ミンチ状のイワシがミートソースのように麺に絡む珠玉のパスタ


日本ならではの製麺所とコラボレーション
本場の味で、パスタの進化を加速させる

ロットチェント 樋口敬洋さん

シチリアで過ごした3年間から今までの体験をひと皿に込めて届けたい――
樋口敬洋さんの熱い思いを形にしたのが、「低加水パスタフレスカ」。
誕生の裏側には、都内屈指の製麺所と、思いを共有できる職人との出会いがあった。

Takahiro Higuchi
1976年東京都生まれ。大学中退後、都内のイタリアンレストランを経て渡伊。シチリア島で3年間修業後帰国。銀座「リストランテシチリアーノ」料理長を経て、横浜「サローネ2007」でダブルシェフのひとりに。南青山「イル テアトリーノ ダ サローネ」のシェフに就任。2011年よりグループの統括総料理長。2016年9月「ロットチェント」オープン、シェフに就任。

現地で衝撃を受けたパスタを製麺所と生み出すまで

 サローネグループの統括総料理長を務める樋口敬洋さんが、どうしても実現したかったのは、イタリアの修業時代に感動したパスタの再現だ。「向こうでパスタを揃えるには、乾麺を買う、自分で作る、製麺所にオーダーと3つの選択肢があります」

 樋口さんが衝撃を受けたパスタは製麺所で作られたものだった。

「通常の生パスタの加水率が38~45 %くらいのところ、パスタフレスカは

28~30%くらいの低加水。乾麺になるひとつ前の段階で、いわゆる生パスタとは別次元のおいしさでした」

 あの喜びを日本でも。しかし、レストランで低加水パスタを作るのは機材の関係もあり困難。悩んでいたところ、ある中華麺に理想の食感を垣間見る。

「それが、業界でも知られる製麺所、『浅草開化楼』の麺職人、不死鳥カラスさんが手がけた麺でした。実際にカラスさんとお話ししてみると、粉の話、なぜ麺を寝かせたり練ったりするのかなど、麺のプロとの根本的な会話は腑に落ちることばかりで」

 こうして、スタートから2年以上を経て、樋口さんとカラスさんによる「低加水パスタフレスカ」が完成。デュラムセモリナと強力粉の比率を試行錯誤した結果、日清製粉も加わり、共同開発した粉「ファリーナダサローネ」も生まれた。麺は、低加水パスタフレスカの入門編となる中太麺と、本場さながらの極太麺の種類。このパスタを提供する場として誕生したのが、「ロットチェント」だったのだ。

ロットチェント_パスタ1
食べ終わりまで弾力をキープする低加水パスタフレスカは、中毒性のある食感。開発に関わったカラスさんの中華麺を食べにラーメン店とハシゴする人も。シチリアで食べた「あのパスタ」は、粉もレシピもオープンにし、今や、全国に広がっている。

低加水パスタフレスカでパスタの「大衆娯楽化」を狙う

 今回、樋口さんが作ったのは「黄色いイワシのソース極太麺」。イワシとともにソースの味わいを引き立てるのは野生のウイキョウ。ひと口食べると、たちまち、樋口さんが構築する世界にぐっと腕を引っ張られる。弾むような弾力の極太麺は歯切れがよく、粉の香りが漂う。初めて体験する食感にうっとりしていると、そこに、サフラン、干しブドウ、松の実、シシリアンルージュが重層的に絡み合う。シチリアからカラスさんとの出会いまで、自分の体験をひと皿に込めたという樋口さん。ここまでひた走る情熱の根源とはいったい?

「焼きそばやお好み焼きのように、パスタの位置付けを大衆娯楽にまで高めたい。ただし、本場の味で。そのためにも、僕とカラスさんのほかにも、料理人と製麺所がタッグを組めばパスタが次のステージに進む」

 実際、岡山や群馬などでも新たな動きが誕生している。樋口さんの果敢なチャレンジは、パスタのパラダイムシフトまで見据えているのだ。

イワシとウイキョウのパスタは、シチリアでもっともポピュラーな味のひとつ。決め手となる野生のウイキョウは日本では入手しづらいが、千葉の「エコファームアサノ」から取り寄せている。仕上げにオリーブオイルをたっぷりかけて油脂分を足す。
ロットチェント_黄色いイワシのソース極太麺

黄色いイワシのソース極太麺
現地の味を追い求めて「浅草開化楼」と共同開発した低加水パスタフレスカの極太麺を使用。食欲をそそる黄色はサフラン由来。ミンチ状のイワシがミートソースのように麺に絡み、野生のウイキョウが豊かな風味を添える。

ロットチェント_店舗

ロットチェント
L’ottocento
東京都中央区日本橋小網町11-9 ザ・パークレックス小網町第2ビル 1F
03-6231-0831
● 11:30~13:30LO 17:30~22:00LO
● 日、第1・3月休
● 36席
www.lottocento.tokyo

浅井直子=取材、文 花村謙太朗=撮影
text by Naoko Asai photos by Kentaro Hanamura

本記事は雑誌料理王国第288号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第288号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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