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チームで議論しながら成熟していく「レストランラリューム」


 名店が点在する、東京・白金台。プラチナ通り沿いに建つ、一風変わったビルの階段を降りると、その「レストランラリューム」はある。そこはかつて、フランス料理の名店として長く愛されていた「オザワ」のあった場所だ。

運命の出会いで独立開業が具体的になった

「レストランラリューム」で迎えてくれるのは、こちらも白金台の名店、「ジョンティアッシュ」のシェフを務めていた進藤佳明さんと、同じくマネージャーを務めていた熊澤大樹さんだ。かつて務めた店と同じ白金台で、新しいレストランをオープンさせたのには、どんな経緯があったのだろうか。進藤さんは言う。

「自分がオーナーシェフとなってレストランをやりたいと、以前からずっと考えていました。僕も40歳になり、これから先の10年のことを見据える時期になっていたんです。そういう気持ちもあって、オーナーには、1年くらい前から独立したいということは伝えていました」

「ジョンティアッシュ」のシェフに就任して実に6年、進藤さんはチャレンジを繰り返してきた。つねに山を登っているような状況のなかで、パートナーとして同店で働いていたのが熊澤さんだ。

「僕も、以前から独立開業することを考えていましたが、レストランをやるなら、サービスだけでは成り立ちません。進藤さんが独立開業すると聞き、これはチャンスかもしれない、と思いました」と、熊澤さんは語った。

 レストランをふたりでやることは決めたものの、具体的な期日はとくに決めていなかったという。そして、物件を探したり、事業計画を練ったりしているときに出会ったのが「、オザワ」のシェフ、小沢貴彦さんだ。「オザワ」が閉店すると知り、ふたりは初めて同店に食事に訪れた。その際に、店舗を引き継がないかと打診されたという。

「独立開業のことなど、いろいろな話をその時に小沢さんとさせていただいて。店を譲ることを考えていた小沢さんが、引き継がないかと言ってくださったんです」。進藤さんはその時、30年という歴史を持つ「オザワ」の店構えにひと目惚れしていた、とも教えてくれた。

 小沢さんの後押しもあり、そこからどんどん話が進み、半年後にはオープンの運びとなる。独立開業は、突如として具体的になった。

お世話になった店に恩を返し役目を全うする

 奇しくも、当時勤めていた「ジョンティアッシュ」と同じ白金台という場所でレストラン開業となったのは、小沢さんとの出会いがあったからで、まったくの偶然だった。独立の目途が立ったからといって、長年勤めた店を放り出すわけにはいかない。後任のシェフやスタッフ探し、サービスの引き継ぎなどは、場所が近いこともあってギリギリまでできた。

「お世話になった店を、よい形で渡したかったんです。今後もご近所としてよい関係を続けたいし、そのために、引き継ぎ業務はきちんとやるべきだと思いました」
 6年勤め、料理を提供するだけではなく、レストランの経営を学ばせてくれた店。恩を返し、役目を全うして退職できたというのが、ふたりに共通する気持ちだという。

フランス料理のレストランはチームである

 立ち上げのメンバーには、「ジョンティアッシュ」で一緒に働いていたスタッフの何人かも加わった。勝手知ったるチームでレストランをスタートできたことで、立ち上げまでの期間は大幅に短縮した。半年ほどで開業まで漕ぎ着けたのは、このおかげだったとも言えるだろう。

 かと言って、互いをよく知っていることは、メリットばかりではない。進藤さん曰く、メリットとデメリットは表裏一体なのだという。

「たとえば、今までのチームワークが活かせるのはメリットですが、何でもかんでもわかっているだろう、と思ってしまい、すれ違いが生じるのはデメリットです。それをなくすために、会話をする時間は重要だと思っています」

 フランス料理のレストランは、まさにチームだと進藤さんは語る。ふたりのオーナーは、そのチームを牽引していく存在だ。以前よりもぶつかることは増えたが、わかることも増えた。ただ、レストランの経営には正解がない。だからこそ、チームで議論をし、もっと成熟していくことを目指している。チーム「レストランラリューム」の歩みはまだ、始まったばかり。これからの展開に、ますます注目していきたい。

マダムビュルゴーの鴨胸肉をローストし赤ワインヴィネガーと蜂蜜でラッケに セップ茸のデュクセルと、加賀蓮根・新牛蒡を添え黒無花果のキャラメリゼをアクセントに
鴨肉は優しく香ばしくローストしたのち、ハチミツと赤ワインビネガーでキャラメリゼしている。付け合わせには、相性のよい根菜を合わせて旨味を引き上げた。火入れ技術の高さを感じられるひと皿。

チームで店を作るまで

【1年前】独立開業を決める

もともと、独立開業は進藤さんも熊澤さんも考えていたのだという。ただ、忙しいなかで物件探しなどを始めるも、なかなか具体的に進まなかった。勤務先のオーナーには1年くらい前から独立すると伝えていた。

【6カ月前】小沢貴彦シェフに出会う

同じく東京の白金台という立地のため、お互いの店のことは知っていたが、この頃に初めて、ふたりは小沢貴彦さんがオーナーを務めていた「オザワ」へ食事に訪れた。独立を考えていること、物件を探していることなどを話すと、小沢さんより、店の跡を引き継がないか、と打診された。物件が決まったことで、独立開業は急速に動き出した。

「オザワ」小沢貴彦さんのコメント
白金台の「オザワ」がオープンして30年を迎え、一生懸命やってくれる若い人に、店を譲りたいと思っていました。そこへ進藤さんと熊澤さんが食事に来て、独立の話を聞いたので、声をかけたんです。それから、2回ほど進藤さんのいたレストランへ行って、きちんと料理をしている人だとわかったので、安心して譲れました。これからも応援していきたいと思っています。

【3カ月前】引き継ぎの準備などを始める

スタッフにも退職する意思を伝え、引き継ぎのための人材探しを始める。後任のシェフなどの採用は、自分の友人などのつてをたどるほか、前職の先輩などの力を借りて探し、オーナーも含めての面接を経て決定していった。新店のスタッフも、この頃から集め始める。

【およそ1カ月前】開業する新店の準備を始める

前店を退職。しかし、新しい店と場所が近いこともあり、しばらくは前店へサポートに行くこともあったという。
新店の内装工事も、この頃始めた。30年の歴史を持つ店のよさを活かしつつリノベーションすることで、開業する費用を抑えた。一方で、今、店で使われているイスは、「オザワ」で使っていたイスを張り替えたものだが、安価な新品を買うより費用がかかったという。ただ、費用と手間をかけたことで、店の雰囲気作りにひと役買ってくれる存在となった。

【3日前】レセプションパーティーを開催

知人や友人、仕事仲間や顔見知りのお客さまなどを招き、レセプションパーティーを開催。新店をお披露目し、広く知ってもらうためのイベントは、今後の集客にも役立ち、何よりスタッフの励みになった。

開業 2018年8月1日

「オザワ」の空間を引き継いだ新店「レストラン ラリューム」がオープン。


(左)熊澤大樹さん
1983年岩手県生まれ。19歳よりキャリアスタート。「ジョエル・ロブション」 でソムリエを務めたのち、2012年 「ジョンティ アッシュ」 マネージャーに就任。2018年8月より「レストラン ラリューム」オーナーソムリエに就任。

(右)進藤佳明さん
1978年神奈川県生まれ。1997年よりフランス料理の道へ。「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」 などを経て2012年 「ジョンティ アッシュ」 料理長に就任。2018年8月より「レストラン ラリューム」オーナーシェフに就任。

澤 由香(本誌編集室)=取材、文 林 輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国292号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は292号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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