高級住宅地として知られる松濤。その静かな一角に建つ松涛美術館の隣に、星誠さんの「オステリアアッサイ」はある。開業から3年目を迎え、「少し落ち着きました」と言うが、この店は、オープンと同時に予約の取れない繁盛店となった。その成功の根底には、星さんの綿密な人生設計図があった。
星さんは調理師学校へ入学していない。つまり、高校や大学時代の彼の選択には、料理人という道はなかった。しかし23歳のとき、イタリアンの店でアルバイトを経験。「君が作ったの? おいしいね」とお客から前菜のサラダを褒められ、身震いした。それが夢を芽生えさせた。もともと大好きだったイタリアで修業し、帰国後はイタリアンの店を開こう。星さんの独立への設計図は、見知らぬ客のひと言からスタートしたのだ。
2年間の経験を経て、調理師免許を取得した。費用は3年間で蓄え、26歳でイタリア・フィレンツェへ。現地では飛び込みで自分を売り込み、仕事先を探した。それから9年間。三ツ星の名店から小さな居酒屋まで、イタリア各地で働いた。丸ごとイタリアを肌身に染み込ませて帰国した。
そして、37歳から約1年をかけて、開業のための具体的な準備に入った。コンセプトは、「アッサイ」という店名に込めた。南イタリアの方言で、「たくさん」という意味だ。南イタリアでは、食事のときは「アッサイ」。「たくさん食べよう」と言う。
「たくさん食べて、たくさんイタリアを感じていただきたい」と星さん。もうひとつのコンセプトは、料理からサービスまですべてひとりで切り盛りする店にすること。じつは、独立前に人を使う責任ある立場でシェフを務めていたのだが、「その気苦労は大変だった」のだ。
発泡スチロールで厨房の見本を作り、ひとりで効率よく働けるように、シンクやテーブルの高さ、長さを割り出した。
人手がないのにランチを始めたのは、子どもたちを幼稚園や学校へ送ったあと、女同士でおいしいものを食べたい、と言うこの街の女性たちの要望を吸い上げた結果だ。
キッチンと一体となった”星さんのイタリア”がたくさん詰まったこの空間には、ご近所さんを始め客足が絶えない。それは、独立へ向けての十数年にわたる用意周到な”熟成期間”のたまものなのだ。
材料(1人前)
スパゲッティ(1.7㎜ )…80g /トマトソース…140㏄/鷹の爪…1本/ニンニク…適量/エクストラヴァージンオリーブオイル、パルメザンチーズ…各適量/岩塩…少々
作り方
オステリア アッサイ
OSTERIA ASSAI
東京都渋谷区松濤2-14-12
03-6407-9979
● 12:00~14:00LO、18:00~21:30LO
● 月、第3日休
● 13席
長瀬広子=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国第243号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第243号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。