グランシェフから若手料理人へのメッセージ#2 アクアパッツァ


人との出会いが道を開いてくれた

そんなとき「ダル・ペスカトーレ」のオーナー、アントニオ・サンティーニさんが、地方料理を勉強するようにすすめてくれたのです。地方料理は、イタリアの風土、歴史、文化が集結したものです。行く先々で特色のある料理に出合い、それがとてもうまい。なかでも漁師が捕れたての魚介を塩水だけで調理する「アクアパッツァ」に出合ったとき、これが自分の探していたものだと感動した。進むべき方向が見えてきたのです。

振り返ってみると、たくさんのいい出会いがありました。現在の自分があるのは、そうした人との出会いがあってこそ。なかでも「ダル・ペスカトーレ」のアントニオさんはイタリア時代最大の恩人です。上柿元さんからは、人の恩義を大切にするということを学びました。

修業時代は、できないのが当たり前。謙虚に学ばせてもらうという姿勢が必要です。ところが、最近はその点を勘違いしている人が多い。我慢ができない、あきらめが早い、目先の損得で動いてしまう……といったように。

僕がイタリアにいた頃は、とにかく情報がありませんでした。日本人同士、横のつながりもなく、修業先の店を探すのも大変でした。今は、どんな地方のリストランテでも日本人が必ずいる。たとえイタリアに行かなくても、日本でも充分勉強することができる。それは恵まれていると同時に、不幸なことでもあります。

料理だけでなく、歴史や文化も学んで

将来やりたいことをやるために、今、我慢しなければならないものがある。20代は、がむしゃらに勉強する、料理に打ち込む時期なのです。料理だけでなく、その国の歴史、文化を学んでほしい。そうしないと小手先の料理で終わって、幹が太くならない。無国籍料理になってしまう。勉強したいという気持ちがあり、一生懸命やっていれば、力を貸してくれる人が必ず現れます。夢はかなうものです。しかし、そのためにやるべきことがある。それを理解してほしいと思います。

アクアパッツァ
新鮮な魚介を海水で煮るという南イタリアの漁師の料理。塩さえ加えないシンプルな調理法で、魚介の旨味を最大限に引き出している。日高さんの進むべき道のヒントとなった。

リストランテ アクアパッツァ
東京都港区南青山2-27-18 青山エムズタワーパサージュ青山 2F
050-5869-3542
● 11:30~14:00(L.O)ディナー 17:30~21:00(L.O)
● 無休


text by Hisae Nakashima photographs by Fumihiko Watanabe

本記事は雑誌料理王国第186号(2010年2月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第186号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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