【プロを刺激する日本の食材】「ラ・リューン」の無農薬野菜


フヌイユの香りに包まれながらヘルシーで美しいひと皿をイメージする

ラ・リューン 永田敬一郎さん

外光が美しく差し込み、真っ白なテーブルクロスの上にそっと置かれた新芽をつけたネコヤナギの小枝。

東京・東麻布の「ラ・リューン」には、オーナーシェフ永田敬一郎さんの美意識がひそやかに満ちている。キッチンで見せてくれた西洋野菜フヌイユの、何とみずみずしく香り高いことか。この香りに包まれながら、どんなひと皿を作ろうかと考える時間が「幸せ」と、永田さんは言う。

生産者と想いを通わせて新しいメニューを創出する

店にあったフヌイユは、静岡県掛川市の石榑由美子さんが動物性の有機肥料を一切使わず、無農薬栽培した野菜だ。土壌づくりには米ぬかを使う。微生物が増えて豊かな土ができる。永田さんのもとには、石榑さんが育てた夏のハナニラをはじめ、季節ごとに野菜が届く。石榑さんを助けているのが「KEEP BEGIN(キープビギン)」の濱田哲雄さんだ。

「生産者を支援している濱田さんの想いがあるから、都会にいる僕がこんなにおいしい野菜が使えるんです」と永田さんは言う。

KEEP BEGIN Y・Yファームの自然栽培野菜

フヌイユのさわやかな風味と香りを最大限に引き出すために、永田さんが加えたのは、長野県の高原で作られる青リンゴの風味。瀬戸内海に浮かぶ小さな島、いわぎ島で作られたレモンも合わせ、千葉県九十九里のハマグリを添えた。

「最初はカキで試してみましたが、ハマグリのほうが合いますね」

確かに、焼いたハマグリの旨みがフヌイユ、青リンゴ、レモンの風味と、みごとに調和する。

永田さんは、食材と向き合うとき、この食材は、誰がどのようにして作っているのかに、思いをはせる。そして、フヌイユを作っている石榑さんの農園も訪ねている。

独立してから12年。永田さんは、"わがキッチン"で生産者と想いを通わせながら、食材からインスピレーションを得て、新しいメニューを創出しているのだ。

美しく匂い立つようなひと皿青りんごとレモンの風味を生かし、ハマグリには日本酒を入れて

焼き蛤とフヌイユと青りんご風味
スライスしたフヌイユと、みじん切りにした葉に、青りんごのすりおろしを混ぜて、ビネグレットとレモン汁、塩で味を整えるが、このとき使うレモンも「KEEP BEGIN」が扱っている。瀬戸内海の岩城島の農家が低農薬栽培で作ったもの。納得のいく食材でイメージを描く永田さんのひと皿は、じつに繊細で優しい風味だ。

Keiichiro Nagata
1973年、熊本県生まれ。東京プリンスホテル、青山「ラ・ブランシュ」などを経て渡仏。パリ、プロヴァンス、ヴィッシーの一ツ星レストラン「ジャック・デコレ」などで働く。帰国後「レストラン・オオイシ」でシェフを務め、2002年10月、「ラ・リューン」をオープンした。

長瀬広子=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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