行列の絶えないラーメン店から支持を受ける製麺所とともに開発した「低加水パスタフレスカ」


製麺所とともに、パスタを大衆娯楽の頂点へ押し上げる。

行列の絶えない名だたる数多くのラーメン店から支持を受ける製麺所とともに開発した、水分含有率30%の低加水パスタフレスカは、間違いなくこの店の名物だ。

修業時代の南イタリアで食べた製麺所のパスタの美味しさに衝撃を受け、反発力と弾力と歯切れの良さを兼ね備えた麺の誕生に尽力した『ロットチェント』の樋口敬洋シェフと、カリスマ製麺所『浅草開化楼』の不死鳥カラス氏。
2人が目指すパスタの理想像は「焼きそばのような大衆娯楽」だという。
果たして大衆娯楽化したパスタとは、どんな姿なのだろうか?

反発する弾力と歯切れの良さ。製麺所ならではの食感の発見。

 当時この店『ロットチェント』のシェフだった樋口敬洋さんと、製麺界で絶大な信頼を受ける『浅草開化楼』の不死鳥カラスさんとの共同開発によって誕生した、水分含有率30%の低加水パスタフレスカ。独特の食感を武器にするこの麺はもはや『ロットチェント』の顔である。

「黄色いイワシのソース 極太麺」に使われる太さ3.3mmの麺「ロマーナ」は、言葉を選ばずに表現すればまるでハードグミのような歯ごたえ。力強い反発力を感じながら時間をかけて歯が麺に食い込み、最後にプチっと音がして切れるのだ。咀嚼を続けると濃い小麦の香りとともにこってりとした小麦のうま味がにじみ出る。

「辛めのアラビアータ 中太麺」の麺「トンナレッリ」は、フォークに絡めて口へ入れた瞬間に口の中で跳ねて踊る。太さ2.1mmの麺に歯が食い込み、弾力感が最高に達する瞬間にプチっと切れるイメージ。口の中から麺が消えるタイミングで小麦の香りが鼻孔を抜ける。

乾麺が主流の南イタリア。ゆえに出会ったのがこの食感。

 そもそも、樋口シェフがこの食感のパスタを手に入れたかった理由はどこにあるのか?

「南イタリアは乾麺が主流なんです。でも僕が修業先として選んだ店は5種類ものパスタフレスカを用意する南イタリアでは珍しい店だったんですね。4種類は店で手打ちしていたんですが、1種類だけは製麺所から購入していたんです」。

 その麺は触っただけでも明らかに加水の少なさがわかるほど。放っておくとすぐにバリバリに乾燥してしまうその麺は、樋口シェフの知り合いの料理人たちからも評判で、麺の作り方を問われるシーンも多々あったそうだ。

 「乾麺のパスタの水分量ってご存じですか?僕はずっと0%だと思っていたんですが、なんと11%もあるんですよ。南イタリアにも乾麺の工場がたくさんあるんですが、機械から出てきて乾燥させる直前の麺の水分量が28 ~30%なんです。つまり製麺所から買っていたそのパスタフレスカも、乾麺になる手前のものにとても近いものだったんです」。

一般的には50%程度といわれるが、水分が少なければ、より圧力をかける必要があり麺にも熱が加わる。その熱で凝固してしまうのを防ぐため、製麺所では麺に卵を入れない理由がわかったのだという。

黄色いイワシのソース 極太麺(ロマーナ)
シチリア料理の代表的なパスタ。たっぷりのサフラン、イワシ、フィノキエットのソース。特製生パスタの食感を楽しみたい。

Google的なオープンソース化!?
製麺所向けに製法を大公開

南イタリアで出合った独特な食感の麺を再現したい。そして、低加水のパスタフレスカで作るパスタ料理を大衆娯楽にまで高めたい。

 そんなミッションを掲げた樋口シェフとカラスさんは、試作を重ねながらこの麺のためにパスタ専用小麦粉「ファリーナ・ダ・サローネ」を日清製粉とともに開発。それによって反発する弾力と歯切れの良さを兼ね備えた食感を、実はさまざまなイタリア料理店で楽しめるようになったのだ。

「ファリーナ・ダ・サローネはどんな製麺所でも手間をかけずに製麺できる配合の粉なんです。それに加えてデュラム小麦の香りを感じられる配合であり、麺にコシが出て歯切れの良い食感を生み出す配合でもあります。さらに、ファリーナ・ダ・サローネを使って製麺機で作りやすいような卵・水・オリーブオイルなどの材料のレシピも公開しました」。

 スマホやタブレットのOS「Android(アンドロイド)」をGoogleがオープンソース化したのと同様、粉の配合や製法を製麺所向けに公開した、というわけだ。現在、埼玉、岡山、山口など各県の製麺所が同じレシピで低加水パスタフレスカを製麺しているという。

辛めのアラビアータ 中太麺(トンナレッリ)
トマトのうま味の影から突如押し寄せる唐辛子の辛味、口の中で跳ねて踊るような食感の麺、それぞれがマッチするバランスが楽しい。

目指すはお好み焼きか焼きそばか。パスタは大衆娯楽であるべきだ。

焼きそばやお好み焼きのように、パスタの位置付けを大衆娯楽にまで高めたい。そんなモラルが樋口さんを支えている。「美味しいことを高価格でやるのは大衆娯楽ではない。業務用のパスタフレスカの価格は、製麺所で作る中華麺の3倍以上。これをせめて2倍ぐらいまで抑えることで我々が開発した低加水のパスタフレスカを全国に広める、というのが現状のビジョンです」。

『浅草開化楼』が製造する低加水パスタフレスカを最も多く使っているのは千葉県内で3店舗を展開する「大衆イタリア食堂 大福」だと樋口シェフ。30種ほどのパスタを600 ~1000円程度の価格帯で提供している大衆的なイタリア料理店だ。

「僕も大福さんにお邪魔したことがあるんです。お箸でバジルペーストのパスタ(「小エビのジェノベーゼクリームパスタ(920円)」)を食べて、おいしいねえと言っているおばあちゃんが居たりしてね。…これすごいなぁと。これこそ大衆娯楽だなぁと。僕らが目指しているのは、地方のスーパーで焼きそばなどの生麺コーナーにこのパスタフレスカが並んでいる世界です」。

大衆娯楽の頂点を目指し、樋口さんは日々このパスタを料理する。

樋口敬洋 (ひぐちたかひろ)
1976年東京都生まれ。 2002年からシチリア州での3年間の修業の後に帰国し、2011年から「サローネトウキョウ(日比谷)」を始めとするサローネグループのエグゼクティブシェフ。同グループの『ロットチェント』立ち上げ期はシェフも兼務。

ロットチェント
L’ottocento
東京都中央区日本橋小網町11-9
03-6231-0831
● 11:30~13:30LO 17:30~22:00LO
● 無休

text 小林淳一(コバヤシライス) photo 加藤純平

本記事は雑誌料理王国第303号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第303号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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