶などを専門にしたプロフェッショナルを育てながら、それぞれの力を合わせた相乗効果で新しいものを創造できる組織を作りたいという大土橋さん。その中でまた違ったスタイルの料理にも挑戦してみたいと考えているそうだ。

「クラフタル」オープン当時の「ホタテのアミューズ」と同じ木のモチーフをデザートで表現。木の器から削り出されたかのような木目模様のチップが印象的。秋の森を思わせる情景。

お客さまと“TALE(物語)”を作り上げる

「CRAFTALE」の中にあるもうひとつの言葉が「TALE(物語)」。店とお客さまとで、ともに物語を作り上げたいという思いが込められている。「クラフタル」は、紹介でいらっしゃるお客さまも多い。最初はシェフ仲間などの紹介が多く、その後はお客さまの紹介でまた新たなお客さまが増えていった。その結果、店にはリラックスしたムードが漂い、心温まる物語が生まれている。
 それもこれまでの修業先で築いてきた信頼関係があるからこそ。昨年1月には、恩師である渡辺雄一郎さん(現「ナベノ-イズム」シェフ)と飯塚隆太さん(現「レストランリューズ」シェフ)、久高章郎さん(現「ラターブル・ブレッツカフェ」シェフ)が偶然にも同じ日に「クラフタル」に食事に訪れ、さらには渡辺さんがすべてのテーブルを回ってくれたそうだ。「クラフタル」が愛されている象徴的な物語のひとつだと言えるだろう。

 初めてのお客さまには、とりあえず1杯、1品を無料でというような過剰なサービスはしない。それでも通ってくださるお客さまには、日頃の感謝を込めて記念日などにしっかりとお返しをする。自然体で関係を築いていくことで、愛され続ける店が作り上げられていく。

右上にはブドウとカブをまとったボタンエビ、左下にはブドウに見立てたフォワグラ。互いにねっとりとした食感のボタンエビとフォワグラを、ホエーとオイルを合わせたソースがつなぐ。

河﨑志乃=取材、文 井上美野=撮影

本記事は雑誌料理王国第280号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第280号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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