海外出店を持ちかけられたら?


Q.海外出店をもちかけられた。何に注意すればいいですか?

長らく都内で割烹店を経営しています。先日、お店にお越しいただいた海外のお客さまから、「私の国でもお店をやってほしい」と提案されました。のれん分けどころか、いきなりの海外展開で驚いていますが、せっかくのご縁なので、チャレンジしたいという気持ちもあります。

しかし、聞くところによると、そのお客さまは、すでに和食店を何店か経営しており、ある程度のノウハウや人材もあり、ブランドを使いたいだけのようでした。今のお店もありますので、現地に入って手取り足取り指導するのは難しく、ありがたい話ではあるのですが、名前を使って勝手に営業されてしまって、看板に傷がつくのも怖いです。どのような点に気を付けて契約したらよいでしょうか。(40代、割烹料理店 大将)

A.いくつかチェックポイントをお教えいたしますが、かならず専門の弁護士に相談をしましょう

和食は、いま世界どこの国でも人気ですね。以前は、寿司などがメインでしたが、最近では、日本式のラーメンや焼き肉など、広い意味での和食が人気なようです。これにともなって、国内で一定のブランドを確立しているお店では、海外展開のお誘いも少なくありません。日本の飲食事業者が、海外のブランドを日本に持ってくるのとは、逆のパターンです。

日本で飲食店を経営する時には、物件の契約以外では、あまり契約書を交わしませんから、いきなり海外との契約で、驚くのも無理はありません。ライセンス料などでかなりのお金が動くので、専門家をつけるべきところですが、今回は、最低限チェックしておくべき事項を解説してみます。

契約の際、役割分担を明確に

もっとも重要なのは、お互いの役割分担です。先方は、基本的に、ライセンス料や指導料などの「お金を払う」というシンプルな役割がある一方で、こちらはいろいろな選択肢があります。お店の名前だけ使わせればよいのか、技術指導もするのか、弟子を常駐させるのか、いろいろな役割があります。これらは契約の根幹ですから、はっきりとさせておきましょう。開店する直前になって、仕入れルートや調理の指導までしないと、とても営業できる状態ではないことが発覚する場合もあります。

次に重要なのは、お金の話です。ライセンス料は毎月一定額を払うのが通常ですが、固定なのか、売上に比例した歩合なのか、指導を行う場合は、人件費や渡航費などの費用をどちらが払うかなど、決めることがたくさんあります。物を売るのと違って継続的な関係ですから、何にどれだけお金がかかるのか、あらかじめシミュレーションをしておきましょう。最初の権利金や、保証金を定める場合もあります。

それから、自店のブランドの価値を維持するためのルールを忘れてはなりません。めちゃくちゃな料理を出されても、文句を言えない契約では困ります。誰か人を出し、その指導に従わせる、といった形がベストですが、それができなければ、メニューや価格については事前同意が必要にしておくなど、お店のクオリティを維持できる方法を考えなければなりません。

トラブル時の裁判は日本で行う契約に

最後に、実務的に重要なのは、紛争の際の管轄です。外国の企業とトラブルになった場合、日本で裁判するのか、それとも、相手の国で裁判をするのかによって、圧倒的に有利不利が変わります。

飲食店の規模で、相手の国で裁判をするのはコスト的にほぼ不可能ですから、事実上、戦う前に負けていると言わざるを得ません。管轄は、条約の関係で、国によって定め方が変わるという、ひじょうに難しい問題がありますから、この部分だけでも専門家に相談するのがよいと思います。

ざっと解説してみましたが、やはりなかなか複雑ですから、「専門家に相談する」というのが最終的な回答になりそうです。

飲食店専門 弁護士 石﨑 冬貴さん
東京都生まれ。弁護士、社会保険労務士。飲食店法務を専門的に取り扱うほぼ唯一の弁護士。著書に『なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?』、『飲食店の危機管理【対策マニュアル】BOOK』(ともに旭屋出版)がある。

本記事は雑誌料理王国298号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は298号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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