牛肉は、体を冷やす食材でも温める食材でもない、「平性」の食材だから、1年を通して使いやすい。
オーナーシェフの福永培華さんは、こう説明する。今回紹介する2品の料理も、まさに好対照だ。緑と赤のピーマン、キノコ、セロリ、牛肉を炒めて、甜麺醤と海鮮醤、豆板醤で味をつけた「牛肉の味噌炒め」は、ピリ辛で味が強い。
材料ひとつのキノコは、免疫力の強化や自然治癒力を向上させる。セロリは血圧を下げたり、ストレスが原因で起こるさまざまな不調をやわらげてくれる働きがあるという。牛肉も、病気に対する抵抗力を高めてくれる食材といわれる。
卵と醤油をからませた細切り牛肉をサッと炒めたら、一度、火から下ろし、野菜を炒める。
最後に牛肉を加えて、一気に甜麺醤や海鮮醤、豆板醤で味付ける。
一方の「サトイモのネギ炒め」は、サトイモとみじん切りにしたネギを炒め、水溶き片栗粉でとろみをつけ、塩と砂糖で味をつけ、最後に胡麻油で風味を出しただけの優しい味のひと皿だ。
「サトイモは、健康にいい食材。消化機能を助け、体を丈夫にして病気に対する抵抗力を高めてくれるといわれています」中国では、ガンに罹患した患者が毎日サトイモを食べ続けたら、3カ月後にはガンが消えた、という話もあるくらい、と福永さんは言う。ネギも、体を温めて発汗を促すことから、風邪の初期や冷えによる腹痛の治療に用いられてきたという。美林華飯店の人気料理で、10月中旬から12月にかけてベストシーズンを迎える上海蟹も、体を温めてお腹の冷えをとる働きがあるといわれている。
そんな王道の中華を提供する美林華飯店だが、伝統を守っているばかりではない。時代の移り変わりに応じて、変えてきたこともある。「例えば、今回お出しした牛肉の味噌炒めも、昔はセロリは入れませんでした。でも、食感やバランスを考えて、入れるようになった。伝統を守りつつ、今の時代に合わせていくことも必要だと思います」
それは、料理の提供の仕方にも現れている。
美林華飯店では、大皿料理は基本的に出さない。西洋料理のように洋風の食器に料理を盛り付け、コース料理のようにして、ひと皿ずつゲストにサーブする。「最近のお客さまのなかには、同じ皿から料理を取り分けることに抵抗感のある人も多くなりました。それを感じて、このようなスタイルをとるようになったんです」
オーソドックスな中国料理が、サーブの仕方を少し変えただけで、洗練された料理に変身する。柔軟に対応することで、旨さに定評のある福永さんの料理がさらに輝きを増す。長い歴史に磨かれた中国料理は、あらゆる面で奥が深い。
Baika Fukunaga
上海出身。
1989年に「中国飯店」の招聘で来日。以来18年間、「中国飯店六本木店」で総料理長を務める。2007年に「美林華飯店」をオープン。福永さんの味に惚れ込んで、足を運ぶ著名人も多い。
美林華飯店/Birinkahanten
東京都港区麻布台3-4-10
麻布誠工社ビル2F
03-3453-8718
●平日11:30~15:00、
17:30~23:00(22:30 LO)
土日17:30~22:00(21:30LO)
● 無休
● コース 5000円~
● 48席
山内章子 = 取材、文 星野泰孝 = 撮影
text by Shoko Yamauchi photos by Yasutaka Hoshino
本記事は雑誌料理王国第255号(2015年11月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第255号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。