洒落た街並みが続き、世界各国の大使館が点在する東京・広尾。ピッツェリア「パルテノペ広尾店」は2000年、この街でオープンした。
以来15年、人気店であり続ける秘密は、ナポリピッツァとナポリ料理を愛する料理人渡辺陽一さんの熱い想いにほかならない。渡辺さんは、現在のピッツェリアブームの火付け役でもあった。
そもそも日本ではアメリカ経由で入ってきたピザは知られていたが、ナポリピッツァは、まだ市民権を得ていなかった。
「ナポリっ子にとってピッツァは、カンツォーネ(歌)のようなもの。歌を聞くと人は、その時々を過ごした場所や一緒にいた恋人を思い出しますね」と渡辺さんは言う。なるほど、ピッツェリアは、その舞台の役割を果たすのだ。そこで味わうピッツァも料理も、店そのものにも"ナポリの風"が、心地よく吹き抜けていなければならない。渡辺さんの立ち上げた広尾店は、そんなナポリのピッツェリアであり続けている。
このため、まずは1984年にナポリのピッツァ職人たちが設立した「真のナポリピッツァ協会」の日本支部を立ち上げ、「真のナポリピッツァ」の普及に努めた。材料は小麦粉、酵母、塩、水のみを使い、生地は手だけを使って伸ばす。400度以上の薪窯で一気にしっかりと焼く。この間1分30秒。モチモチとした生地の食感を残しながらも、香ばしさは格別。まず、イタリア人が「これだ!」と叫んで店の常連となり、本場のピッツァは、たちまち評判を呼んだのだ。
「パルテノペ」と店の名前を冠した特製ピッツァは、ベースのトマトソースに、チェリートマトと水牛のモッツァレッラを合わせている。「チェリートマトのフルーティーな味わいに合うのは、何といっても水牛のモッツァレッラですね」。水牛だと値段は張るが、ここは譲らない。
日本各地を走り、これぞと思う食材を探し当てる。例えば、明石産のタコ。気に入ったが値段が高い。現地の漁師と直談判し、不揃いのものを手に入れる。こうするのは、「納得のいく新鮮な食材を使いながらも、お客さまに提供する価格については、庶民感覚を大切にしたい」からだ。
看板料理の「パスタと白インゲン豆のスープ煮田舎風」をはじめ、50種類のメニューには、ナポリのマンマの愛と伝統が宿っている。職人の技と庶民感覚、そして”ナポリの風”を大切にする渡辺さんのポリシーが人気店の根底を支えているのだ。
パルテノペ 広尾店
Pizzeria Partenope
東京都港区南麻布5-15-25 広尾六幸館1F
03-5798-3355
● 11:30~14:00LO(平日)
12:00~14:30LO(土日祝)
18:00~22:00LO
● 無休
● アラカルト324円(税込)~
● 38席
www.partenope.jp/shop/hiroo.html/
長瀬広子=取材、文 村川荘兵衛=撮影
text by Hiroko Nagase photos by Shohee Murakawa