パン粉でつくる歯ごたえのあるパスタ「ピサレイ」をご存じですか?


スイスで学んだ北イタリアの家庭料理
パン粉で歯ごたえのあるパスタを作る

ビーニ 中本敬介さん

「僕の料理をイタリア料理と言ってしまうのは申し訳なくて」と中本敬介さんは言う。なぜなら、中本さんはスイス・ザンクトガレンのレストラン「セグレート」の立ち上げから料理長を8年間務めたシェフなのだ。もちろんイタリア料理の腕を見込まれての抜擢だった。名を知られるようになったのは、料理に日本人としての個性を出し始めてから。独創的でモダンな料理はスイス人の心を捉え、書籍まで出版した。中本さんはそれ以前にイタリアで4年の経験を積んでいたが、多国籍な「セグレート」の仲間に教わった料理も多い。例えば、ピサレイ。エミリア=ロマーニャ州のごく一部の町でしか作られていない、伝統ある家庭料理だ。「エミリア=ロマーニャで働いていた時には知らなくて、スイスで覚えたんです。パスタは日本のほうとう、すいとんみたいなもの。粉と水だけで、地方によっていくらでも違う料理になるんですよ」。

ピサレイは、エミリア=ロマーニャ州のピアチェンツァという都市の郷土料理だ。残り物のパンを使ったのが始まりで、「これが作れないと嫁に行けない」とまで言われるほど、家庭の食卓に浸透している。

現地では、ピサレイとウズラ豆をラルド(豚の背脂)とトマトなどで煮込む「ピサレイ エ ファゾ(ウズラ豆)」がもっとも一般的。中本さんはリストランテのひと皿として、この素朴な料理を分解、再構築した。

北イタリアの郷土料理に日本の季節をまとわせる

まず、ピサレイにはパンではなく自家製チャバッタを細かく挽いたパン粉を使う。これによりムラができず、パンのグルテンの作用で強い歯ごたえのあるパスタとなる。ラルドはソースではなくハーブ類と合わせてペーストにしておき、タマネギ、グラナパダーノ・チーズとともにピサレイを和える。ウズラ豆はアサリのだしで豆乳感覚のスープに加工し、別添えで提供する。
「ラルドのイノシン酸、アサリのコハク酸、チーズのグルタミン酸が重なり合って、旨味を増す組み合わせが好きなんです」

それでいて、決して邪魔し合わない分量が計算された、論理的な料理だ。鮮やかなグリーンに、優しいウズラ豆の色が流し込まれる様は、見た目にも美しい。口溶けのいいピサレイとハーブのあと口もさわやかで、夏らしい、軽くてエレガントなひと皿に仕上がっている。
「少量多皿のコースの中で、ひと息つけるような料理にしました。パスタは完成された料理ですから、自然な流れを大切にしたいんです」

10皿もの料理が次々に出る「ビーニ」だからこそ、パスタ料理は前後の繋ぎを活かすものでありたい。そんな考えが現れている。

イタリアンをベースにしながら、柚子を使ったり、ヒヨコ豆で豆腐を作ったり……。見たことのない料理を作る中本さんは、スイスの食通たちに驚きを与えてきた。

そして、日本の特徴は何といっても四季。中本さんも素材と季節感を大切にする。京都の地に店を構えたのも、大原の食材が気に入ったためだ。「よく使う基本的な素材ほどこだわりたい」と、毎週朝市に出かけ、新鮮な無農薬野菜や平飼いの有精卵を仕入れている。
北イタリアの郷土料理と日本の四季。幸せな出会いがここにある。

ピサレイの作り方

[作りやすい分量]
●小麦粉 00粉…450g
● パン粉 自家製チャバッタを粉砕…150g
●牛乳 200cc
●お湯 約150cc
●塩 広島産の藻塩 1つまみ
● オリーブオイル 20cc

パンではムラになるため、中本さんは細挽きのパン粉を使用。湯で馴染ませてから、60~70℃の牛乳、ムリノ・マリーノ社の00粉などと混ぜ合わせる。常温で30分ほどねかせて成型。メニューにより材料の分量は変わる

ここがポイント!

弾力のあるパン粉入り生地を指の腹で強めに転がす
湯で戻したパン粉を混ぜ込むので、強いグルテンによって歯ごたえのある生地になる。深いくぼみができるよう、強く素早く、指の腹で押しながらピッと転がすのが成型のコツ。

【レシピ】ピサレイ エ ファゾ

タマネギに火が通り過ぎないよう、次々に食材を加えて一気に仕上げる。ゆで上がりの早いピサレイは、でき上がりを逆算して投入。盛り付けだけでなく調理も実に繊細だ。

材料
◦ピサレイ(作りやすい分量)
小麦粉…450ℊ/パン粉…150ℊ/牛乳…200㏄/湯…約150㏄/塩…1つまみ/エクストラヴァージンオリーブオイル…20㏄
◦スープ(作りやすい分量)
アサリのだし…1ℓ /ウズラ豆…100ℊ/オリーブオイル…約100㏄
◦ペースト(作りやすい分量)
自家製の塩漬け背脂(ラルド)…100ℊ /ニンニク…1/2片/イタリアンパセリ…5ℊ /バジル…2.5ℊ
◦ソース(1人分)
タマネギ…1/4個/グラナパダーノ、イタリアンパセリの粉(パコジェットで粉砕)…各大さじ1 /ペースト…大さじ1 1/2
◦盛り付け
バジル、イタリアンパセリの花…各少量

作り方
1.ピサレイを作る。パン粉は湯でなじませておく。牛乳は60 ~70℃に温め、その他の材料と混ぜ合わせる。まとまったらひとつにして30 分ほど常温で寝かせる。棒状に伸ばしてカットし、指で成型する。
2.スープを作る。オリーブオイル以外の材料をミキサーで攪拌し、沸騰してから8 ~10分煮出す。シノワで濾してオリーブオイルを加えながら攪拌し、乳化させる。アサリの塩分が足りなければ塩(分量外)を加える。
3.ペーストの材料をミキサーで攪拌し、パッセする。
4.タマネギのみじん切りに3を大さじ1.5ほど加え、タマネギが少ししんなりするまで炒める。0.8%の塩水を沸かした湯で1を1分30秒~3分ゆでて加え、火を止める。グラナパダーノ、イタリアンパセリの粉を加えて乳化させるよう和える。5.盛り付けをする。皿の片側に4を盛り、バジル、イタリアンパセリの花をのせる。皿の反対側に温めた2を注ぐ。

味のベースはハーブとラルドのペースト。ウズラ豆は軽やかな仕上がりになるよう、だしと攪拌してから加熱する。イタリアンパセリは熱で風味が変わるので、パコジェットで粉砕したものと生の2種を使用。
ゆで時間は、パスタが浮き上がるまでの約1分半。甘味が出過ぎないよう軽く火入れした
タマネギ、ペースト、チーズ、イタリアンパセリを順番に加えながら混ぜる。
Keisuke Nakamoto

1971年広島県出身。1998年に渡伊、トスカーナ、ピエモンテ、エミリア=ロマーニャのレストランで経験を積む。2002年スイスの「セグレート」開業より8年間シェフを務める。
2010年に「エノリテカ イ ビーニ」をオープン。2013年3 月「ビーニ」に改名。

ビーニ
Bini
京都市左京区浄土寺上南田町91-3
☎075-203-6668
●12:00~15:00、18:00~23:00
●月休、隔週日の夜休
●コース 昼4500円、7000円 
夜7000円、10000円
●12席 www.restaurant-bini.com
※サービス料別。要予約。

藤田アキ=取材、文 畑中勝如=撮影

本記事は雑誌料理王国253号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は253号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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