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【連載】コロナ禍での、店の舵取り⑤ 「サローネグループ」 樋口敬洋さん


約半年前から続くコロナ禍の中でシェフたちはどう動いたか、そして今後をどう見るか。期間限定連載インタビュー企画の最終回をお届けする。

緊急の状況が、スタッフの能力を開花させた

東京・横浜・大阪で合計6店舗のイタリア料理店を経営する「サローネグループ」。4店舗の高級業態――「サローネ トウキョウ」(日比谷)、「イル テアトリーノ ダ サローネ」(西麻布)、「サローネ2007」(横浜)、「リストランテ クイントカント」(大阪・中之島)と、これらよりカジュアルな路線の2店「ビオディナミコ」(渋谷)、「ロットチェント」(茅場町)を擁する。樋口敬洋さんは、これらの統括シェフを務める。

「コロナの時期、各店のシェフやスタッフの新しい能力がどんどん開花した」と、樋口さん。どのような経緯を経てそのような成果に至ったか、話を聞いた。(2021年9月6日取材)

この1年半で行ったこと>
・パスタソース販売のECサイト開設(サローネ グループ)
・料理のテイクアウト(イル テアトリーノ、サローネ2007、リストランテ クイントカント、ビオディナミコ、ロットチェント)
・YouTubeチャンネルを開設(サローネ2007の弓削シェフサローネTOKYOの永島シェフら
  など

――去年の4〜5月の緊急事態宣言下、多くの店と同様、サローネグループの6店舗も休業しました。その最中、どう行動しましたか。

まずは緊急事態発令にあたり、すぐに代表の平(たいら、高行氏)が「スタッフ、家族、店を守る」という決意をしっかりと皆に伝えました。と同時に、「各店舗で自由に対策に取り組んでよい」という方針も示しました。代表のこの2つの言葉は大きかったですね。

――それが、多彩な動きに結びついた。

はい、それぞれの店らしさが出ました。

以前から、サローネグループでは6 店舗のシェフ、支配人と幹部で定期的にウェブ会議をしていて、たとえば「うちの店でこんな新しいことをしたい」という意見が店舗から上がると、一度凛義してOKを出す、というプロセスを踏んでいました。こうした制約が外れたのです。

結果、各店舗がスピーディーに動きを開始。その動きは、率直に言って、私の予想をはるかに上回るものでした。かつ、それぞれの店舗が自店の強みをしっかりと出し、自店の顧客に対して最適なサービスを打ち出してくれました。

たとえばビオディナミコは自由にやっていいと会議で伝えられた翌日には、緊急事態宣言下の中、最少人数でテイクアウトの販売を開始。シェフ曰く、「前々からやりたかったんです」とのこと。

一方テアトリーノは、高級路線の料理セットをテイクアウトで販売しました。「高単価なのでどうだろう」と思ったのですが結果は予想以上。シェフがお客さまとSNSでしっかりとつながっていて、普段から信頼関係を築いていた。それで、SNSを通じて告知すると多くの方が購入してくださったのです。

横浜のサローネ2007も料理セットを販売したのですが、こちらも普段からのお客さまに支えていただきました。また、店の長い歴史の中で育まれたお客さまとのつながりを実感する機会にもなりました。この店でプロポーズをしたご夫婦に、「今は子育て中でなかなか店に来られないけれど、テイクアウトで食べられて嬉しい」なんて言っていただいたり。本当にありがたいです。

大阪のクイントカントは若いチームで、ここも動きが早かったです。自信作のラザニアや、「肉セット」と銘打ったローストビーフをバラの花のように盛り付けた商品を販売。問い合わせをいただくほど好評でした。

茅場町のロットチェントは普段からカジュアル路線で、かつ大小のマンションを控えた立地。日常的なテイクアウトメニューが人気でした。また、これは6店舗で言えることなのですが、テイクアウトで当店を知ったお客さまが営業再開後に来てくださることも。新たなお客さまの掘り起こしにもつながりました。

日比谷のサローネ トウキョウでは、パスタソースとパスタフレスカのセットのネット販売を開始。こちらも予想を超える反応と結果が出て、その喜びを全員で分かち合いました。

このように、各店舗とも⾃主的に新しいことに挑戦して結果を出すことができた。⾃分は統括料理⻑だけれども、結果として私の稟議を通さないことがこのスピード感につながったと思います。「はじめてから考えていく」が今までとは大きく違いましたし、やってこなかったことでの大発見とも言えます。

この時期は新しいことに挑戦する勢いのある前向きな気持ちと、先が⾒えない不安の両⽅がある⽇々でしたが、今思うと前者の気持ちの⽅が⼤きかった気がします。もちろんそういう気持ちに持っていくように日々自分の気持ちを奮い⽴たせていました。

――サローネ 2007のシェフ、弓削(啓太氏)がはじめたYouTubeチャンネルも非常に好評です。

去年の4月にはじめた「Yugetube(ユゲチューブ)」です。コロナ禍の中ご家庭でおいしい料理を楽しんでいただきたい、という思いで開始しました。彼がまじめにていねいに作る動画が認められ、まもなくチャンネル登録者数が10万人までとなりました。本当にありがたいです。

――それはすごいですね! どのような内容を配信しているのですか。

ご家庭で用意できる食材を使った、さまざまな本格的なパスタの作り⽅です。⼀番再⽣回数の多い「カルボナーラ」は 59万回再⽣され700件を超えるコメントをいただくなど反響が大きく、YouTubeという世界に衝撃を受けました

――弓削さんは「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」で優勝した経歴の持ち主ですね。その経歴のシェフが家庭用のパスタを教えるということも人気の理由なのでは。

それは確実にあると思います。その肩書に⼸削の⼈柄がプラスされ、皆さまに必要としていただけたのだと思います。明るいトークと親しみある雰囲気、人間味あふれる性格の彼と YouTubeという発信元の相性が抜群だったのだと思います。

ちなみに弓削のほか、サローネ トウキョウのシェフの永島(えいじま、義国氏)も「えいじマンジャ〜レ」というチャンネルを少し前にはじめて、登録者数が1890人。充分な手応えです。

今は、SNSを通じた発信が本当に大事な時代。もちろん、これからはますますそうなっていくと思います。

――コロナの期間を通して、もっとも強く感じたことはなんでしょう?

自分の至らなさです。想定外のことに対する弱さを痛感しました。スタッフ達の自由かつ迅速な行動が、世の中に対し、サローネグループが今できる価値を提供してくれた。切⽻詰まっていたなかで「お客さまのお役に⽴ちたい」というピュアな志を持って。

コロナはグループにとって未曾有の危機でもありましたが、たくさんの気づきや成⻑を与えてくれました。そしてトップに立つ代表の平の圧倒的な牽引力にも学びが多かったと思います。

――コロナを通して、どのような目標や抱負を持つようになりましたか?

この期間のみんなの全力の挑戦が将来「今後への種まきになった」と⾔えるよう、グループを守っていくことが⾃分に課せられた役割なのだと思っています。

本当に、スタッフたちの変化や成果に圧倒される日々を体験し、⾃分も成長が足りないと痛感しております。変わらねば、と本当に強く思っています。

コロナが収束していっても常に変化やイレギュラーを前向きに楽しむことができ、それでいて冷静さも失わず、新しい時代を乗りこなすグループであるよう、共に戦った仲間と長く歩んでいきたいです。

樋口敬洋

1976年生まれ、東京都出身。大学在学中のアルバイトでイタリア料理に触れ、イタリア料理の道に入る。都内の店で働いたのち、シチリアに渡り3年間経験を積む。帰国後、2005年にサローネグループに入る。グループ内の店の立ち上げや料理長を経て、現職に。

サローネ トウキョウ
電話番号 03-6257-3017
東京都千代田区有楽町1-1-2 
東京ミッドタウン日比谷 3階
ランチ:12:00- 13:00L.O. 
ディナー:18:00- 20:00L.O.
定休日:無休
URL:http://salone.tokyo

取材・文・写真 =柴田泉 


柴田泉
東京多摩地区生まれ、横浜育ち。大学で美術史を学んだのち、食の専門出版社「柴田書店」に入社。プロの料理人向けの専門誌『月刊専門料理』編集部に在籍し、編集長を務める。独立後は食やレストランのジャンルを中心とするライター・編集者として活動する。




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