海外のプラントべース事情 NEW YORK


多様なバックグラウンドを持つ人々が集うNYのプラントベース事情をのぞいてみよう。

野菜礼賛の美食とカジュアル路線のプラントベース

 ステレオタイプのアメリカ料理は肉ありきで、野菜の存在感が薄い? それも今は昔、近頃ニューヨークのレストランにおいて野菜は皿の上のスターであり、シェフの才能を映し出す鏡となっている。

 この地で野菜の地位が高まったのは、ここ10年ほどのこと。ジャン=ジョルジュ・ヴォンゲリスティンがファーム・トゥ・テーブルの野菜を主役にした「ABC Kitchen」で成功を収めたのが2010年。以来、野菜のクリエイティブな扱いに重きを置いた“ベジ・フォワード”な店が増え、コールラビ、キクイモなどレストランで扱う野菜の幅も広がっていった。また、アマンダ・コーエンが「Dirt Candy」でベジタリアンレストランとしてはじめてNYタイムズ紙から二つ星を獲得し、野菜料理を美食として昇華させた功績も大きい。

 この野菜礼賛の流れが礎としてあったからこそ、プラントベースブームが瞬く間に浸透したのだ。その火付け役は、ヴィーガンファストカジュアル「By Chloe」だ。女性受けするビジュアルがSNSで拡散し、人気が全米に飛び火。一部のコアな人向けという位置付けだったヴィーガンを身近な存在に変えたのだ。

菜食料理の世界的権威マシュー・ケニーが率いる「Bar Verde」はプラントベースのメキシコ料理を提供。端正な佇まいのフラウタスはカシュークリームが味の決め手。

 今では、若い世代を中心にプラントベースは当たり前の選択肢となった。非ベジタリアンがベジバーガーを食べ、オーツミルクを購入する。健康志向はもちろん、「美味しいから」という理由が人気を支えている。メキシカンに四川料理とプラントベースのジャンルも広がっているが、今後はファインダイニングとして勝負する店も増えていきそうだ。

COVID-19の渦中にプラントベース需要が高騰

国内の食肉工場で集団感染が発生、一時閉鎖となったことから肉不足が囁かれ、スーパーでは代替肉の売り上げが5月2日までの9週間で265%も上昇。「Impossible Burger」はスーパーの最大手「Kroger」での販売を開始し、販売店舗数が150から1700に。「Beyond Meat」の第2四半期収益は昨年から69%も跳ね上がった。肉不足が解消された現在も2社の商品は人気だが、肉に比べて割高のため、失業者が増えるなか今後も売れ続けるかどうか静観したい。

豆が新トレンドフード!ヒヨコ豆スナックに注目

実は今、豆がタンパク源としてアツい。スーパーではあらゆる豆の水煮缶が売られており、全米の消費量はこの5年で70%も上昇している。特にヒヨコ豆の人気が著しく、フムスのほかスナックとして加工された商品も多い。「Hippeas」はオーガニックのヒヨコ豆パフとチップスで大人気のメーカー。ジャンクなチーズ味やBBQ味を揃えているが、商品すべてヴィーガン、グルテンフリーで高タンパク。罪悪感なしの優秀スナックなのだ。

プラントベースの最新カジュアルレストラン

ベジタリアンシェフ、アマンダ・コーエンの「Lekka Burger」は、プラントベースバーガーの新星。中国の伝統的な肉もどきにインスパイアされたというパテは、香辛料が織りなすスモーキーな香りとジューシーな食感が秀逸。一方、クイックに楽しむスポットなら「October」。サラダやカリフラワーフライドライスなど、健康的かつ変化に富んだ料理をテイクアウトで楽しめる。こうしたカジュアル店が街中に浸透し、プラントベースはもはや特異なものではなく、一般的な存在になっている。


text 小松優美

本記事は雑誌料理王国312号(2020年10月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は312号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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