「レストランモナリザ」河野透さんの冬の魚の使い方~オオニベ編~


食彩の国・宮崎の「県魚」は
活きのいい「空飛ぶ魚」

スズキの仲間のオオニベと聞いても、関東の人には馴染みが薄い。「僕も3年前まではこの魚を知らなかった」と語るのは、レントランモナリザのオーナーシェフ・河野透さん。宮崎県出身の河野さんは3年前に県から「みやざき大使」に任命された。「マンゴー、生ハム、豚肉、鶏肉など、宮崎県は食彩の王国。でも、オオニベは知らなかった」のだ。オオニベはなかなか獲れない〝幻の魚〟だった。その旨さは〝知る人ぞ知る存在〟だったのだ。スズキと同じような白身魚なので、上品な味わいで、刺身にすると絶品だと言う。内蔵も頭もすべて使った鍋も旨い。

オオニベ【大鰾膠】
地方名: ミナミスズキ(宮崎)
宮崎県沿岸で、晩秋から春にかけて定置網や一本釣りなどで獲れるスズキ目ニベ科の大型魚。宮崎県が全国に先駆けて種苗生産に成功し、同県の「県魚」とされる。

「みやざき大使」として出会った故郷、食彩の王国の大魚

こうしたことを、東京で暮らす河野さんは知らなかった。しかし、事態は変わった。7年前に宮崎県がオオニベの種苗の生産に成功したのだ。そして日向灘を臨む川南の海に放たれ、やがて、川南港産のオオニベが市場に出回るようになったのである。そして、故郷・宮崎と密にかかわるようになった河野シェフは、オオニベと出会った。「これはイケる、と思いましたね。とくに冬が旬なのもいい。じつは日本の魚を上手に使い、フレンチに活かしたい、と思っていたところだったんです」日本の魚介類の豊富さには、ほんとうに目を見張る、と言う。「フランスのマルシェで見かける魚介はせいぜい30種類くらい。日本はその6倍はありますね」。この食材の豊かさが、ショフの創造力をかきたて、新しいメニューが創出される。

「夏はハモを使って、カルパッチョ風に仕立てました。湯引きのお湯の温度は75°Cが最適ですね」日仏の垣根を越えて、〝河野透のフレンチ〟に仕立てるのだ。冬に向かい新しく加わった魚、オオニベ。仕入れ先の「やひろ丸」は、宮崎県の魚介類を空輸で東京へ運ぶ卸業者だ。河野シェフが信頼を寄せる仲間である。「やひろ丸の矢部社長は〝空飛ぶ魚〟と言っていますが、まさにその通り。鮮度抜群。大きい魚だということも使い勝手がいい」と河野シェフ。「レストランモナリザ」の恵比寿本店も丸の内店も、1日の客数100人は下らない人気店だ。だから大型魚のオオニベも、新鮮なうちにはけるのだ。足りないな、と思えば、夕方までに電話一本すれば、翌朝には届いている。

故郷の漁港で獲れたオオニベのローストを、よりおいしく味わってもらうために、盛り付けに工夫を凝らす河野シェフ。

頭は出汁に、身はマリネ。〝幻の大魚〞は人気メニューに

店に届いたオオニベの頭は、スープの出汁に使う。身は血合いをとって、昆布を巻いて一晩マリネする。「ここがポイント。昆布の出汁が浸み込み、身もしまる。ベーコンを巻いて仕上げたローストを召し上がっていただくとき、オオニベの身の存在感が感じられるんです」「宮崎県・川南港産オオニベのローストモンサンミッシェル産ムール貝と蕎麦粉のクレープ添え」のソースをまとったオオニベは、ケーキのように美しい。魚とは思えない。しかし、その食感には、歯ごたえがある魚。ただ淡泊な上品な魚というだけではないのだ。「もちろん素材の良さは活かしますが、私はソースを使いたい。オリーブオイルでは納得できない。フレンチはあくまでフレンチで食していただきたい」。宮崎県が甦らせた〝幻の大魚〟は、星付きの名シェフを得て人気メニューに躍り出た。

宮崎県・川南港産オオニベのロースト モンサンミッシェル産ムール貝と 蕎麦粉のクレープ添え
昆布を巻いて一晩マリネしたオオニベの白身は、丸型のケーキのように美しく成型され、サフランソースをまとう。シェフがデザインした特製の皿の上で、シェフの故郷の魚と、フレンチならではのムール貝と蕎麦粉のクレープがハーモニーを奏で、美味なる〝絵画〞となる

text 長瀬広子 photo 富貴塚悠太

本記事は雑誌料理王国第232号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第232号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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