食の未来が見えるウェブマガジン

コロナ禍で逆風が吹き続ける中、新たな料理学校を設立したシェフの想い。


イタリアの三つ星シェフが料理学校を建設中!
「誰もが健康で良質な食にアクセスできる未来のために」

「自分が学びたかったこと」の集大成を形にした料理学校の創設

イタリア・アブルッツォで、2013年からミシュラン三つ星を獲得し続けるレストラン「Reale」のオーナーシェフ、アブルッツォ出身のニコ・ロミート氏が、自身のスタイルを継承するための料理学校「アカデミア・ニコ・ロミート」をオープンしたのは、2011年Realeがアブルッツォ国立公園内の、16世紀に建設されたという歴史ある修道院「カサ・ドンナ」に移転したときのことだ。

「人として、またシェフや起業家として成長するにつれて、社会的責任を考えるようになりました。自分にできることは、知識や経験を未来の世代に伝えることなのです」とロミート氏。

2000年にRealeを開業、独学で料理を学んだロミート氏は、「ガストロノミーの料理人としてスタートした若かりし日の自分が学びたかったことを形にした、理想の学校を作りたい」とかねてから思っていたという。「伝えたいのは、イタリア料理の基礎だけではなく、食材への敬意、シンプルさ、バランス、軽さ、地域性やアイデンティの表現など、今の自分の料理スタイルにつながる強い理念です。また料理を通して社会問題の解決法を探ることも大きなテーマです」とロミート氏は話す。

これまでアカデミア・ニコ・ロミートでは、Realeの厨房での研修など、実践的なトレーニングを行いながら、ルールに縛られすぎないファインダイニングのあり方を教えてきた。さらに、2016年にはローマのサピエンツァ大学の科学栄養学部と共同で、ガストロノミーと栄養学の融合を目指す「栄養理解」というプロジェクトをスタート。これは病院のケータリングのための、先進的かつ科学的な職の実施要綱を作成するプロジェクトで、現在のローマの2つの病院でその要綱がケータリングにおける一般的なガイドラインのベースになっている。

イタリア・アブルッツォで2013年からミシュラン三つ星を獲得し続けるレストラン「Reale」のオーナーシェフ、ニコ・ロミート氏。

料理を通して社会問題の解決を図るための「ザ・キャンパス」

今年1月、サピエンツァ大学の協力のもと、新しく着工した「ザ・キャンパス」もその延長線上にある。3700平方メートルの敷地内には、リサーチ用のラボや教室、自然と触れ合える農業実験専用のオープンスペース、自主学習専用のエリアなどを設置予定。パートナーシェフや企業と共に、持続可能性、環境への配慮、社会意識などを喚起する授業を考案中だ。すでにアカデミア・ニコ・ロミートでも授業の一環として、8つの菜園で自分たちが使う野菜を育て始めている。さらに、これからのウィズコロナ時代にもマッチした、世界各国の生徒が授業に参加できるオンライン授業も実施。そのためのコンテンツを作る制作センターも設置されるという。完成は2022年末を予定している。

「COVID-19によって、食と健康の深い関係性が改めて明らかとなりました。新しいキャンパスでは、健康、持続可能性、循環性、連帯、誰もが平等で良質な食にアクセスできる世界への変革についての知識を共有し、様々なレベルで新しい食文化を発展させたいと考えています。

「アカデミア・ニコ・ロミート」の実習風景。

ファインダイニングの考え方が世界の食料問題解決の鍵に

近頃よく取り沙汰される、世界における格差の問題、とりわけ食料受給のアンバランスさの解消も大きなテーマの一つだ。ロミート氏の軽やかでシンプルな料理のスタイルだけでなく、今回新たに栄養理解プロジェクトの成果を反映したケータリングのノウハウを授業で伝えることにしており、それが問題解決の糸口になるとロミート氏は話す。

「食のサスティナビリティは『健康、持続可能性、循環性』という3つの思考に基づくべきだと信じています。ファインダイニングは、健康な食を目指すという意味でも、良質の食を多くの人に届ける機会であるケータリングという意味でもサスティナビリティとつながっている。私たちファインダイニングに関わる者の料理に対する投資や努力を応用すれば、多くの人が健康的で質が高い食を手に入れることができるはずです。」

未来につなぐ「連帯」の価値観

ロミート氏の料理は、革新的なアプローチで知られるが、その料理に使う様々な機器やテクノロジーは、伝統を強化するための手段に過ぎない。時代性を考慮しつつ、伝統の味を研ぎ澄まし、進化させ、未来につなげる。

「何よりも、未来の料理は、単にシェフの創造的なエゴを表現するためだけのものでなく、共有されるべき教育と知識の道具にならなければならないという思いです。世界的にも歴史的な転換期にあるウィズコロナ時代、『人とのつながりがなければ、個人的な成功は、どんなに素晴らしいものであってもかちがないのだ』という”連帯”の価値観が、これからの料理の世界では重要になってくるでしょう」。

text 仲山今日子

本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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