【NY】約半年ぶりにレストランの店内営業が再開 苦境下でも挑戦に乗り出す新規店に注目


約半年ぶりにレストランの店内営業が再開
苦境下でも挑戦に乗り出す新規店に注目

ニューヨークでは、屋外営業で苦境をしのいできた飲食店が、ようやく9月末から店内営業解禁にこぎつけた。キャパシティを25%に抑え、入店前の検温からマスク着用義務、客の連絡先管理まで条件が細やかに定められており、各店を見回る検査官も大量に投入されている。この秋は営業の拡大が今後可能かどうかを占う正念場なのだ。そのタイミングで新しいレストランも次々に産声をあげている。

 「The Tyger」はソーホーに誕生したアジアンレストランだ。チャイナタウンに若者を呼び込んだ「Chinese Tuxedo」のチームが仕掛けているだけあって、前評判は上々。この店が提供するのは、マレーシアにインドネシア、タイ、日本、中国、インドといったアジア諸国の食材やレシピを駆使させた料理。「プノンペン・フライドチキン」があれば、「ホタテの刺身」もあり、「イカ墨フライドライスの“ナシゴレン”」といったメニューも。ともすれば、「節操のないフュージョンか」と切り捨てられそうだが、どの料理も食材を主役にハーブや香辛料で風味豊かに調理されていて、“アジアのごちそう”として成立している。多国籍なオーストラリアの飲食業界で研鑽を積んだシェフのポール・ドネリーのセンスは確かだ。カクテルのほか、カリフォルニアワイン40種を揃えたワインリストも秀逸。

 ソーホーのショッピングエリアはリテール不況で空き店舗が増えているが、こうした人気レストランの活況がこのエリアに人を再び呼び戻すエネルギーになるはずだ。

肉や魚のメインディッシュのほか、スナックに適した小皿料理も充実。人気の「プノンペン・フライドチキン」(右下、14ドル)はレモンとホワイトペッパーのドレッシングにディップしていただく。
©The Tyger

 一方、外出制限でパン作りが突如としてブームになり、粉やサワードウ発酵種にもこだわるアマチュアベイカーが増えたのは記憶に新しい。奇しくもそんな好タイミングで新たなベーカリーが誕生して話題となっている。

 それが、チャイナタウンのほど近くにオープンした「Mel」だ。数ヶ月ほどレストランなどへの卸売りをメインに営業していたが、9月から店頭販売を週末限定で始めたところ、たちまち大行列の人気ぶりに。

 オーナーのノラ・アレンはブルックリンの「Roberta’s」や「The Standard Hotel」を経て独立した若き女性ベイカー。彼女のパン作りのモットーは、穀物の“実”からパンの“塊”となるまでの工程を一貫して行う「Berry to Loaf」にある。ライ麦や冬小麦、蕎麦などエアルーム種を厳選した穀類は東海岸のファームから仕入れ、パン生地の味わいと発酵力を高めるためにも店でその都度製粉しており、他店にはないこだわりを追求。

 そうしてできる自慢のサワードウブレッドのローフ、クロワッサン、クイニーアマンなどのペストリーは、繊細な見た目とは裏腹に、生地には穀物のダイナミックな美味しさが息づいている。噛むほどに爽やかな酸味がうま味へと変化し、パンの美味しさは穀物にある、ということがわかる。そんな個性的なパンを求めて、開店時間の午前8時前から行列ができ、閉店時間の午後3時を待たずに昼には全商品が売り切れとなってしまう。人気に後押しされて店の営業日が増えることを祈るばかりだ。

行列嫌いのはずのニューヨーカーも、この店のサワードウブレッドを目当てに大人しく並んで待つ。クロワッサンやシナモンロールのほかフォカッチャもある。
©Mel / Nora Allen

小松優美
ニューヨークの食、デザイン、カルチャーを分野に活動ライター&プロデューサー。飲食店の激戦区イーストビレッジ住まいで体重増加中。



本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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