成功への絶対条件3ヶ条 レストラン バスク 深谷宏治さん


3ヶ条その2:探究心を持つこと

3年間の修業を終えて日本に帰る時に、ルイスとした約束は、「バスクの人が来ておいしいと思う、本物のバスク料理を作る」ということ。帰国した1978年は、日本ではスペイン料理すら一般的でなく、バスク料理が持つ独自のアイデンティも、全く知られていなかった。

「レストラン バスク」のスペイン特産の生ハムの一皿

スペイン特産の生ハムは、当時東京ですら、まともなものがなく、函館では全く手に入らなかった。ちゃんとしたものが欲しいなら、自分でやるしかない。ハムはただの干し肉ではなくて、発酵食品なんです。
スペインの生産者を見学すると、「スダール」と言って、温度管理をして肉に汗をかかせて、日本の鰹節のように、カビ付けするんです。発酵は気をつけないと食中毒の原因になりかねませんから、本当に気を配ります。函館は年間で30度を越す気温になる日は数日しかない。この土地だからこそできたものでもあると思います。

生ハムだけでなく、アンチョビも実は発酵食品なんですが、出回っているものの中には、発酵が失敗して腐敗になっているものも多く、気に入ったものがなかったので、近くで鮮度の良いイワシが獲れるから作ってみたら、スペインよりもおいしいものができた。ちゃんと作られたアンチョビは臭くないのですよ。

パンも、ルイスのところで作っていたのは、無塩バターをつけて食べるので、生地に塩がしっかりと入った、甘くないパン。パン屋さんに作って欲しいと頼んだのですが、断られたから、作ることにしたのです。ないなら作ればいいじゃないか。それが、原点です。今は、高価で希少な、手をかけなくてもそれだけで完成された素材を使うことに誇りを感じている料理人の方が多いように思いますが、料理人とは素材頼りではなく、手間と時間をかけて普通の食材をおいしくする技術を持つ職人のことを指すと思います。

スペイン品種の野菜が手に入らなかったので、店の玄関や裏で、無農薬で野菜を育てています。例えば、季節になると、アスパラガス は、お湯を沸かしておいて、オーダーが入ったら摘んできてさっと茹でる。摘みたて、茹でたてのフレッシュな香りと味は、自家菜園のあるこの場所だからこその贅沢です。

修業していた当初、ヨーロッパの火入れは、かなりしっかり目で、僕が野菜を茹でると「生だ」なんて言われましたけれど、最近ではどこも、くたくたには茹でなくなりましたね。学生時代から環境問題に興味がありましたから、畑に穴を掘って、抜いた雑草や、調理で出る野菜の切れ端などを埋めてコンポストにしています。外にゴミを出さない循環型農業は、もともと自分の理想とするものでもありますし、食の未来にも繋がっていくと信じています。

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