シンガポール発・植物由来のチキン「TiNDLE」が上陸〜日本の代替肉事情は、次のフェーズに進むか?

「プラントベースミート」「代替肉」という言葉が注目を集める昨今。飲食店でもこれら、植物性の材料から作られた“肉(状の素材)”を見かけるようになった。 今回はシンガポールのスタートアップ企業「Next Gen Foods」が手がける植物由来のチキン「TiNDLE(ティンドル)」を紹介。その味の印象、使い方のコツ、サステナビリティへのアプローチなどについて伝える。

「プラントベースミート」「代替肉」という言葉が注目を集める昨今。飲食店でもこれら、植物性の材料から作られた“肉(状の素材)”を見かけるようになった。今回はそんな中でも、シンガポールのスタートアップ企業「Next Gen Foods」が手がける“植物由来のチキン”「TiNDLE(ティンドル)」を紹介。試食会で実際にTiNDLEを食べて感じた印象、使い方のコツ、サステナビリティへのアプローチなどについて伝える。

プロのシェフに選ばれるクオリティをめざす

今回日本に上陸することとなった“植物由来のチキン” TiNDLE。シンガポールにて2020年に設立されたスタートアップ企業、「Next Gen Foods」が世に出した製品だ。発売からまだ1年ほどしか経っていないが、すでにアジア、北米、中東、ヨーロッパの500軒以上のレストランで採用されており、その中にはミシュランの星付き店やホテルも含まれるという。

「RIDICULOUSLY GOOD(驚きの美味しさ)」のキャッチフレーズは自信の現れ。「徹底的に試行錯誤しました。味に妥協はありません」と、ブランド開発マネージャーのブライアン(Brian NG)氏。
「RIDICULOUSLY GOOD(驚きの美味しさ)」のキャッチフレーズは自信の現れ。「徹底的に試行錯誤しました。味に妥協はありません」と、ブランド開発マネージャーのブライアン(Brian NG)氏。

TiNDLEの材料はすべて自然由来。大豆、小麦グルテン、小麦デンプン、ココナッツオイル、メチルセルロース(増粘剤)など9つに絞り、シンプルな構造としているのが特徴だという。

またTiNDLEは、「シェフとともに、シェフのために」がモットー。開発チームには、プロのシェフを重要なメンバーとして迎えている。実際の開発にあたっては、味、香り、テクスチャーの向上をめざし、とりわけ焼いた時の香ばしさの創出に力を入れたという。

ドイツ風 TiNDLE 唐揚げ。TiNDLEにオリジナルの調味料でしっかりと下味を入れる。カラッと揚げたテクスチャーが印象的。
ドイツ風 TiNDLE 唐揚げ。TiNDLEにオリジナルの調味料でしっかりと下味を入れる。カラッと揚げたテクスチャーが印象的。

はっきりとした味付けやテクスチャーを加えて

今回の試食会ではドイツ風 TiNDLE 唐揚げ、TiNDLE ハンバーグステーキ、TiNDLEラップサンドが提供されたが、いずれでも鶏肉特有の繊維のテクスチャー、なめらかな舌触りが印象的で、充分な食べごたえも備えた仕上がりとなっていた。鶏肉そのもののクオリティをストイックに追究するレストランは別としても(一般的な鶏肉でも、この志向のレストランで勝負できるものは限られる)、鶏肉にメリハリのある味つけを施す、あるいはカリッとした力強い食感を加えるなど、鶏肉にはっきりとしたプラスαの要素を加えて楽しむ料理では、充分に受け入れられる内容だと感じた。

なお、今回試食で提供された3品の料理の印象としては、ドイツ風 TiNDLE 唐揚げは、実際の鶏肉より柔らかく感じられ、その分カリッとした衣でバランスをとったイメージ。TiNDLE ハンバーグステーキは、実際の鶏肉のハンバーグと遜色ないソフトな食感、風味、香ばしさのある仕上がり。TiNDLE ラップサンドでは、グリルにしたTiNDLEから、鶏肉らしい味わい、食感がストレートに感じられた。

現在TiNDLEは、日本においては期間限定で、クラフトビールやドイツ名物を気軽に楽しめるモダンドイツ料理レストラン「Schmatz(シュマッツ。首都圏と名古屋で39店舗展開)」で食べることができる。提供されるメニューは、前述のドイツ風 TiNDLE 唐揚げと、TiNDLE ハンバーグステーキ(TiNDLEラップサンドは試食会限定)。TiNDLEのチームは、「ベジタリアン、ビーガンの人たちだけではなく、チキンが大好きな人もターゲットにしている」と語る。

TiNDLE ハンバーグステーキ。TiNDLE にさまざまなハーブやスパイスなどを加えた奥深い味わい。とろけるカレー風味のチーズとともに。
TiNDLE ハンバーグステーキ。TiNDLE にさまざまなハーブやスパイスなどを加えた奥深い味わい。とろけるカレー風味のチーズとともに。

環境負荷軽減の切り札としての代替肉

ところで「販売開始から1年あまりで、世界で500店以上のレストランで採用」というTiNDLEの好調ぶりは、一定数のプロのシェフたちが植物由来チキンに求めるクオリティを、TiNDLEがクリアしていることを示しているといえるだろう。また、同時に、世の中における代替肉の需要が、かなりのスピードで広がっていることを反映するものだともいえそうだ。

なぜ今、代替肉が盛り上がっているのか——それは「畜肉は環境に負荷を与える」という研究結果が近年クローズアップされるようになったから。たとえば牛を1kg太らせるには11kg、豚は7kg、鶏は4kgの穀物が必要。その穀物の生産のために大量の地下水が使用され、森林などの自然を潰しながら新規の農地が開発される。また畜肉の飼育や飼料の栽培の過程で、温室効果ガスが多く発生する……

このように、さまざま意味で環境に負荷を与える畜産業は、今後、世界的に縮小していかざるを得ないと予想されているのだ。

そこで登場するのが、畜肉に比べて圧倒的に少ない環境負荷で生産できる代替肉である。TiNDLEの生みの親であるNext Gen Foodsも、「革新的でサステナブルな食品の開発」を目的に設立された企業。実際、植物から作られる“鶏肉”は、動物性の鶏肉に比べ、土地の利用74%削減、温室効果ガス排出量88%削減、水の利用82%削減が可能だという(2020年のBlue Horizonのレポートによる)。

TiNDLE WRAP。ティンドルをグリルで香ばしく焼き、たっぷりの野菜、チーズとともにトルティーヤ生地でロール。鶏肉らしい風味がシンプルに感じられる。※一般販売の予定はなし
TiNDLE WRAP。ティンドルをグリルで香ばしく焼き、たっぷりの野菜、チーズとともにトルティーヤ生地でロール。鶏肉らしい風味がシンプルに感じられる。※一般販売の予定はなし

日本でも代替肉は「味で勝負」の時代が来る?

健康志向から、あるいは環境負荷を減らす意識から、代替肉を生活に取り入れる人は今後増えていくだろう。問題は、それらの人たちが満足するおいしさを提供できるか、だった。特に日本は、代替肉を受け入れる素地が欧米ほどできてはいない、というのが通説だ。しかしTiNDLEからは、こうしたハードルをクリアする可能性が感じられた。

世界的に見ると、代替肉の開発は、単に代替肉を実現するという段階をとうに過ぎ、いかにおいしさを実現するかに重点が移っているようだ。これから日本にも、「味で勝負」の代替肉が浸透していくかもしれない。

TiNDLE日本語版ホームページ
https://tindle.com/jp/
問合せ先  hello@tindle.com

text:柴田泉

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