「イル・リストランテ ニコ・ロミート」、「ブルガリ ホテル 東京」にオープン


ローマ発祥のハイジュエリーブランド「ブルガリ」によるホスピタリティーの真骨頂、「ブルガリホテル 東京」が2023年4月4日にオープン。ブルガリ ホテルズ&リゾーツ コレクションが手がける「ブルガリ ホテル」はミラノを始め、世界で7箇所に展開し、この東京に誕生したのが8番目である。東京駅八重洲口を正面に見る「東京ミッドタウン八重洲」の40〜45階、東京随一のパノラマが望める絶好のロケーションは、パンデミックで閉塞感に苛まれた人々が新しい時代の幕開けを寿ぐにふさわしい。

40階にはレセプション、スパ、そしてダイニングが二つ。一つは「ブルガリ リゾート ドバイ」でも好評の「SUSHI HOSEKI」、カウンターのみ8席の鮨店で、監修は福岡の三つ星「行天」の行天健二氏。そしてもう一つはメインダイニングである「イル・リストランテ ニコ・ロミート」だ。アブルッツォ州にミシュラン三つ星をもたらした初めてのシェフ、ニコ・ロミートは各地の「ブルガリ ホテル」のガストロノミーコンセプトを監修し、食の“イタリアニティ”(イタリアらしさ)の伝道師としてイタリア料理界を代表する重鎮の1人である。

アブルッツォ州は、ナポリを擁するカンパーニア州とは背中合わせ、ローマからは車で2〜3時間ほどだが、アペニン山脈最高峰を中心とする山岳地帯が大部分を占め、そのおかげで人口が集中する大都市特有の問題に晒されることなく、農業を中心とした牧歌的な暮らしがベースとなっている。それゆえ、イタリアに残された最後の楽園と評されることもあり、食においても郷土色が色濃く、シンプルでヘルシーな地中海的な味覚を楽しめる地である。

ニコ・ロミートは、ローマの大学で経済学を修めた後、金融ブローカーを志していたところ、父親が病気で倒れ、姉のクリスティアーナとともに故郷アブルッツォへ戻った。当時は家族で営んでいた菓子店をトラットリアに変えたばかりで、ニコ・ロミートは倒れた父に代わり、店の譲渡先が決まるまでのつもりであとを継いだ。ところが、料理の面白さに目覚め、本格的に料理人の道へ。ただし、全て独学である。それから7年後にミシュランの1つ星に、2年後に2つ星、2014年に3つ星となり、イタリア料理界に彗星の如く現れた新時代のレストランとして、アブルッツォ州の山あいの地は世界中から美食を求める人々が訪れる場所に変わったのである。

イタリアのファインダイニングシーンにおいて、ハイブランドの担う役割は大きい。なぜなら、ハイブランドはファッションやジュエリーのみならず、それを身につける人のライフスタイル全般も積極的に提案している。そしてホテルやレストランはそのブランドのフィロソフィーが如実に語られる場所であり、ゲストは全身でそのブランドの語りたいことを知ることができる。とりわけ、ダイレクトに五感に訴えているという点では、食に勝るものはない。「ブルガリ ホテル」がニコ・ロミートをパートナーに迎えたということは、ニコ・ロミートの提案する食がすなわちブルガリの意図するライフスタイルのコアの1つということなのだ。

ニコ・ロミートはこのオープンのために初来日を果たした。日本到着以来、オープンを目指して怒涛の日々を過ごす中でも時間を見つけて周辺を見て回っている。「体験するもの全てが新しく、発見の連続。これほど魅力的なところはない」という。しかし今は、ともかく仕事を通して日本を探訪することがメインである。すなわち、日本の素材との出会いが日本との邂逅というわけだ。

「おそらくこれほどピュアな素材は他の土地では見つけられないだろう。その優れた素材を使い、何度も試作を繰り返し、イタリアの味を作ること、つまり、素材の味を覆い隠すことなく、構成も複雑さに陥ることなく、本質を伝えることが私の使命。私の志す料理は、驚きだけを追求するようなものではない。丁寧に、心を込めて作る料理。例えるなら、友人をもてなすために心づくしの料理を用意することに近いと思う。その料理は細やかな研究に基づいているが、見た目はいたって普通の料理だ。しかし、味わえば、軽やかでピュアで、エレガントでありながらパワーも感じられる、そんなイタリア料理の本来の魅力を伝えたいと思っている。そして、ここで食事をしたゲストがイタリアの“一片”を楽しみ、思い出として持ち帰ってくれると嬉しい」。

東京でのシェフを担うマウロ・アロイシオも、ドバイでの経験を通して、現地で入手できる素材を駆使しながらまぎれもないイタリアの味を提供することに心血を注いでいる。素材を選ぶ決め手は、味わいにイタリアらしさを感じるかどうかだという。そういう点ではオリーブオイルや仔牛、パルミジャーノ・レッジャーノといった素材はまだイタリアに頼るしかないが、例えばリコッタは北海道産のものを使っており、日本の素材の可能性には大いに期待をしている。

ニコ・ロミートは正式オープンの後も1週間ほどチームとともにブラッシュアップを続けるという。そして秋には再び来日を予定している。「季節が変われば素材も変わる。我々の料理は素材ありきだから、メニューの全面的な見直しをしなければ」。ニコ・ロミートの存在が、日本のイタリア料理への新たな刺激となり、さらには素材の底力を引き上げる効果をもたらしてくれるのではないか。シンプルで透明感のあるイタリア料理にはそんな力があるように思う。

ブルガリ ホテル 東京
https://www.bulgarihotels.com/ja_JP/tokyo

前菜の前に供されたのは、ヴェジタブル・アブソリュートと呼ぶ、水を一切使わず、野菜から抽出されたエキスのみのブロード。飲めば、眠っていた全神経を呼び覚ますパワーをもたらしてくれる、至極濃厚な一品。

Antipasto all’italiana(イタリア風前菜)は全8種で構成。前半は、「パーネ・エ・ポモドーロ」、「燻製プローヴォラチーズとパスタのフリッタティーナ」、「ミルクとホースラディッシュ、胡椒のクリームを添えた牡蠣」、「チェードロとそら豆のクリームを添えたヒメジのロースト」。

Antipasto all’italianaの後半、「アスパラガスのパルミジャーノ・レッジャーノとレモン」、「ヴィテル・トンネ(仔牛のツナソース)」、「ボリート肉のポルペッテ バジリコのペースト」、「軽く蒸したヤリイカ イタリアンパセリのソース」。

Sfoglia all’uovo con asparagi, piselli, spinaci e salsa di Parmigiano Reggiano 季節の野菜であるアスパラガス、グリンピース、ほうれん草、ポロネギを繊維を残したペーストにし、卵入りのごく薄い滑らかなパスタ生地で包み込んだ。水とパルミジャーノ・レッジャーノだけで仕立てたソースを添えて。

Maialino croccante con salsa all’arancia 短時間ローストした仔豚に、オレンジの絞り汁、ローストのエキス、カラメルで仕立てたソースを絡めた。添えたピュレはじゃがいもとオリーブオイルと水のみ、バターや乳製品不使用。アブルッツォの伝統料理、ポルケッタの発展形。

Gelato di ricotta, aceto balsamico e amarene sciroppate リコッタのジェラートに、イタリアの老舗ファッブリ社のアマレーナのシロップ漬けを合わせ、モデナ産伝統バルサミコをアクセントに。

text: Manami Ikeda  photo: Masakatsu Ikeda

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