ごま油が味を引き立てるマグロとカラスミを使用した絶品パスタ。山根大助さん(ポンテベッキオ)



イタリアにはご存知の通りオリーブオイルがあり、食卓に欠かせないものである。山根大助シェフは「イタリア料理にオリーブオイルを使う最大の目的は、香りと味をプラスすることにあります。ただし、すべての料理にオリーブオイルを使えばよいとは思っていません」と、油の使い分けの必要性を語る。

「例えば、生魚の切り身にオリーブオイルをたっぷり回しかける、それがカルパッチョだと思っている人が多いですが、それは誤解です」
青身魚をカルパッチョにするにはオリーブオイルが適しているが、白身魚の場合は、その旨味や香りをオリーブオイルの風味が消してしまい、結果、味が淡白になってしまう。それではオイルが素材を生かしたとはいえない、と言う。
「食材自体が持っている繊細な脂。それを、付加した油が殺してしまってはいけません。今回食材として選んだ赤身の魚などは、太白胡麻油がいいと思います」


ウイキョウの葉、イタリアンパセリの茎と、太白胡麻油をかけて1時間マリネして旨味を増した本マグロ。それを軽く冷燻したものを刻んで、再び太白胡麻油をかけておく。マイルドな太白胡麻油が、本マグロの旨味や薫香を包み込んでいる。「マグロのタルタルステーキを作るときに、ピーナッツオイルで調理することがあります。ピーナッツもごまも種子だと考えると、近いものがあると思います。本当に繊細なオイルが、軽く燻製をしたマグロの旨味や風味をうまくコーティングして守り、麺やソース、具と合わせたときにも全体をつなぎ、一体化させてくれるんです」

また、太白胡麻油はオリーブオイルと違って無色透明である。今回パスタの仕上げに回しかけた、卵黄のソースにも、山根シェフはこの太白胡麻油を使っている。「卵黄だけを湯煎に掛けると当然凝固してしまう。ですから、油分は必要。しかし、オリーブオイルの香りや色は不要。そこで太白胡麻油を使って乳化させて、マヨネーズのような食感のソースを考えました」
卵黄とわずかな塩、そして太白胡麻油を湯煎に掛けて混ぜたシンプルなソースが、皿全体を優しくまとめあげた。

香ばしく焼くための油分と各素材をまとめる油分

ごま油なのに、強い香りで邪魔することがない。太白胡麻油は、食べてもらいたい主素材の味を邪魔しない。その特性を活用して山根シェフは、夏らしい前菜を考案した。今が旬、生でも食べられる甘みの強いフルーツコーンを主役に据えた、冷たいスープとパート・フィロ包みだ。 スープは、トウモロコシの芯と昆布水で煮出した出汁をベースに、トウモロコシの実をたっぷり入れて煮込んだ、素材の味がダイレクトに伝わる仕立て。具はソテーしたフォワグラ。仕上げに太白胡麻油を注ぐ。「癖のない太白胡麻油の役目は、フォワグラの油分とフレッシュなコーン、それぞれを尊重しながら調和させることなんです」と山根シェフ。

パート・フィロにたっぷりの太白胡麻油を塗り、それを3枚重ねて、バターを絡めたトウモロコシの粒を包んで焼く。パイのフィユタージュをヒントに、しかしより軽やかに食べさせたいとパート・フィロを選択。外層の香ばしくパリリとした食感が軽快だ。
「中のコーンはプリっと瑞々しく芳醇なバター味。だから、皮の部分までバターを使うと重い。しかしコーンの水分が皮に染みてベチャっとしてはいけないので油脂は必要。さくっと焼き上げたいが、食べたときに余計な油分を感じさせたくない。これに応えるのが太白胡麻油でした」

オイル選びが料理を左右する

多くの選択肢があるなか、今はこのように料理人が正しくオイルを選び、料理ごとに使い分ける時代だ、と山根シェフは言う。
「たとえばリゾットの仕上げには油分が必要ですが、これも素材によっては、香りや色がない太白胡麻油でつなぐのもいいかもしれません」
オリーブオイルを使うべき料理なのか、バターのコクが欲しいのか。それとも、ハーブオイルでアクセントが欲しいのか。あまたあるオイルの中から、各オイルの特性を理解して選び、使いこなせてこそ旨い料理が完成する、と山根さんは考えている。イタリア料理においても、使い方の幅が広い太白胡麻油は、今回の2品のほかにも応用の可能性を多分に秘めている。

【レシピ】本マグロの軽いスモークと太白胡麻油のタリオリーニトロリとした太白卵黄とカラスミ添え

茹でたタリオリーニをパスタパンに移し、最後にマグロを加える。仕上げに太白卵黄ソースとカラスミをかけ、オリーブオイルで風味を付ける。全体がまろやかで優しくまとまっている。

【材料】

● 本マグロのスモーク(作りやすい分量)本マグロ(中とろ)…500g/ウイキョウの葉 …2本/イタリアンパセリの茎…6本/太白胡麻油…大さじ1/スモークウッド(桜)…適量/紅茶…適量

● パスタ(2人分)
パスタ(タリオリーニ)…160g/太白胡麻油 …大さじ3/ニンニク(縦半分に切り芯を取り除く)…1片/鷹の爪(みじん切り)…少々/白ネギ(縦半分に切り、5ミリ幅にスライスしておく)…40g/アンチョビ…8g/昆布水(1ℓの水に25gの真昆布を10時間浸したもの)…180㎖/イタリアンパセリ(みじん切り)…6g/シブレット(細かい小口切り)…8g/本マグロのスモーク…80g/イタリア産ボッタルガ(皮を剥いてみじん切り)…8g/エキストラヴァージンオリーブオイル…少々

【作り方】

1. 本マグロのスモークを作る。マグロに重量の0.3%分の塩を打ち冷蔵庫で1時間おく。水分が出て来たらキッチンペーパーで丁寧に拭き取る。

2. 1に、ウイキョウの葉、イタリアンパセリの茎、太白胡麻油をつけてラップ紙で覆い1時間程度マリネする。

3. 2のマグロの表面をキッチンペーパーで丁寧に拭き取る。スモークウッドと紅茶の葉で10分間スモーク(冷燻)する。

4. 7㎜角に切る。

5. フライパンに太白胡麻油とつぶしたニンニク、鷹の爪を入れ弱火にかけ、じっくりと香りを引き出す。

6. 白ネギを加え、塩(分量外)を加え、弱火でさっと炒める。

7. アンチョビを加え軽く炒めたら、昆布水を加えて煮込む。ニンニクは取り出す。

8. 湯に1%の塩を入れてタリオリーニを茹でる。

9. 太白卵黄ソースを作る。ボウルに卵黄、太白胡麻油、塩(分量外)を入れて混ぜ合わせる。湯煎しながらさらに混ぜ、とろりとした状態に仕上げる。

10. ゆであがったパスタを7に加え、強火にし、一気に煮絡める。イタリアンパセリとシブレットを加え、4のマグロに塩と太白胡麻油(各分量外)をかけて、投入。さっと絡めたら皿に盛りつける。

11. 9のソースとカラスミ、エキストラヴァージンオリーブオイルを振りかける。

【レシピ】ジューシーコーンのパート・フィロ包み焼きと冷たいピュアなトウモロコシのスッコ フォワグラ添え 太白胡麻油を使って

コーンの黄色が効いた夏らしい前菜。フレッシュなコーンのスープとフォワグラの濃厚さをまとめあげるのが、最後にカップに注ぐ太白胡麻油。右のパート・フィロは太白胡麻油を塗って3層を重ね、パリリとクリスピーに焼き上げる。

【材料】

● ジューシーコーン(作りやすい分量)
トウモロコシ…1本/蜂蜜…少々/昆布水(1 ℓの水に25gの真昆布を10時間浸したもの)…100㎖/塩…適量/魚醤入りバター(ポマード状の無塩バターと南イタリア産コラトゥーラを10:1の割合で攪拌したもの)…50g

● トウモロコシのスッコ(作りやすい分量)
トウモロコシの芯…3本/昆布水…650㎖/トウモロコシの実…500g
パート・フィロ(2人分)

● パート・フィロ(20㎝×16㎝幅)…12枚/太白胡麻油…大さじ3

● 仕上げ(2人分)
パート・フィロ(3枚重ね)…4組/ジューシーコーン…160g/トウモロコシのスッコ…200㎖/トウモロコシの粒(生)…16粒/フォワグラ…36g(一つ18gの立方体に切る)/太白胡麻油…適量/塩、コショウ…各適量/皮付きヤングコーン(縦半分に切る)…1本

【作り方】

1. ジューシーコーンを作る。トウモロコシの皮を剥いておく。圧力鍋に蜂蜜、昆布水、塩を入れて混ぜ合わせ、トウモロコシを加え火にかける。蓋をして蒸気がたまったら火を弱め、約3分間加熱する。

2.蒸気を抜き、トウモロコシを取り出し、包丁で実を外す。1の蒸し汁を別の鍋に移し、適当な濃度に煮詰めて2のトウモロコシの実と混ぜ合わせる。魚醤入りバターを絡めながら、氷せんで冷やす。

3. トウモロコシのスッコを作る。鍋にトウモロコシの芯と昆布水を入れて加熱し、約15分間煮だし、だしをとる。火を止めて濾す。

4. 3にトウモロコシの実を入れて加熱する。蓋をして20分間煮込む。ミキサーに掛け、裏ごしして急冷する。塩で味を整える。

5. ラップ紙を敷いた台の上にパート・フィロを広げ、太白胡麻油を刷毛で薄く塗り付ける。

6. 5にパート・フィロを重ねて同様に胡麻油を塗る。もう一度繰り返し3枚重ねにする。

7. 6にジューシーコーンを乗せて包む。細長くなるように巻き込み、両端を折り曲げる。

8. 7を天板に乗せ、表面に刷毛で太白胡麻油を塗る。210℃湿度10%に設定したスチームコンベクションオーブンに入れて約4分間加熱する。(焼き色が付きにくい場合はサラマンダーに入れてこんがりと仕上げる)。

9.フォワグラに塩、コショウをして、よく熱したフライパンで上下両面返しながら焼く。 150℃湿度30%に設定したスチームコンベクションオーブンに入れ、1分間熱する。

10. トウモロコシのスッコをカップに注ぎ、9のフォワグラ、生のトウモロコシの実を散らす。太白胡麻油を回しかける。

11. 8を、皿に皮付きのヤングコーン、10ともに盛りつける。

Daisuke Yamane
1961年大阪府生まれ。84年に渡伊、ミラノ「グワルティロ・マルケージ」をはじめ各地で修業。86年大阪・本町に「ポンテベッキオ」を開店。04年イタリア政府からカヴァリエーレ章を叙勲。現在大阪に5店を展開している。

ポンテベッキオ
PONTE VECCHIO
大阪府大阪市中央区北浜1-18-16大阪証券取引所ビル1F
06-6229-7770
● 11:30~14:00最終入店 18:00~21:00最終入店
● 不定休
● 48席
www.ponte-vecchio.co.jp


三好彩子=取材、文 村川荘兵衛=撮影

本記事は雑誌料理王国第228号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第228号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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