編集部が推す次世代イタリア料理シェフ#5「クリマ ディ トスカーナ」佐藤真一シェフ


「定番食材のトマト」と「シェフらしさやイタリアらしさを表現」という2つのテーマを設定し、6人のシェフに挑んでもらった。そこから浮かび上がってくるのは、彼らのイタリア料理に対する明確な哲学だ。


クリマ ディ トスカーナ
佐藤真一

1978年、青森県生まれ。1998年に渡伊以降、各地の名だたる名店で研鑽を積む。帰国後、アクアプランネットグループの総料理長に就任し、ベルギー料理やフランス料理も経験。「リストランテ イルデジデリオ」の料理長を9年間勤めた後、2017年に「クリマ ディ トスカーナ」のオーナーシェフ兼ソムリエに。写真で手に持っているのは、キタッラを作る道具。イタリア修業時代からずっと作り続けているバヴェッテも、このキタッラで作っているそう。

イタリアの風土や歴史、文化を鑑み
自分のイタリア料理を表現したい

小さい頃から歴史に興味があって、縦軸だけではなく横軸で日本史と世界史を比較するのが好きでした。イタリア料理も歴史を紐解くと多くの発見があります。例えばトスカーナはオレンジの産地ではないにも関わらず、鴨のオレンジ煮という料理がある。何故かと言えば、トスカーナには貴族文化があり、地場のもの以外の食材を輸入してきた歴史があるからなんですね。何故この料理が存在するのか、そこにどのような歴史があるのか。そうやって思いを巡らすことで、イタリア料理の本質が見えてくるように思います。食材も料理も、日本とイタリア、そして佐藤の融合(フュージョン)であっても、混乱(コンフュージョン)にならないように気を付けています。ただの創作料理ではイタリア料理とは認めてもらえないので、なぜイタリア料理なのかを自分の中できちんと咀嚼し、スタッフにも伝えるように努めています。

それにしてもイタリア料理は奥が深い。パスタひとつとっても、その言葉に秘められた多くの意味は今も自分の中で咀嚼している最中で、飲み込み理解するまでに至っていません。まだまだ謎が多いですし、私が知らないパスタもあります。イタリア料理への興味は、尽きることがありませんね。

Al Pomodoro

トロフィエ

「咀嚼が鍵」もっちりパスタ

今回、違ったタイプの生パスタ2つを選んだ佐藤シェフ。こちらはトマトそのものよりその出汁が主役のパスタだ。日本と世界の歴史を同時に見るのが好きだったことから、メディチ家が栄えたフィレンツェに20歳で渡る。当時パスタ場を任されていた「エノテカ・ピンキオーリ」で日々作っていたため、自信があるのがこのトロフィエ。グルテンをしっかりと出した、もっちりとしたテクスチャーにコントラストのある柔らかな食感の食材ではなく、あえて噛みごたえのある旬の伊勢海老を選び、ドライトマトの出汁と咀嚼する過程で、異なったうま味が出合い、口の中で味が完成するように仕上げた。自家製ドライトマトだけでなく、あさり、鰹節、煮干しの魚介ベースに、伊勢海老出汁をプラスすることで、トスカーナでの定番、赤ワインと魚介のペアリングが可能になる。日本の鰹節を使うが、煮出すことでアミノ酸のうま味を出すのが目的で、香りを移す日本料理とは対極の手法。

Loro Itariano

ムジェッロ風カッペレッティ

グルテンを出さない優しい食感のパスタ

秋冬はイノシシ、春になってきたらウサギと、季節を映す万能パスタ、カッペレッティ。トスカーナ州の中でも山あいで、イノシシを使うムジェッロ地域風に仕上げた。エミリア-ロマーニャ州、イモラの二ツ星「サン・ドメニコ」での修業時代、毎日昼休みを使って通った、地元のマンマたちが営むパスタ店でパスタ作りを学んだ。なるべくグルテンを出さないように作った生地の、とろけるテクスチャー。「これが、エミリア-ロマーニャのパスタの味だ」。心に残るそんな優しい食感を強調するため、滑らかに裏ごししたジャガイモ、グラナパダーノ、エシャロット、生クリームを詰め込んだ。旬のポルチーニ、肩やウデ肉など、うま味と食感のある部位を使った豚のラグーと合わせ、噛む度に滑らかなパスタとの食感の対比も楽しめるパスタに仕上げた。日本の湿気は生パスタ作りには大敵で工夫が必要。パスタごとに異なる数種類の粉をブレンドしながら、イタリアでおいしいと思った「味の本質」を、今日も追求していく。

クリマ ディ トスカーナ
東京都文京区本郷1-28-32-101
TEL 03-5615-8258
昼12:00-13:30 LO
夜18:00-21:00 LO
日曜、隔週月曜休
https://www.clima-di-toscana.jp/



text 馬渕信彦、仲山今日子 photo 堀清英、花村謙太朗

本記事は雑誌料理王国2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする