東京・大阪の有名フランス料理店でキャリアを積んだシェフの江角光太郎さん。愛媛県松山市の出身だが、むしろ地元を離れて修業するなかで、愛媛の食材の豊富さを実感した。自身の店で使う食材のおよそ8割が愛媛産。魚介から野菜、ジビエまでも、愛媛県内の各地からそれぞれ届く。まさに地産外消である。
実は江角さんは修業の途中、一時松山市に戻り、中央卸売市場の水産卸会社で働いていたことがある。三方を海に囲まれる愛媛県。市場にはすべての港の魚介が集まる。毎日競りに掛かる魚介を見て仕入れて捌いて、飲食店等に卸していた。シェフの目利きも魚捌きもかなりのものだ。「愛媛県産の鯛といっても、獲れる場所によって身質も味も全然違う」
実際に各港の鯛を食べ比べした。「好きなのは今治の宮窪の真鯛。潮流が速く水深約メートル、地形は砂の山地で、えさが豊富なんです」
今治市の宮窪漁港の漁師、藤本純一さんから仕入れている。藤本さんは獲れた鯛をすぐに出荷せず、1日生け簀の中で泳がせる。これを活け越しといい、この1日で魚体が落ち着きを取り戻し、食べていたえさも体内から排泄して奇麗な状態になる。活け越しをするのは手間だし、設備も必要だ。「だから、そこまでする漁師さんは少ない。でも実はこれが鯛の味に作用するんです」。
同じ「愛媛県産」の鯛でも、漁場によって身質も違い、釣った漁師のその後の扱い方によって味に大きな差が出ることを市場で知った。本当に見極めるべきは「誰が、どこで釣り上げ、どのように扱っている魚なのか」だと江角さんは考えている。
1日泳がせた鯛は海水を入れたビニール袋に入れ、エアポンプを付けて梱包し常温で輸送する。「温度が下がりすぎても魚体に影響するので、気温に応じて藤本さんが、凍らせたペットボトルを入れるなど温度を微調整してくれるんです」。届いたら自分で手早く神経を締め、内蔵を取り除き、最低でも3日程熟成させてから使う。「身の色が透明と白の間くらいになって、しっとりしてきたら食べごろです」。シンプルにポワレにしても、フワっとした優しい食感で香りもふくよかになる。
水揚げ後も丁寧に扱われ、届く鯛。神経を締めたら熟成を見て最上の状態で料理される。同じ鯛を買っても扱い方が肝要ということだ。
愛媛県今治宮窪産真鯛のバプール カーボロネロとたいらぎ貝のソース
頃合いまで寝かした鯛の身で、愛媛県西条市産のトマトで作る自家製セミドライトマトと火を通したカーボロネロを巻いて、レモンタイムの香りのオイルを纏わせて、ふっくら蒸し上げる。カーボロネロとたいらぎ貝のソースと、エビの殻で作る泡のソースを添えてまとめた春の皿。
鯛が暴れ熱を持たないよう手早く作業。
Kotaro Esumi
1980年愛媛県生まれ。高校の調理科卒業後、調理師学校へ進学。卒業後東京のフランス料理店で4年間修業。故郷愛媛県松山市の水産卸会社へ入社。約3年間松山中央卸売市場内で働き、魚介の処理や目利きを習得。その後大阪「ル・ポンドシエル」へ入店。11年に独立。
三好彩子=取材、文 太田恭史=撮影
本記事は雑誌料理王国2014年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。