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人気タイ料理店でも使われる、話題の青いコメ。その正体とは?


会員制交流サイトであるSNSによって、様々な映えが拡散する昨今。新たに注目されているのが“青い食べ物”です。最初のきっかけは、台湾でブームとなり、2017年に日本でも人気となったバタフライピーティー。青いハーブティーのことで、当時は美容にも良い飲み物として紹介されました。

青の正体は、バタフライピーというタイ原産の植物です。実は今、このバタフライピーを使った新たな食べ物が注目されています。日本人の常識を覆す意外な食べ方とは?その魅力に迫ってみましょう。

南国の植物 バタフライピーとは?

マメ科の植物であるバタフライピー(Butterfly Pea)の原産はタイ。現地では「アンチャン(อัญชัน)」といいます。東南アジアを中心とするアジア諸国では、バタフライピーの花のエキスを抽出してお菓子や料理に活用しています。花は家の庭先や路地などに咲いているので珍しい植物ではありません。

タイ・バンコクの公園に咲いていたバタフライピー。蝶々のような形をしたマメ科の植物であることからバタフライピー(蝶豆)の名がついた。

バタフライピーの花を煮出すと鮮やかな青い色になります。これはアルカリ性の色素成分で、ライムやレモンの成分であるクエン酸を加えると酸性となって、赤紫色に変化します。この特性をいかした色鮮やかなハーブティーがSNS映えすると人気になりました。

バンコクのカフェで提供されたバタフライピーティー。オレンジジュースを加えて、さらに色のグラデーションを楽しめる。バタフライピーティーはおしゃれなカフェメニューという感じ。

ハーブティーとしての需要は高く、多くの国で愛飲されています。バタフライピー自体に味や香りはほとんどないので、色を楽しむためのものといえるでしょう。

伝統料理や菓子にも「青」

東南アジアでは、飲み物だけでなく、食べ物にもバタフライピーの青が使われていて目をひきます。特に米との相性がよく、米粉と一緒に練り込んだり、タイ米やもち米を炊く時や炊いた後に混ぜたりして使われています。

カノム・チョームアンはもち米粉入りの生地を青くして蒸したもの。小籠包や焼売にあるようなひき肉餡が入っていて、バラのような模様をつける。

宮廷料理の前菜として人気の高いカノム・チョームアンは、生地を練る時にバタフライピーから抽出した青い液を加えます。タイ滞在歴6年。現在は日本でタイカルチャー料理家として活動されている下関崇子さんにお聞きすると、「バタフライピーは食紅のような感覚で、様々な料理やお菓子に使われています。白玉や寒天を色づけしたり、青い春雨で作ったヤムウンセンなども、タイのグルメ番組やレシピサイトでよく見かけます」と教えてくださいました。

また、タイの隣国であるマレーシアも同様にバタフライピーの青い食べ物があります。マレーシア滞在歴4年。「マレーシアごはんの会」代表の古川音さんと私が以前、マレーシアの古都マラッカを旅した時も色鮮やかな伝統菓子の青に出会いました。

ココナッツミルクの白とパンダンの葉の緑が印象的な米粉の蒸し菓子であるクエ・タラム。マラッカでは、さらに青を加えていた。

古川さんにバタフライピーについて改めてお聞きすると、「マレーシアでは、特定の料理、お菓子に青を使います。庭で栽培していてすぐに使うこともありますが、ニョニャ菓子の場合は手間がかかり、ココナッツミルク入りだと日持ちがしないので、家では作らず、専門店で購入するのがほとんど」とのことです。

「ニョニャ」とは、マレー半島にやっていた中国人の子孫の女性の呼び名で、その家庭料理をニョニャ料理(菓子)といいます。青と白のコントラストはこの地方の伝統料理で使われるニョニャスタイルの特徴でもあるのです。

お二人の話を聞いている中で現地の人たちの共通の感覚が青は「おいしい色」、「食欲をそそる色」だというのです。日本では「食欲減退の色」とされているので真逆の感性。青がおいしい色だなんて驚きです。

青いごはんの南国料理に注目!

そして今、日本で話題となっているのがバタフライピーで色づけした青いごはんです。

鯖のカオヤム。タイレストラン「Chompoo(チョンプー)」で提供されている青いごはん。お店の看板メニューだ。
魚の発酵ソースをかけて食べる。青いごはんにライムを絞ると青から赤紫に変化するのも楽しい。

青いごはんを食べられるのは、東京・渋谷区にあるタイ料理店「Chompoo(チョンプー)」です。ごはんのまわりには、香味野菜を中心に10種類以上もの具材が揃っていて、これを全部混ぜて食べます。「ごはん(カオ)を混ぜる(ヤム)」を意味するタイ式ライスサラダのカオヤムがベースとなっています。干しエビ、レモングラス、ミョウガなど、口の中で小刻みよく食感が響き、香りが広がります。見た目からも女子力がアップしそうな一品です。

プーケット島周辺の南タイの料理であるカオヤムは、青に限らず、カレーに使うターメリックで黄色くしたり、白いまま提供したり、レストランによって色も様々。陸でつながっているお隣マレーシアの北部でも同様に食べられていて(ナシクラブ)、こちらも色をつけることがあります。(下関さん、古川さん談)

赤いごはんの赤飯は見慣れていても、青いごはんを初めて見る人にはちょっとした衝撃かもしれません。

また、百貨店イベントで提供され、話題となったのが、マレーシアの青いごはん、ニョニャ・ナシレマッです。

青いニョニャ・ナシレマッ。東京・西武渋谷店で限定出店(3月17日~29日)され、「マレーアジアンクイジーン」のマレーシア人シェフが調理を担当した。

ナシレマッは、マレーシアの定番の朝食で、まさに国民食です。ココナッツミルクで炊いた白いごはんに、煮干し(イカンビリス)や唐辛子ソース(サンバル)を混ぜて食べるのが基本スタイルです。そこに、おかずを添えることもあります。古川さんによると、「ナシレマッのニョニャスタイルとして、ニョニャ料理店で提供されています。いつごろ登場したのかは定かではありませんが、伝統的なスタイルというより、ここ10年ぐらいで登場したスタイルです」。

日本で清涼感のある色に青が代表されるように、南国の東南アジアでも、青はおいしいだけでなく、涼しげな印象を与えてくれます。今年の夏はバタフライピーの青でおいしい食のシーンを演出してみましょう。

伊能すみ子
アジアンフードディレクター/1級フードアナリスト
民放気象番組ディレクターを経て、食の世界へ。アジアンエスニック料理を軸に、食品のトレンドや飲食店に関するテレビ、ラジオなどの出演及びアジア各国料理の執筆、講演、レシピ制作などを行う。年に数回、アジア諸国を巡り、屋台料理から最新トレンドまで、現地体験をウェブサイトにて多数掲載。アジアごはん好き仲間とごはん比較探Qユニット「アジアごはんズ」を結成し、シンガポール料理を担当。日本エスニック協会アンバサダーとしても活動する。著書『マカオ行ったらこれ食べよう!』(誠文堂新光社)。



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