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肉については神谷さんに聞け!「デュ・ブッハ」神谷英生さん


熟成から加工、養殖へと広がる世界肉のエキスパートに妥協はない

「肉については神谷さんに聞け」いつの間にか料理人の間では定説となった。東京、中目黒駅から歩いて7分ほど。「ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ」のオーナー、神谷英生さんがその人だ。店内の特注の熟成庫では、豚肉、牛肉、鹿肉、馬肉など、さまざまな肉が熟成中。手作りの生ハムやサラミも食欲をそそる。レストランのほか、デリカテッセンも経営し、人気の自家製黒豚ベーコンは高島屋でも販売されている。肉の熟成や調理法だけでなく、家畜の肥育、屠殺、加工などにも精通し、ジビエにも詳しい。肉への飽くなき研究心と、「わかることなら何でも教えますよ」という気さくな人柄に、人が集まる。独立、開業を目指す料理人からアドバイスを求められることも多い。真剣な人なら、誰の相談にものる。神谷さんの肉にかける情熱に魅せられ、顧客から従業員になった人までいるというから驚きだ。

厳選した肉を絶妙なテクニックで焼き上げる。その迫力ある旨さが人気の理由だ。

専門分野があると世界はどんどん広がっていく

肉への興味は、鴨から始まった。神谷さんが育った新潟県の糸魚川周辺は鴨の養殖が盛んで、すき焼きといえば「鴨すき」のこと。鴨の旨さを存分に味わって育った。

しかし、「肉のエキスパート」になるまでは試行錯誤の連続。牛や豚の生産者に頻繁に会いに行き、時には彼らを店に招いた。調理した肉を食べてもらい、「こういう仕上がりになるように肥育してほしい」と説明して頼んだこともあるという。「一番困ったのはジビエです。ハンターから直接購入するんですが、満足いくものがなかなか手に入らない。鹿や熊など、仕留めた後の放血や洗い方によっては香りがなくなってしまう。香りが抜けてしまったら、せっかくのジビエが台無しです」

左からマネージャーの山﨑武指さん、シェフの野村慎太郎さん、神谷さん、料理人にしてソムリエの田島志保さん、ソムリエの増井秀夫さん。スタッフ全員、神谷さんにはいい刺激をもらうという。


そこで神谷さんは、ハンターにもこちらの意図を明確に伝えようと努め始めた。話し合いながら処理の仕方を変え、「おいしい」のための最善の方法を摸索した。こちらからリクエストをすることも多かった。たとえば野生の鴨については、窒息させるのと首を切るのとでは、料理後の風味がまったく異なるのだ。
「現在の店をリニューアルした時に熟成庫を注文したんですが、これもひと苦労でした。庫内の温度、湿度、風の流れをどうするかなど、自分なりにデータを収集し、研究者にも意見を求めたんですが、それだけでは決められない点もある。実際に肉を入れて、実験を繰り返しました」

一方、スムースに運ぶこともある。「お客様との会話ですね。うちの店を訪れる目的はただひとつ、肉を食べること。目的がはっきりしているから、要望に応えやすく、結果、店の信頼にもつながっていきます」
 

後輩に対して「何か専門分野を持ちなさい」と神谷さんがアドバイスするのは、このようなメリットがあるからだ。バイタリティの塊のような神谷さんのもとから独立して行った人たちは、みんな開業に成功している。そんな神谷さん自身にも、実は、後輩に負けないくらい大きな夢がある。「近い将来、鴨の養殖を始める予定です。また、数年のうちには、スペインやイタリアに負けない最高の生ハムを完成させてみせます」

「ブッパ」を訪れると、みんな元気になる。旨い肉のエネルギーと神谷さんのエネルギー、この両方をいただくからだ。

千葉県産 ジャジー牛のグリエ シャンピニョンのピュレソース

ジャージー牛のロース肉を使用。肉に塩、コショウをし、炭火でじっくりと焼き上げたら、休ませておく。クリーミーな味わいのジャージー牛には、なめらかに仕上げたキノコのソースがよく合う。付け合せの自家製ベーコンも深い味わい。

リニューアルDATA

開業年月日  2009年2月27日
開業資金額  1600万円 ( 自己資金800万円 借金800万円)
借入先    銀行、日本政策金融公庫
資金内訳   内装400万円
       物件取得162万円
       厨房設備200万円
      家具・その他備品
      (ドライエージングを含む) 838万円
座席数    38席
スタッフ数  キッチン4名、ホール3名
客単価    8000~10000円
家賃     27万円
坪数     約27坪
月商     約900万円

ディプレイとしても機能する熟成庫

店内の熟成庫では、さまざまな種類の肉が熟成中。リューアルの際、もっとも費用を投じたのが特注の大型熟成庫(右上)で、約800万円。庫内は整理され、ディスプレイとして眺めるのも楽しい。

スタッフは、ほぼ全員がソムリエの資格をもち、ゲストの質問や要望に応える。ワインセラーL a Boucherie du Buppa には約270本のワインが並ぶ。

備長炭でジャージー牛を焼く神谷さん。厨房にはあまりお金をかけていないが、炭焼き台はオーダーした。

厨房内には炭用の焼き台とオーブンがあり、脂の多い豚肉などの場合は、まずオーブンに入れて低温でロースト。少し脂を溶かしてから炭で焼く。

Hideo Kamiya

1967年、新潟県生まれ。東京・六本木「住友迎賓館」等を経て、97年、東宝グループの総料理長に。2004年、ソムリエの山﨑武指さんとともに、中目黒に「トロワピエロ」を開店。09年にリューア
ルして、現在の店名に変更した。11年、池尻大橋に「フレンチデリカテッセンカミヤ」をオープン。

ラ・ブーシェリー・デュ・ブッパ
La Boucherie du Buppa

東京都目黒区祐天寺1-1-1
リベルタ祐天寺B1F
☎03-3793-9090
● 18:00~翌2:00(翌1:00 LO)
(日のみ~24:00〈23:00 LO〉)
●月休
●ア ラカルトのみ
炭火焼き料理 霞ヶ浦産青首鴨 5000円、本州鹿3000円、蝦夷鹿3500円、伊豆天城産黒豚ロース1800円、伊豆天城産黒豚バラ肉1200円、
黒毛和牛3000円~、ジビエ レバー・心臓1300円など
●38席
http://dubuppa.com

上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国227号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は227号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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