19歳で渡仏し、地方を中心に12年間修業。帰国後、32歳という若さで「レストランラフィネス」を開店した杉本敬三さん。35歳以下の料理人を発掘するコンペティション「RED-U35」で、見事グランプリを獲得した注目の実力派だ。「伝統的なフランス料理をベースに、分解、再構築するのが自分のスタイル。尊敬する師匠はいますが、誰にも師事せず、レシピも持たない。自分がおいしいと思うものだけをお客様に提供していきたい」と語る。
今回、杉本さんが披露したのはペルドローとキャベツの伝統的な組み合わせ。ブレゼしたキャベツに焼いたペルドローを入れ、余熱でゆっくりと火入れすることで、美しいロゼ色に仕上げるのがポイントだ。筋肉質でしっかりした歯応えのモモ肉、しっとりとやわらかいムネ肉、ねっとりとしたササミの異なる食感が楽しめる。ソースは、ペルドローと相性のいいマッシュルームをガラの2倍入れ、旨味を凝縮している。
「ジビエは環境やエサによって個体差が大きい。それをどう料理するか、判断することもジビエの醍醐味。自分も大自然に立ち向かう姿勢で挑んでいます」と杉本さん。
レストラン ラ フィネス
Restaurant La FinS
東京都港区新橋4-9-1 新橋プラザビルB1F
03-6721-5484
● 18:00~21:00LO(ランチは土曜のみ 12:00~13:30LO)
● 日、月休
● コース 昼8000円、夜15000円~
● 10席
www.la-fins.com
小林薫=取材、文 富貴塚悠太=撮影
text by Kaoru Kobayashi photos by Yuta Fukitsuka
「ジビエが苦手な人にもおいしく食べてほしい」と和知シェフが作ってくれた料理は、メンチカツにカレーとバターライスを添えたもの。
「どこがフランス料理?どこがジビエ?と思われるかもしれませんね」と言いながらも、余裕の笑み。食べれば、それは間違いなくジビエ料理であり、フランス料理として構成されているのがわかってもらえる、と知っているからだ。
メンチカツの原形は、ミンチ肉のパテで腎臓などの内臓を包んだ「ロニョナード」だ。シェフはこのフランス料理をアレンジして、焼き目を付けてキューブ状に切った鹿肉とフォワグラを、鹿肉のミンチで包み、衣を付けて揚げた。結果、メンチと呼ぶにはあまりにも贅沢な皿に仕上がった。ナイフを入れるとフォワグラと一緒に鹿肉がごろり。カリカリした衣とトロトロのフォワグラ、そして鹿肉のモッチリした食感が口の中で混ざり合い、調和する。添えられているのも単なるカレーソースではない。煮込んだ野菜スープをカレーやその他のスパイスで味付けし、血の多い鳩の内臓でコクを出した。ジビエ独特の血のソースである。
「マルディグラ」の人気の理由に、形にとらわれないシェフの調理法と、食材に対する並々ならぬ思いが挙げられる。「山の恵みを分けていただく」ジビエの本意を考えて輸入品はやめた。期間も区切って国内の食材を使おうと決めたのだ。調理するのは蝦夷鹿のほか、北海道や新潟の鴨、岡山の猪。気候によって変動はあるが、鴨を出す期間は毎年11月から12月中旬まで。猪は1月下旬から3月、蝦夷鹿については12月の2週間に限られる。
調理面で特筆すべきは、スパイスや調味料使いの上手さ。蝦夷鹿にはクミンやカレースパイス、鴨にはパプリカやハチミツ、猪にはハッカクやシナモン、コーヒー豆などを使う。「スパイスはジビエの味を変えるからと敬遠するシェフが多い。正直、私にも迷った時期がありました。けれども思い切って使ってみて、スパイスは、味を変えずに香りに変化をつける味方だと気づいたんです」
強い香りのスパイスであっても、野生の食材なら、その力に負けることはない。むしろスパイスがジビエの味わいを飛躍的にすばらしくする。これは、シェフが実際に鹿狩りに同行して達した境地。迷いが吹っ切れた瞬間だった。自然への畏敬、命と向き合う潔さと緊張感。それを忘れないシェフの厨房からは、これからも独創的なジビエ料理が生み出されていくことだろう。
鹿肉のミンチは包丁で叩くようにして作る
鹿肉の脂は牛や豚の脂とは質が違うので、手でこねても粘りが出ない。香味野菜等と混ぜながら、包丁で叩き切るようにまとめていく。
食感の違いを出しておいしさを演出する
鹿肉をやわらかなフォワグラと合わせたり、まわりに衣を付けて揚げたりすることで、鹿肉のほどよい弾力感を強調する。
付け合わせの血のソースをスパイシーに仕上げる
鹿肉はクミンやカレー、ブラックペッパー等と相性がよい。付け合せのソースにスパイスを用いるとジビエの野生臭が風味に変わる。
【蝦夷鹿】 北海道・中標津町産
雌雄や大きさなどの指定はせず「、信頼できるヘーゼル・グラウスマナーの山崎孝嗣さんにお任せしています」と言うシェフは、ライセンスは持っていないものの、毎年、鹿狩りに参加している。
マルディ グラ
Mardi Gras
03-5568-0222
● 18:00~24:00LO
● 日休
● アラカルトのみ 前菜900円~ メイン2100~16000円
● 22席
上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影
text by Kurumi Kamimura photos by Yasutaka Hoshino
本記事は雑誌料理王国第235号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第235号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。