新しい感性、新しいおいしさ。「オルグイユ」


主役はシャンパーニュ
食材の潜在力を活かしドリンクに合わせた味を

オルグイユ 加瀬史也さん

外苑西通りから一本奥まった南青山の閑静な住宅街。「シャンパーニュに合うガストロノミー」をコンセプトとしてオープンした、フランス料理店「オルグイユ」。マンションのドアのような扉の横に、表札程度に小さく店名が書かれている。隠れ家のようなレストランだ。

シャンパーニュに特化すれば戦えるかもしれない

オーナーシェフは、フランスの星付きレストランや「カンテサンス」で経験を積んだ加瀬史也さん。哲学を専攻していた大学在学中に料理に目覚め、この道に進んだ。

シャンパーニュ地方の名店「レ・クレイエール」で修業をしていたとき、シャンパーニュのおいしさや面白さに開眼した。その頃から「自分の店を持つときは、シャンパーニュに特化した店にしよう」と決めていたという。

シャンパーニュは、スティルワインに引けを取らないくらい味わいの幅が広い。加瀬さんは、シャンパーニュだけで、コースを通して料理と合わせられると踏んだ。

さらに、「僕は負けず嫌いな性格なんで」と前置きしつつ、「バランスよくワインを揃えるだけでは他の店に勝てない。でも、シャンパーニュだけをきちんと揃えたら、グランメゾンとも戦えるんじゃないかと思ったんです」と語る。そのまなざしは、やさしくも熱い。

70種類以上のシャンパーニュのボトル。グラスも4種類以上を用意。白ワインは置かず、赤ワインはシャンパーニュ地方のコトーシャンプノワを4種類のみと、とにかくシャンパーニュ地方に徹底している。

普通なら料理に合わせてワインを選ぶが、加瀬さんの場合は逆。ゲストの飲み物に合わせ、料理の味を調整していく。

「僕は必ず、調理の最後にビネガーやレモン汁などの酸を加えます『。赤い実』や『ナッツ系』など、それぞれのシャンパーニュが持っているニュアンスに近い酸を料理に加えることによって、シャンパーニュの味に一気に寄せていくんです」

料理は最後まで「完成」させず、ゲストが選んだドリンクを見ながら、それに合わせて仕上げていく。「見た目は隣のテーブルと同じ料理だけれど、実はソースの味付けが違う」ということが日々行われているのだ。

シャンパーニュ、コトーシャンプノワ、ロゼ・デ・リセなど、料理に合わせたペアリングは3種3600円、5種6000円。日本ではなかなかお目にかからない貴重なシャンパーニュも多数ある。ボトルは1本9800円~25万円。

食べた翌朝が心地いい カラダにやさしい、軽い料理

店内は、客席との仕切りのないオープンキッチン。カウンター2席、テーブル10席の、まさにシェフの自宅で食事を楽しんでいるような親近感のある空間だ。

一昔前のレストランは、7〜8人のスタッフで30席前後が主流だった。それが20席になり、これからは少人数でまわせるよう、10席前後のキャパシティのお店がどんどん増えていくはず。多くの店の中からお客さまに選んでもらうためには、「自分たちの色をいかに出せるか、がすごく大切。特色を持たないと存在が薄れてしまう」と加瀬さん。

シャンパーニュに特化する他にも、こだわっていることがある。それは、フランス語の「レジェ(軽い)」。つまり、食べた翌朝に体調がいいと感じられる、カラダにやさしい、軽い料理のこと。旬の食材を用い、必要以上に塩分を使わずに作る。野菜は意外に糖質が高く、重くなるため、ブイヨンは野菜を加えずに仕上げるなど、おいしいだけではなく、健康のことにも気遣った料理だ。料理はひねりすぎない。

「食材の持っているポテンシャルを活かし、邪魔しない調理法や味付けにする。僕の料理は、気付いたら食べ終わっている感じ。スーッとカラダに入ってくる料理なんです」

鳩肉のコンポジション
鳩の異なる部位を、違った調理法で仕上げたひと品。付け合わせのアンディーヴは、焼いたものと、生のものをホワイトバルサミコに浸けて真空にし、味を浸透させた。青菜は奈良の伝統野菜の大和まな。産地で見つけた珍しい野菜だ。

Fumiya Kase
1985年東京都生まれ。22歳で恵比寿の「レストラン・ヒロミチ」へ。25歳で渡仏し、三ツ星「レ・プレ・ドゥジェニー」、二ツ星「レ・クレイエール」で27歳まで修業。帰国後、「カンテサンス」を経て、今年2月独立。

オルグイユ
L’orgueil

東京都港区南青山 4-3-23 オリエンタル 南青山201
03-6804-5942
12席
http://orgueil.net

名須川ミサコ=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国第263号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第263号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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