ふなずしのメッカ滋賀!おすすめの名店3選


日本で発達した発酵食文化と滋賀で育まれた発酵の恵み

日本が属する東アジア地域は、 モンスーンがもたらす湿潤な気候により稲作が盛んで、 湿度の高い風土はまた、麹を使った発酵技術も育んだ。
麹のつくる発酵食品には、日本酒、醤油、味噌、みりんなど、さまざまなものがあるが、 日本を代表する料理のひとつである「鮨」の原型といわれる発酵食品「ふなずし」もそのひとつだ。ふなずしを育んだ滋賀の豊かな発酵食文化を通して、 日本の発酵食文化に対する理解を深めていこう。

発酵文化を育んだ滋賀の風土の特徴

  • 周囲を山に囲まれ、琵琶湖を擁していることから、水が豊富であった
  • 豊富な水が、豊かな米と魚を育んだ
  • 東海道や中山道などの街道が集中する交通の要であり、各地のさまざまな文化が流入した

日本の発酵食品の特徴である「麹」を使った発酵技術は、モンスーンアジア圏(東〜東南アジア)特有のものだ。温暖湿潤気候に属し、カビが生えやすい環境であるが、それをうまく利用して食品を保存するために発酵技術が発達してきた。稲作に適した気候であることから「米」を使った米麹が、とくに多く利用されている。稲作には大量の水が必要であり、そこには魚が棲む。米と魚の食文化は、このような風土から育まれてきた。

なれずしの代表ともいえる「ふなずし」で知られる滋賀県もまた、豊かな水に恵まれた土地だ。面積の6分の1を占める琵琶湖には周囲の山々から水が流れ込み、近江盆地などでは稲作が盛んだ。そして、琵琶湖にはニゴロブナ、ビワマスといった、独自の進化を遂げた淡水魚が生息している。ふなずしは、これらの魚を保存するための知恵が生んだものだ。東海道や中山道が通っている近江国は古くから日本の流通の要で、さまざまな文化が伝わったこともあり、多彩な食文化が形成されたといわれている。

滋賀ではほかにも、麹漬けなどの漬け物や味噌、日本酒なども盛んに作られている。江戸時代には三大和牛のひとつである近江牛の味噌漬けが将軍に薬として献上されてもいた。ふなずしは家庭で漬ける保存食であるとともに、正月などによく振る舞われる「ハレの日」の料理として今でも親しまれている。
そんな滋賀でおすすめの店3店を取材し、発酵食品使いについて話を伺った。

先人たちの知恵を次につなぐのが私の役目 徳山鮓 徳山浩明さん

「ふなずしの概念を変えた」と言われる徳山鮓。チーズのようなコクとさわやかな酸味、川魚独特の旨味がギュッと凝縮した味を目当てに、日本全国はもとより、海外からも多くの人が訪れる。店主の徳山浩明さんが、試行錯誤の末に作り上げた“スペシャリテ”だ。

「私たちは余呉湖のニゴロブナを使います。米は種籾から植えている近くの契約農家が育てた粒が大きめのもの。“徳山米”と呼んでいます。材料は、半径5㎞圏内にあるフナと米と塩だけ。あとは、仕込みの蔵に棲み着いている“徳山菌”がふなずしを作るのです」

 おそらくその工程の前後や途中には、徳山さんにしかわからない「菌との対話」が多々あるのだろう。「滋賀県の東西南北それぞれで少しずつ漬け方が違い、うちは湖北の方法を受け継いでいます。これが文化で、次の世代につなぐことも大事な役目。そのためには昔のままではなく、新しい発想や技術を取り入れていくことも必要です」と語る徳山さんは、伝統に新しい風を送り込む料理も考案しながら、滋賀の発酵食文化を支えている。

徳山鮓 鯖のなれずし
鯖のなれずし
弥生時代にもたらされたといわれる「なれずし」がケーキのような姿に。美しく巻かれた薄切りの鯖の中には、吉田牧場のチーズ。上にはミニトマトやエディブルフラワーをトッピング。乳酸がもたらす酸味とチーズのコクが秀逸。

レヴォ渡鮓

徳山さんは、全国へ出向き、他ジャンルのシェフとコラボすることもしばしば。2018年9月、富山県のフレンチレストラン「レヴォ」で、「徳山鮓」と「祇園大渡」、「レヴォ」の3人の料理人が作るフルコースを楽しむ会、その名も「レヴォ渡鮓」が開催された。一般的なコラボコースは、ひと皿ずつそれぞれのシェフが担当するパターンが多いが、これは3人一緒にひと皿を作り上げるというもの。発案から8カ月、顔を突き合わせての打ち合わせを3回行い、前日まで意見交換しながら完成した。「若いふたりは、たくさんの引き出しを持っています。3人の知恵を出し合えたからこそ、自分では絶対に作れないものができたと思います」と言う徳山さん。古来の発酵食にプラスする新しいアイデアが、また生まれているに違いない。

左から、「祇園 大渡」主人・大渡真人さん、徳山浩明さん、「レヴォ」料理長・谷口英司さん。
左から、「祇園 大渡」主人・大渡真人さん、徳山浩明さん、「レヴォ」料理長・谷口英司さん。
徳山鮓 徳山浩明

徳山鮓 徳山浩明
1960年滋賀県生まれ。京都の料亭「河しげ」で修行後、料理長として招聘され帰郷。東京農業大学教授(当時)で発酵学者の小泉武夫氏に出会い、地元食材や発酵の食文化を再認識。2004年、生まれ育った余呉に「徳山鮓」をオープン。

徳山鮓 滋賀

徳山鮓
Tokuyamazushi
滋賀県長浜市余呉町川並1408
0749-86-4045
● 12:00~14:30,18:00~21:00 完全予約制
● 不定休
● 昼 10000円~,夜 15000円~,宿泊 1泊2食30000円~
www.zb.ztv.ne.jp/tokuyamazushi

仕事というより「役割」自然とともに、菌とともに 魚治 左嵜謙祐さん


1784年創業。左嵜さんは七代目だ。子供の頃から仕込み蔵で父とともに作業をしてきた。蔵に立ち入ることができるのは、代々当主だけ。蔵付きの菌の働きをサポートするのが当主の役目。「菌の世話をすることを“守をする”といいます。私にとって“守”の正解は、その時の父の姿。菌は、いまだに何がどう影響しているかわからない。効率化ではなく“変えないこと”が大事だと思っています」。暑い蔵で汗をかきながら黙々と桶にフナを並べる。「魚が捕れるのも漬け込むのも、自分の都合ではできないのです。自然は待ってくれません。仕事というより役割なので『よしやるぞ』ではなく、淡々と進めることが大事なのだと思います。つねにフラットじゃないと、菌の変化に気づけませんから」。そう話す左嵜さんが今挑んでいるのは、ふなずしの食材としての活用だ。「昔はふなずしが出ると歓迎されている証拠でした。体調が悪いと、漬け込んだ米『飯』を湯に溶いて飲ませた。ふなずしが作ってきたこんな家庭の風景を残したいんです」。新たなメニュー開発でその可能性を探っている。

魚治 ふなずしのチーズ包み
ふなずしのチーズ包み
和の発酵「ふなずし」と、洋の発酵「チーズ」の合わせ技。初めてのお客さまには必ず出すという一品で、臭みのない魚治のふなずしのほどよい酸味と、とろりと濃厚なチーズの風味が不思議なマッチングに、必ず驚きの声が上がるという名物料理。
魚治 左嵜謙祐さん

魚治 左嵜謙祐
1976年滋賀県生まれ。大学では経営情報を学び、卒業後3年間「嵐山吉兆」で修行。家業を継ぐべく帰郷するも、3年後に父が他界。現在は、一子相伝のふなずしを守り継ぎながら、新たなメニュー開発にも余念がない。

魚治 滋賀

魚治
Uoji

滋賀県高島市マキノ町海津2304
0740-28-1011
● 9:00~18:00
● 火休隣接する「鮒寿し懐石 湖里庵」は、2018年9月の台風21号で被害を受け、現在再建中。
http://uoji.co.jp

世界に例のないことにチャレンジしたい 湖香 六根 杉本宏樹さん


「滋賀にはレジェンドがたくさんいらっしゃいますから、うちはあえて“ふなずし”を出しません」と言う杉本さんの料理は、この地の発酵文化の奥深さと食材の豊富さを実感させる。地元の醤油や甘酒、ぬかを駆使。天然ウナギにスッポン、ジビエ、四季を通じて収穫される多くの野菜といった食材が、発酵を通して独自の風味を醸し出しているのだ。唐辛子を発酵させ、川海老を発酵させ、ときに乳酸菌スペシャルや糀スペシャルといったオリジナルの味を生み出すなかで、「カカオ味噌」も誕生した。「もともとチョコレートが大好きで。カカオも発酵食品ですから、できるんじゃないかと。味噌屋さんには『油分が多すぎてできひんで』と言われたんですが、そう言われると逆に、世界にないものを作りたいと思って」。さまざまなカカオを取り寄せ、ローストの時間を変え、試行錯誤の末、年の月日を経て完成した。

新たな発酵に挑み続ける杉本さんだが、その発想の源は、豊かな米と清らかな水、雪にうもれる冬や暑い夏が長年培ってきた滋賀の発酵文化なのだ。

湖香 六根 滋賀 近江牛のぬか漬け
近江牛のぬか漬け
脂肪の少ないモモ肉を、地元のお茶で作った番茶オイルとともに真空加熱したあと、ぬかに漬け込む。付け合わせも、彦根の醤油蔵の醤油かすに、ナンプラーを利かせたピクルスなど発酵のオンパレード。
湖香 六根 杉本宏樹

湖香 六根 杉本宏樹
1981年滋賀県生まれ。工業高校卒業後、料理の道へ。京都・嵐山の料亭で修行し、近江八幡で独立開業するも、庭のある環境で店をしたいと探し続け、2017年6月、築180年の入母屋造りの建物で「湖香 六根」をオープン。

湖香 六根 滋賀

湖香 六根
Uka rokkon
滋賀県東近江市五個荘川並町713
0748-43-0642
● 11:30~14:30LO、 18:00 ~(要予約)
● 火・水休
http://uka-rokkon.com/



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