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【野草とガストロノミー】山に入って考えた「豊かであること」の本当の意味。


「軽井沢ホテルブレストンコートユカワタン」を舞台に行われた「ガストロノミーサロン」。海外のトップシェフや軽井沢の生産者をホテルブレストンコートの総料理長、浜田統之さんが迎え、ワークショップや調理デモンストレーションを行うもので、今回で3回目となる2015年のテーマは「野草とガストロノミー」。チベット医の小川康さん、天然食財コーディネーターの永田徹さんとともに、星野エリア内にある「星野の森」に入り、実際に野草と出会い、野草を摘み、山を感じることから始まった。

「山ブドウと鹿~鹿のローストとセルヴェル、 山ブドウのソース~」真空調理したシカのロースに合わせたのは、山ブドウのソース。山ブドウのワインに赤ワイン、ポルトルージュを加えて煮詰め、さらにジュ・ドゥ・シュヴルイユ(シカのジュ)、カムシバの木を加えてさらに煮詰めた。酸味と甘味が滋味深い一皿。
山ブドウと鹿
~鹿のローストとセルヴェル、 山ブドウのソース~

山には、ジビエや野草があり、水も燃料もある。
それに気づけば、山が自分たちを生かしてくれることにも気づく。

まだ、梅雨が明けない7月8日、星野の森は、前日からの雨に濡れ、神秘的な雰囲気に包まれていた。ニワトコやウコギ、ゴミシなど、いかにも野草らしい名前の植物から、野性のミツバやサンショウ、タラノキなど、親しみのある野草も多くあり、改めて山の豊かさに気付く。

「これは食べられますか?」
「食べてみてもいいですが、少ししびれるかもしれませんよ(笑)」「こっちの野草は、一度食べてひどい目にあいました。気をつけて」
小川さんと永田さんは、ちょっと危ない野草の解説も混じえながら、星野の森を案内してくれた。

ガストロノミーサロン2015の参加者とともに星野の山に入る浜田さんと永田さん、小川さん。「実際に触って、掘ってみることで、感じてもらえたら」と小川さんは参加者に語りかけていた。

便利で快適な世の中は
本当に〝豊か〟なのだろうか

小川さんは、29歳でインドへ渡った。チベット語を学ぶ中、ヒマラヤに入り、標高3500メートルの高地で、何百種類という野草に出会い、チベットの山の医療を学んだ。
20代は東京で新聞記者や広告関係の仕事に就いていた永田さんは、故郷の長野県に戻り、信州の食材の奥深さを再認識。その継承に奔走する日々を過している。

フィールドも人生も違う2人と出会い、浜田さんは「山との関わり方」を強く意識するようになったという。「初めてお会いした小川さんは、『ヨーロッパは中世以降衰退している』とおっしゃった。それを聞いて『ええっ?進歩じゃなく?』と驚いて」
近代化によってモノは満たされ便利な世の中になった。人間は今、快適な世界にいるように見える。

「その〝快適〟な暮らしは、人類700万年の歴史で見れば、わずか400年という一瞬のこと」と小川さん。チベットの山の懐深く分け入り、山の恵みと出会った小川さんは、自然と離れてしまった現代社会に「貧しさ」を感じとった。
「同じようなことを考えていたので、小川さんと出会って、『答え合わせ』ができたような気がします」と、浜田さんは振り返る。

こうして山との関わりを深める中で、浜田さんと永田さんは出会った。「商売している人は、穴場を教えないのが普通。けれど、永田さんは『来なよ』と、何でも教えてくれる」
永田さんは「それは、浜田シェフにエゴがなかったから」と笑う。
永田さんは、信州の山菜や野草、キノコを200種類も扱う。なかには特殊な食材もあり、普通のシェフでは手におえない「嫌がらせのようで、挑戦的な食材(笑)」もある。それを使いこなすシェフの資質がひとつある、と永田さんは言う。
「知らなくて当然、『学ぼうとする素地』の有無だと思う。それがブレストンコートのシェフたちにはあった。素晴らしいことです」

浜田さんのもうひとりの山の仲間であり、師でもある「職人館」(長野県佐久市)の北沢正和さん(写真中央)。浜田さんとともに、縄文時代の食文化に想いを馳せる。

次ページ:3人の「山への向き合い方」と浜田シェフの【野草とガストロノミー】


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