12月12日、東京都南青山にあるレストラン「NARISAWA」にて、「SAKE HUNDRED×NARISAWA ペアリングランチ」が開催されました。
NARISAWAは、言わずと知れたミシュランガイド東京星二つ店であり、アジアベストレストラン50の初代No. 1。ワールドベストレストラン50には11年連続選出されている、アジア、世界でも注目を集める名店です。
日本の里山にある豊かな食文化と先人たちの知恵を、シェフ・成澤由浩さんが独自のフィルターを通して「イノベーティヴ里山キュイジーヌ」というオリジナルジャンルの料理で表現。人と自然が共存し、寄り添いながら生きていくという自然(じねん)の精神に基づく、Beneficial and Sustainable Gastronomyを提供しています。
今回のペアリングランチを企画したSAKE HUNDREDは、「心を満たし、人生を彩る」をブランドパーパス(存在価値)に掲げ、比類なき価値を提供すべく邁進している新進気鋭の日本酒ブランド。最高峰の酒造技術を持つ酒蔵との共同開発によるオリジナル日本酒を展開しています。
2018年に登場したばかりの新しいブランドながら、わずか1年でフラッグシップ銘柄の「百光 – byakko-」がIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2019の純米大吟醸酒部門にてゴールドメダルを受賞。続くフランスの日本酒コンテスト「Kura Master 2019」でもプラチナ賞を受賞するなど、その評価は日々高まっています。
このたび、SAKE HUNDREDが成澤さんの持つ伝統と未来を繋ぐ想いに共鳴し、スペシャルイベントが実現。日本酒と美食のコラボレーションの詳細をレポートします。
この日のコースのスタートを飾ったのは、SAKE HUNDREDを代表する「百光」のシリーズ商品「百光 別誂」を朱塗の盃で。引盃とは、日本の伝統的で正式な器であり、大切な食事の始まりを飾る儀式に欠かせないもの。白い和紙と円い朱色の盃で、日の丸が表現されています。
「百光 別誂」は、今年の11月にできたばかりの新商品。圧倒的な透明感と上質な味わいはそのままに、原料米には兵庫県産山田錦を用い、酵母もアレンジ。甘味・旨味・酸味の新たなバランスを追求した食中酒です。
こちらを、よく冷やした5℃でいただきます。一口含んだ瞬間、訪れる至福。この後、どのような料理とのペアリングが登場するのか、期待が高まります。
次にテーブルへ運ばれてきたのは、発酵中のパン生地。キャンドルの火と水によって、最後の発酵が進んでいく様子を目の前で眺めてもらうという演出です。パンが酵母の働きによって発酵していく姿を見てもらうことにより、目には見えない微生物の存在を再確認してほしい、という成澤さんのメッセージが込められています。
「森を食べる」をコンセプトに、白神山地で採取した天然酵母を用い、栗の木の粉が混ぜ込まれているこの森のパンのコンセプトは2010年から世界に発表され、季節によって練り込む素材が変わります。この日は福島県産りんごが使われていました。
そして、徐々に膨らんでいく様子を興味深く眺めた後は、石焼で焼き上げて提供されます。焼き立てパンに添えられているのは、「苔」と名付けられているバター。
少しためらいながら木製のナイフを入れると…確かにバターです。
北海道産バターに、ブラックオリーブの粉末とほうれん草の葉緑素を吹きかけて苔石に見立てたというもの。フレッシュなバターにオリーブの塩味が合い、もっちりと弾力のある森のパンの生命力溢れる味わいによく合います。後味はさっぱりしていて、パンがなくなってからも残さず食べ続けてしまいました。
順番が前後しますが、パンを焼いている間に運ばれてきたのがこちら。成澤さんが直接テーブルまで来てサーブしてくれました。
白くふわふわの衣の内側には、たっぷりのカラスミ。自然薯は佐賀県「ささき農園」で無農薬栽培されているもの。カラスミは、福岡産ボラの卵を天草の塩に漬け、日本酒・昆布で塩抜きした自家製。アツアツの揚げたてを和紙に包んで提供されるので、手に持ったままかじっていただきます。
こちらにペアリングされたのは、「思凛」5℃。山田錦を精米歩合18%まで磨いてクリアな味わいに仕上げたお酒を、オーク樽で貯蔵。最初の一口を含むと、ふわっと鼻腔を抜ける森林のニュアンス。
自然薯のとろみが、そんな思凛の優雅な樽香、奥深いコク、クリーミーな質感と見事にマッチ。カラスミの上品でふくよかな塩味も相まって、温かい料理と冷たいお酒を交互に口に含みながら、見事なペアリングを堪能しました。
SAKE HUNDREDブランドオーナーの生駒龍史さんが「このペアリングを発見した時は震えた」と絶賛していたのがこちら。
アオリイカのねっとりとした食感と、噛むたびに広がる甘味。これが、本来は食後に楽しむ「デザート日本酒」がコンセプトの天彩の濃密な質感・甘味と見事にマッチ。さらにキャビアの洗練された塩味と、すだちのフレッシュな酸味も、天彩の持つ豊かな酸味と重なり、多層的な味わいを演出……。
ここでどうしても成澤さんに聞いてみたくなったのが、アオリイカが纏っている衣。ごくごく薄くありながら驚くほどクリスピーで、アオリイカの食感との対比もお見事。なんでも、−20℃で1週間ほど凍らせた北海道産小麦を使い、冷たいまま衣にして揚げているとのこと。素材の味を全く邪魔しない油も、新鮮で良質な油を使っているとわかります。ちなみに京都の米油とのことでした。
愛知県知多半島の先端から生きたまま届くワタリガニをあんかけにしていただく贅沢な一品。茹でたてのワタリガニを用い、出汁には3年熟成の利尻昆布と鹿児島垂水の天然温泉水とを合わせて24 時間加熱せずに取った昆布水を使用。
ワタリガニ、イクラ、甘ダイ、湯葉の織りなす、柔らかな甘みと透き通る旨味が楽しめるこの料理には、「百光」と「百光 別誂」の2種類が、少しだけ温度を上げた10℃で用意されました。
さっそく飲み比べながら味わってみると、同シリーズの百光と百光 別誂の味わいの違いがよくわかります。どちらも素晴らしいペアリングですが、個人的には百光 別誂とのペアリングが、より好みでした。
“五穀豊穣” とあるように、豊作への願いと収穫への感謝を込めた一皿。ピンクとグリーンのソース2種は、ピンクが米麹・紅麹のソース。グリーンが白味噌・木の芽のソース。その上に散らした玄米と黒米のあられが食感のアクセントになっています。
もう少し詳しくご紹介すると、ピンクのソースには長野県南箕輪村の中村さんが栽培している完熟雪見米と、千葉県寺田本家の米麹の発酵ペーストと梅干、赤紫蘇を使用。緑のソースには京都山利の白味噌と木の芽を使用。発芽玄米と黒米は佐賀県産とのこと。
そして山口県萩から届いた8kg台のサワラは、前述の完熟雪見米の藁でスモークをかけた後、炭火焼きで仕上げられています。こちらには再び、オーク樽の香りが特徴の思凛5℃をペアリング。サワラの繊細な旨味、そして燻製の香りが、思凛の樽香や旨味としっかり調和しました。
ついにメインの魚料理の登場です。静岡県戸田沖から毎朝生きたまま届けられる赤座海老を使った、NARISAWAのシグネチャー料理とも言える一皿。
提供する直前にさっと蒸した赤座海老を、丸鶏・豚もも肉・生ハムを長時間蒸して取ったクリアなスープ“ラグジュアリーエッセンス”をお椀仕立てとともに。三重県の近藤さんの無農薬野菜を合わせることで、海の力強さと大地の幸を味わう構成になっています。
こちらにペアリングする日本酒には、40℃に温めた百光がぐい呑みに注がれて出てきました。繊細な味わいはそのままに、温めることで旨味がしっかりと膨らんだ百光が、上品な出汁のスープにぴたりと寄り添い、赤座海老の旨味と絡み合います。
ここで登場したのは、クエの揚げ物。山口県萩で罠漁にて生捕されたクエを、福岡県糸島ミツル醤油の無農薬濃口醤油、千葉県寺田本家の純米酒、静岡県三島の生姜のタレに漬け込み、外側はカラッと、内側は驚くほどジューシーさを保ち揚げられています。
「クエと天彩の口内調味をお楽しみください」との説明通り、まずは料理をひと口。熟成させたクエの甘味が染み出します。そこへ天彩を含むと、今度は上質な甘味が増幅。飲み込んだ後は、天彩の優雅な余韻と、粉山椒のスパイシーな後味が続く心地よさ。
極上の日本酒と料理のめくるめく登場に、「飲んでもあまり変わらない」と言われがちな筆者も、さすがにほろ酔いを自覚し始めました。ここでテーブルに、炭に置かれた黒い塊が運ばれてきました。炭の上に炭…?という疑問すら抱くことを忘れ、夢中でスマホのカメラを向けていました。
見せていただいたのは、カットする前の神戸ビーフ。肉の表面を覆っていた黒いものは、炭化させた下仁田ネギでした。高級ネギの下仁田ネギを、あえて炭化させて使う贅沢さ。神戸ビーフは、兵庫県三田で名人と呼ばれる勢戸さんの育てた牛とのこと。
じっくりと焼き上げた神戸ビーフに炭化したネギをコーティングすることで、肉の旨味を閉じ込めつつ香りを付けています。かつて、炭が欠かせないものであった頃の暮らしを、再び思い出して欲しいとの成澤さんの願いが込められています。
こちらに合わせる日本酒として、25年ヴィンテージ日本酒「現外」が登場です!
中心をレアにしっとりと焼き上げた神戸ビーフの甘味、炭の香ばしさ、塩、野菜の苦味が一体となった味わいは、現外の甘味・酸味・苦味・旨味が複雑に絡み合う味わいと見事に調和。メインに相応しいスペシャルなペアリングが、ここに再現されていました。
SAKE HUNDREDの日本酒とのペアリングは神戸ビーフでクライマックスを迎え、この後は食後のデザートが続きます。
こちらは、京都丹波藤原さんの和栗で作った、お汁粉を想起させる温かなソースに、香り豊かなアルマニャックのジェラートを乗せて。冷と温が同時に楽しめる一皿。
福島県の後藤さんのふじりんごを、そのまま器に使った贅沢なデザート。パイ生地を焼きキャラメリゼしたジェラードをタルトに見立てたタルト・タタン。国産カルヴァドスで仕上げたりんごのホイップクリームと合わせて。
締めくくりには、一口サイズの最中と、温かいお茶。お茶は福岡県の無農薬八女茶。富山の最中で北海道産赤小豆、白玉、抹茶ゼリーが中に入っています。
SAKE HUNDREDとNARISAWAの奇跡のコラボレーションとも言える今回の企画。奥深きペアリングの面白さと、日本酒という飲料の懐の広さを改めて思い知らされました。そして、このコラボが決してその場限りのものではなく、日本酒と美食がこれから向かって行く未来と、その大きな可能性を指し示してくれたように思います。
SAKE HUNDRED
NARISAWA
http://www.narisawa-yoshihiro.com
取材・文 =田中はなよ