シェフが選ぶシェフ「レフェルヴェソンス」生江史伸さん


褒め言葉より、むしろ批判を重視したい。その分析の奥に、発見と成長があると思います。

「現実」と「幻想」のバランスが感動のひと皿につながる

時代や状況が変わってどんな困難に突き当たろうとも、諦めずにやっていこう――。「レフェルヴェソンス」をオープンする際、生江さんはオーナーとこう誓い合ったという。しかし、不況に追い打ちをかけるようなリーマンショック。「新店が1万5000円もするコースを出す時代ではない」と、周囲からもずいぶん心配された。しかし、生江さんの中には、そういう料理を作る「しかるべき理由」があり、「誠実にやれば必ず成功する」と信じた。「むしろ妥協すれば必ずしっぺ返しがくる」と覚悟を決めたのだ。

「料理の世界は半分が現実で、半分が幻想。僕ら料理人はその狭間を歩いている」

現実だけだと面白みに欠けるし、かといって幻想だけでは茶番になりかねない。生江さんは両者のバランスを保つことで、「レフェルヴェソンス」を日本の代表的なレストランへと成長させた。

生江さんの視線はロンドン、サンフランシスコ、コペンハーゲンなど、つねに世界に向けられており、「心に響く店が続々と誕生している」と言う。生江さんがインスパイアされるのは、シェフの人柄や生き方が反映されたひと皿。だからこそ、現代を反映する料理をめざしつつ、同時に自分たちが出したゴミは自分たちで再生するなど、サステイナブルにも具体的に取り組む。それが、現実と幻想の折り合いをつけるひとつのカタチでもあるのだろう。

生江さんが自分に課しているのは、ゲストから褒められることより、不満な点を見逃さないこと。日々お客さまとふれあい、「なぜ?」を謙虚に分析したい。自分たちの未熟さや落ち度によるものなのか、あるいはゲストの好みに合わなかっただけなのか、サインを見落とさないで前に進みたい。

今後「レフェルヴェソンス」から、どんな「幻想」と「現実」が生まれるのか、多くのファンがその時を待っている。

丸ごと火入れした蕪と イタリアンパセリのエミュルション、バスク黒豚のジャンボンセック&ブリオッシュ
4時間かけて低温調理したカブは、形はしっかりしているものの中はとろりと甘い。その旨味はカブ本来の持ち味を超えているとも評価される。「特別なことはしていないが、同時に、非常に特別なことをしている」と自身の仕事を語る生江さん。その言葉を象徴するひと皿とも言える。
写真/Mari Ikeda

Shinobu Namae
1973年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、「アクアパッツァ」などのレストランを経て、2003年、「ミッシェル・ブラス トーヤ ジャポン」へ。途中、ライヨールの本店で研鑚を積み、05年からはスーシェフを務める。08年には渡英し、ロンドン近郊にある「ザ・ファットダック」のスーシェフに就任した。翌年帰国して、10年より現職。

この記事もよく読まれています!

上村久留美=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国254号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は254発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする