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【永久保存版】平成食の記憶VOL1〜平成元年 ふるさと創生一億円事業。地方の時代へ


「平成」とは、中国の歴史書『史記』と『書経』を出典とする元号で、「国の内外、天地とも平和が達成される」という意味。その平成の30年間は、料理界にとってどんな時代だったのか。残すところ3カ月足らずとなった今、時代を彩った料理人や文化人に、30年間を振り返ってもらった。

平成元年(1989)
ふるさと創生一億円事業。地方の時代へ

ふるさと創生一億円事業
1988年から89年にかけて、政府は各市区町村に地域振興のために1億円を交付した。「自ら考え自ら行う地域づくり事業」を標榜し、「ふるさと創生事業」とも「ふるさと創生一億円事業」とも呼ばれた。当時の内閣総理大臣竹下登が発案。ただのバラマキとも批判されたが、1億円を受け取った各自治体は観光整備などにも積極的に投資。経済の活性化を計った。

What’s HEISEI 1
1月7日 昭和天皇崩御。皇太子明仁親王が即位
1月8日 「平成」に改元
4月1日 消費税率3%スタート
4月21日 携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」発売
4月25日 リクルート事件、竹下登首相が辞任表明
6月24日 歌手の美空ひばりさん死去
11月4日 坂本堤弁護士一家殺害事件
11月9日 "ベルリンの壁"の崩壊
新語・流行語大賞*新語部門・金賞「セクシャル・ハラスメント」
日本アカデミー賞 * 最優秀作品賞『黒い霧』
ヒット曲*『Diamonds』プリンセス・プリンセス、『とんぼ』長渕剛
連載開始*『はじめの一歩』森川ジョージ、『電影少女』桂 正和
テレビドラマ*『愛しあってるかい!』、『教師びんびん物語2』

フランスでできて日本できないわけがないと信じた!オーベルジュ挑戦の30年
オーベルジュ オー・ミラドー 勝又 登さん

オランダ、パリ、ニースで修業し、昭和48(1973)年に「ビストロ・ド・ラ・シテ」(西麻布)、昭和53(78)年に「レストラン オー・シザーブル」(六本木)を開店し、すでにスターシェフとして注目を集めていた勝又登さん。ある日、勝又さんは人気店を他人に譲り、箱根に日本初のオーベルジュを開いた。それは、元号が「平成」に変わる3年ほど前のことだった。

勝又さんが惚れ込んだ天城軍鶏を飼育する堀江養鶏の堀江さん。その付き合いは30年以上になる。

有名シェフも箱根では新参者 地道に誠実に人脈をつちかった

フランスでは、山間の小さな村にも素晴らしいオーベルジュがあって、ヨーロッパから、世界中から食通が集まる。「フランスで、いちばん興味をもったのがオーベルジュでした」泊まるから食べるのではない。存分に食べたいから、泊まる宿。「地方の自然や風土、文化に敬意や憧れを抱いて、仕事を終えた週末に田舎で食べて過ごす暮らしを楽しんでいる。自分もいつかオーベルジュをやりたいと思っていました」当時、「オーベルジュ」を知っている日本人は、ほとんどいなかった。「でも、フランスであれだけ多くの人たちを惹きつけているんだから、日本でできないわけがないと思った。東京にいろんなものが集中している時代だったから、地方でもこんなことができるんだ、ということを証明したい気持ちもありました」

東京の人気店のシェフが、箱根でオーベルジュを開くというニュースをマスコミがほっておくはずもなく、開店準備の様子を収録したドキュメンタリー番組も作られた。「おかげさまで、オー・ミラドーの存在を多くの方に知っていただくことができました」昭和63年から平成元(89)年には「ふるさと創生一億円事業」が実施され、地方自治体が主導する地域づくりにも目が向けられるようになった。この事業によってつくられた福井県勝山市の「福井県立恐竜博物館」は、年間70万人の入館者を誇る人気博物館に。福島県葛尾村が行ったIT(情報技術)整備は、20数年後の平成23(2011)年、東日本大震災から村民を守った。いずれも「ふるさと創生事業」の成功例といえる。そして勝又さんもまた、箱根に根を張り、多くの地元生産者と交流しながら、地域活性化の一翼を担うようになっていく。

「私が東京でいくらか成功を収めていても、ここの人たちはそんなことは知りません。毎日のように地元の朝市に通って野菜を買う。そのうちに生産者と顔なじみになり、畑を見せてもらえるまでになりました」平成の30年間をかけて人間関係は築かれた。「オー・ミラドー」の料理は、この地の生産者とともに作り上げた料理でもあるのだ。

相模湾で獲れたアナゴとズッキーニのラケ
相模湾で獲れたアナゴをローストして照り焼き風にして、パプリカやズッキーニなどの野菜のラタトゥイユをはさみ、ズッキーニのソースと自家製のフランス七味を添えた。地元産の食材をつかったモダンなひと皿。

平成27年の箱根山の噴火 地元のみんなが頭を抱えた

「オー・ミラドー」がオープンしたときは、日本にたった1軒だったオーベルジュも、今では全国で350軒を数えるまでになった。「どのオーナーも自分と何らかのつながりがある土地で、その土地を愛し、オーベルジュを経営していらっしゃる。みんな同志ですね」勝又さん自身も、さまざまな生産者と出会い、人間同士の信頼関係を築いていった。馴染みの生産者に「オー・ミラドーで出している食材がほしい」と、他のレストランから声がかかることも少なくない。そこからまた、ネットワークが広がっていく。地域の経済も活性化する。もちろん、この
30年間、すべてが順風満帆だったわけではない。

「とくに、平成27(15)年に箱根山が噴火したときには大変でした。お客さまが半減して、箱根で商売をしているみんなが頭を抱えました」。今は、観光客の数も噴火前のレベルに戻りつつある。「良い食べ手の多いところだから良い料理人が集まり、おいしい料理が生まれるわけじゃない。やっぱりおいしい料理は、おいしい食材が多いところに生まれる。33年間ここでオーベルジュをやってきて、つくづくそう感じています」

今は「オー・ミラドー」を開いた頃と違い、誰もがSNSなどで自店の情報を発信することができる。「自分の店や料理の写真、映像を、多くの人に見てもらうことができます。地方で店をやっていく環境は、私たちの時代と違ってとても整ってきていると思います」都会と地方の間の壁はなくなり、"地方"は料理人の個性や発想、考え方を表現できる場所になった。

おもなローカルレストランの開業
平成10(1998)年 ヴィラ アイーダ(和歌山)小林寛司さん
平成12(2000)年 アル・ケッチァーノ(山形)奥田政行さん
平成15(2003)年 オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ(青森)笹森通彰さん
平成17(2005)年 ル・ミュゼ (北海道)石井誠さん
平成17(2005)年 カイノヤ (鹿児島)塩澤隆由さん
平成18(2006)年 リストランテ ミヤモト(熊本)宮本健真さん
平成21(2009)年 レストラン ビオス(静岡)松木一浩さん
平成26(2014)年 レヴォ(富山)谷口英司さん

勝又さんにとって平成とは?
おいしい料理は、人が多いところに生まれるのではない。おいしい食材が多いところに生まれるのだ。そのことが確実に広まった。

山内章子=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国2019年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年3月号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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