”江戸中華”を食べるならこのお店!ミシュラン1つ星店「やまの辺銀座」


羊飼いの料理から、エスニックな発酵鍋まで。街には、ジャンルも調理法も多彩な羊料理が溢れている。なかでも、厳選の羊料理8品を紹介する。

銀座 やまの辺銀座 銀座
ウイグル羊料理の本質を江戸中華の視点で捉える

銀座8丁目、昭和初期のガス灯の明かりに屋号が浮かぶ、ミシュラン一ツ星の店。中国料理の王道を受け継ぎながら、東京ならではの “江戸中華”を標榜する「銀座 やまの辺」だ。オーナーシェフの山野辺仁さんは、ウイグル羊料理の真髄を体感することを目的に、昨年初めて新疆ウイグル自治区に足を踏み入れた。現地では中国の唐辛子が流通して以来、四川料理が流行っているそうだが、山野辺シェフが見て味わってきたのはウイグルの伝統料理。羊の丸焼きや羊の内臓の炒め煮など、その多くが他では味わうことのできない羊料理だった。

「シシカバブにしても、クミンや唐辛子や五香粉などの香辛料をたくさん付けて焼くのかと思ったら、塩とほんの少しのクミンだけなんです。羊肉が新鮮だから、味付けは意外なほどシンプル。素材の味を活かす感覚は、日本人に近いと思いました」。現地では市場にも通い、新疆唐辛子やウイグル産クミンなどを試食。「やはり香辛料も鮮度が大切」だと痛感したそう。日本に戻り、ウイグルで見て味わった料理に山野辺流のアレンジを加え、さっそく羊料理のメニュー開発に取り組んだ。まずはウイグル式ピラフ「ポロ」。羊肉、玉ねぎ、人参、白米をいっしょに炒めてから鍋で炊き上げる料理で、ウイグルの家庭料理であり屋台料理だ。

上品な出汁で炊くウイグル式ピラフ
ポロ

北海道産ラムのヒレ、モモ、肩ロースを細かく切り、油で炒める。異なる部位をいっしょに炒めることで、味わいに奥行きが出る。ウイグルでは骨付き肉を炒めるなど、調理法はさまざま。
玉ねぎと人参を炒め合わせ、白米も加えて米油で炒める。山野辺シェフがウイグルで見たポロにも、玉ねぎがたっぷり入っていたそう。優しい野菜の甘味は欠かせない要素だ。
昆布を入れて炊くのは山野辺シェフのアイデア。昆布、上湯、羊肉、野菜……異なるうま味が鍋の中で融合することで、上品かつ複雑な味わいのポロに仕上がる。
下茹でして余計な脂を落とした骨もいっしょに炊く。ウイグルのウズベキ族はドライフルーツをよく使うが、山野辺シェフもポロにはレーズンを使用。昆布で出汁をひき、レーズンをのせ、骨をセットした上にクミンを少々。あとは土鍋に火をかけ、炊き上がりを待つだけ。

羊肉のうま味や香りを活かすため、シェフが使うのは鮮度のいい北海道産ラム。背肉を骨と赤身にバラし、モモと肩ロースも加える。「現地では水だけで炊いていましたが、骨もいっしょに炊き込めば出汁が出ておいしいと思って。あと、向こうでは具材を炒める際に鍋底に油がたまるほど大量の菜種油を使って作っていたけど、僕は油を減らしてあっさりとした味わいに仕上げました」。味付けは上湯と昆布と塩とクミン、そして骨から出る出汁。山野辺シェフのアレンジが加わった「ポロ」は、羊肉の香りをまとった上品な炊き込みご飯だ。

また、ウイグルの伝統的な焼き方を踏襲し、金串ではなく柳の一種「紅ホン柳リュウ」に刺したラムを炭火で焼く「シシカバブ」も絶品だ。1本の紅柳に刺すのは、北海道産ラムのヒレ、モモ、肩ロースの各部位。前述した通り、ウイグル式シシカバブの味付けは塩と少しのクミンだけ。味付けは現地に習ってシンプルに。肉を大きめにカットして焼くことで、咀嚼する度に各部位の異なる味わいを舌と鼻で楽しむことが出来る。ウイグルの羊料理に触れ、すっかり魅了された山野辺シェフ。「味を活かすも殺すも料理人の腕次第。それが僕の羊肉の捉え方。新たな発見の多い食材だと思います」。今後は、貸し切りのみの「ウイグルやまの辺」を店舗で開催していくそう。ウイグル羊料理と江戸中華の融合地点を、とくとご堪能あれ。

紅柳に刺して焼く本場仕込みの羊肉串
シシカバブ

炭火でじっくり焼き上げるシシカバブの味付けは、塩とクミンを少々。新鮮なラムのうま味と香りをダイレクトに味わうことが出来る。28,000円コース料理メニューとして提供

やまの辺のシシカバブに使う串は、金串ではなくウイグルから取り寄せた紅柳(ホンリュウ)。金串で焼くと熱された串によって肉の内部から火が入ってしまうが、紅柳は炭で焼いても熱くならないので肉の外側からじっくりと火を入れることができる。見た目もダイナミック!

オーナーシェフの山野辺仁さんは、1980年生まれ、東京都出身。調理師学校卒業後、天厨菜館グループへ入社。 2005年から銀座本店の調理長、2010年からは天王洲アイル店の総料理長に。銀座の名店「日本橋よし町」の心意気と店舗を受け継ぎ独立。

銀座 やまの辺
東京都中央区銀座8-4-21保坂ビルB1F
TEL 03-3569-2520 12:00~14:00LO、 18:00~22:00LO
日祝定休
※ランチ・ディナーともに、 28,000円のコース料理メニューとして提供(要事前予約)

text 馬渕信彦 photo 依田佳子

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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