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重層的な味わいと余韻をどう出すか。フレッシュな香りは仕上げに不可欠。手島純也さん


シェフのスペシャリテに学ぶ

フランス料理の伝統を守りながらも、独自にブラッシュアップを続けるジビエの達人たち。知恵と技の詰まったスペシャリテを通して、完成度の高いジビエ料理の鉄則を学ぼう。

ハト(上左)は散弾銃の玉が入っていないか確認しながら捌く。

日本における伝統的フランス料理の担い手として、「和歌山にこの人あり」と注目をされる手島さん。「ジビエのトゥルト」は今やその代名詞と言われる。クラシックなフランス料理を軸にしようと思うなら、誰もが手島さんの秘訣を知りたいと思う。

シェフ自らが「感動の味」と呼ぶ「ジビエのトゥルト」に出会ったのは、15年前のパリ。師・𠮷野建シェフのそれだった。以後、その味に近づき、越えようと日々努力してきたが、「まだあの味には到達していない」と厳しく自分を評価する。

最近のジビエブーム。手島さんの店でもジビエの注文は増え、この好機に乗らない手はない。しかし――。「単なるブームで終わらせないためには今が正念場。ジビエの真のおいしさを伝えることが私の命題」と言う。毎年、ジビエシーズンの到来は待ち遠しいが、それは自らの成長が試される時でもあるのだ。

1頭買いしている和歌山県の鹿は厨房で解体し、5日間熟成させて水分を抜いた後、オイルとハーブに漬けて保存する。

仕込んでおいたものに
新鮮な素材を重ねる

時代の変化に伴い、伝統的な料理にも変化や進化は必要だ。しかし、やみくもに変えてはならない。「なぜ、この料理が現代まで生き残ってきたのか」「なぜ、こう調理する必要があるのか」など、一つひとつ検証することで、はじめてブラッシュアップの方法が見えてくるものだ。手島さんがメイン料理で大切にしているものに、「重層的な味わいと余韻」「フレッシュな香り」などが挙げられる。
「ジビエのトゥルト」では、これをどう実現しているか――。


鹿とハトなどの肉でフォワグラをサンドし、これを鹿、猪、キジ、コルベールなどをミンチにしたもので包む。その際、あらかじめ仕込んでおいたミンチ肉の中に、捌きたてのハトのササミや内臓、豚の血などを入れてフレッシュな風味を出す。「ソースも同じ発想で、9割方仕上げておいたジビエソースにフレッシュな内臓や血を加えます」

市販のパイ生地を使うシェフも多いが、手島さんは、手作りの折パイを使ってパリッと焼き上げる。

温度管理も複雑。食材がガス台やオーブン、冷凍庫や冷蔵庫を分刻みで行ったり来たりして、ようやくつやつやとした丸いパイができ上がる。「技だけでなくチームワークも大切」。厨房をスピーディに動くスタッフの連帯感、信頼感があってこそ手島流ジビエが実現するのだ。

ハト【ハト目ハト科】

ハト目には42属あり、そのうち食用とされるカワラバト(ドバト)は、5000年以上前から世界各国で飼養されていたと言われる。中国、フランスのほか、エジプトやギリシャ等の地中海沿岸諸国でもよく食される。今回シェフが使ったハトはフランス産。

ジビエのトゥルト
パイの中心にはフォワグラ、鹿のロース肉、ハトのムネ肉。それらをさまざまなジビエのミンチ肉が取り巻いて、きれいな層を形成している。濃厚な赤ワインソースの余韻は長く、付け合わせのビーツのピュレ、根セロリのピュレがアクセントになっている。

手島シェフに学ぶ❶

「パイの詰め物にフレッシュな風味を」

①鹿、猪、キジ、鴨を挽いておいたものに、捌きたてのハトのササミ、砂肝、心臓を小さな正方形に切って混ぜる。赤・白のワイン、赤ポルト酒、コニャック、香草やスパイスで調味。

②食感に変化を出すために適当な大きさに刻んだピスタチオを加え、さらにハトの肝臓をペースト状にしたもの(半量)や豚の血、塩、コショウを加える。

③ハトのムネ肉、鹿のロース肉、フォワグラは、成型をイメージして適当な大きさに切り、それぞれに塩・コショウをふって軽く下焼き。冷凍庫や冷蔵庫で締める。

④ハトのムネ肉と鹿のロース肉でフォワグラを挟んだら、ラップでぎゅっと締めて密着させる。このままの状態で冷蔵庫に入れて3分くらい冷やしておく。

⑤④をラップから取り出し、②の挽肉で包むようにして形をととのえたらパイ生地に包む。180℃で14分、220℃で5分ほど焼いたら5、6分休ませ、最後に300℃で1、2分焼く。

手島シェフに学ぶ❷

「2種のソースを合わせて重層的味わいとフレッシュ感を出す」

仕込んでおいたソースと作りたてのソースを合わせてアルコールのジュを作るような感覚。ほどよい濃縮感で余韻が長く、香り立つソースに仕上げる。

①鍋にニンニクとオイルを入れ、香りが出てきたらジビエの骨を入れ、タイム、ローリエを加えてしっかり炒めて旨味を出す。さらに220℃のオーブンで約3分間加熱。これに赤ワイン(カベルネ)を適量入れて煮詰める。

②赤ポルト酒とコニャック(いずれも赤ワインとほぼ同量)を入れて軽く煮詰める。手島シェフの場合、赤ポルト酒のタイプにはあまりこだわらないが、コニャックは香りのよい上質なものを使っていると言う。

③②の鍋に仕込んでおいたソースを加える。このソースは、大量のジビエの骨とスパイスやハーブを炒め、そこに、赤ワイン、フォン・ド・ヴォー、フォン・ド・ボライユを加えて旨みを煮出したもの。直前に、作りたてのソースのフレッシュさをプラスして完成させるため、90%くらいの完成度にしておくのがポイント。

④仕込んでおいたソースを加えた後、濃いようであれば、水代わりにジビエのコンソメ(今回はキジのコンソメ)を加えて濃度をととのえる。ていねいにアクをとってから、一度漉す。

⑤ハトの内臓や血を加え、沸騰しないように静かに火を入れる。これをもう一度漉し、バターを馴染ませたら、最後に赤ワインビネガーで酸味を加える。アルコールの風味が抜けきらないように仕上げること。

ハトの肺(左上)と、筋を取り除いた肝臓に包丁を入れてペースト状にしたものの半量(あと半分はパイの詰め物に使用)をソースに加える。

Junya Teshima

1975年、山梨県生まれ。地元のレストランで修業後、2002年に渡仏。パリの「ステラマリス」等で経験を積む。07年に帰国。パークホテル芝「タテルヨシノ」料理長を経て、「オテル・ド・ヨシノ」の料理長に就任。

オテル・ド・ヨシノ
hotel de yoshino
和歌山県和歌山市手平2-1-2
和歌山ビッグ愛12F
☎073-422-0001
● 11:30~14:00LO、17:30~21:00LO
● 月・第2火休(月が祝日の場合は営業、翌火が振り替え休)
●コース 昼3700円~、夜7000円~
●35席
www.hoteldeyoshino.com

上村久留美=取材、文 村川荘兵衛=撮影

本記事は雑誌料理王国258号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は258号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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