Au Chant du Coq/少年時代の夢を叶えた、 地元密着型パティスリー。


フランスで活躍する日本人シェフを紹介する連載企画。第三回目は、パリで一度夢をあきらめ帰国、日本で成功するも夢を諦められず、再びベルサイユの地で成功を収めた「Au Chant du Coq」の金子美明さんをご紹介します。

人生を決めたのは、中学生の頃に書店で手にとったパリのパティスリーガイド。まるで宝石のように美しいお菓子の写真にとりつかれ、パティシエになることを決意した。 日本で職人としての経験を積み、同業者の夫人とともにパリの地を踏む。ラデュレ、プラザ・アテネ、パトリック・ロジェ、そして今も親交の深いアルノー・ラエールの元で働き、多くの技術とレシピを学んだ。しかし、当時はもらえる給与もわずか。経済的な理由から4年の滞在を経て帰国せざるを得なかった。「パリで自分のパティスリーをやれなかったことが、ずっと心残りでした」。

(左写真・手前から)Saint-honoré、Paris-Brest、Narchis。

 日本に戻り、東京・自由が丘で「パリ・セヴェイユ」をオープン。みるみるうちに全国的に知られる人気店となった。開店から10年が経ち20人もの社員を抱える立場になったころ、「守るべきものも多くなったが、今やらないともうチャンスは訪れない」と、パリで店を持つ計画を始めた。パリに来る度に不動産屋を訪れ、70件近くの物件を見たが、どれも条件が合わず断念。諦めかけていたところ、自分の条件にぴったりのベルサイユの物件に出合った。

店名は「雄鶏のなきごえ」。雄鶏はフランスのシンボルでもあります。
Escargot Cannelle (手前)、Kouign Amann(左奥)、Escargot Pistache(右奥)

 「もともとパリの街中よりも郊外で店をやってみたかったので、直感でここに決めました」。そして、2013年9月に念願のオープン。始めた当初はなかなか客がつかず苦労したという。「住民は保守的で新しい店になかなか興味を持ってくれず、『日本人がどうしてこんな所で店を?』などと言われることもありました」。

しかし徐々に客が増え、6年目を迎えた今では常連がひっきりなしに訪れる、地域で愛される店に。「東京ともパリとも違い、流行に追われず店が続けられるベルサイユは自分に合っていたようです。この場所で、自分らしいお菓子とパンを集中して作っていきたい」。(恵)

店先には1816年から飾られているブーランジュリーの看板が。古くなり煤けていたものを、常連客のアンティーク看板修復師がベルサイユ市に掛け合って許可を取得、修復してくれたのだという。

店先には1816年から飾られているブーランジュリーの看板が。古くなり煤けていたものを、常連客のアンティーク看板修復師がベルサイユ市に掛け合って許可を取得、修復してくれたのだという。

Au Chant du Coq
Adresse : 98 rue de la Paroisse, 78000 Versailles
TEL : 01.3950. 7909
アクセス : RER Versailles-Château-Rive-Gauche駅 SNCF Versailles Rive-Droite駅
火午後・水休 7h30-13h30/15h30-19h30

取材・文=吉田 恵理子ワイン&フードライター。コピーライター。
1975年生まれ、フランス・パリ在住。お茶の水女子大学博士前期課程修了、人文学修士(西洋哲学)。都内の広告制作会社を経て、コピーライター、ライターとして独立。フランス国立ランス大学HEG(美食に関する最先端研究機関)に留学。英国ワイン&スピリッツ教育財団(WSET)アドヴァンスト資格所持、英国酒ソムリエ・アソシエーション(SSA)認定酒ソムリエ。著書に『ランチタイムが楽しみなフランス人たち』(産業編集センター)、『ワインを飲めばすべてうまくいく 仕事から恋愛まで起こる10のいいこと』がある。ワイン専門誌、パリの日本語新聞「オヴニー」に寄稿。Twitter:@erikomri_wine


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